↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイコパスプリンス  作者: 山空
24/32

第24話「小さな変化」

「うーん……あ、ゲームセンター行かない?」


「ゲームセンター?」


「うん。久しぶりに行きたいなって」


「いいよ。行こっか」


「やった、ありがとう」


朝倉さんは微笑むと、ゲームセンターの方へ歩き始めた。


僕もその隣に並んだ。


近づくにつれ、賑やかな音楽やゲームの効果音が聞こえてきた。


店内に入ると、朝倉さんは辺りを見渡した。


「あ、白瀬くん。あれ見て」


朝倉さんが指さした先には、たくさんのぬいぐるみが並んだクレーンゲームがあった。


「わあ、これ可愛い」


彼女が指さしたのは、白いウサギのぬいぐるみだった。


「ちょっとやってみようかな」


朝倉さんは硬貨を入れると、真剣な表情でクレーンを操作し始めた。


「よし……ここ」


クレーンが下り、ぬいぐるみを持ち上げた。


「あ、取れたかも」


しかし、出口へ運ばれる途中で、ぬいぐるみは落ちてしまった。


「あー、惜しい」


朝倉さんは残念そうに画面を見つめた。


「もう一回やってみる」


その後も何度か挑戦したけれど、ぬいぐるみはなかなか取れなかった。


「うぅ……全然取れない」


「僕も一回やってみようかな」


「え、白瀬くん得意なの?」


「いや、全然。取れる気はしないけど」


「じゃあ、お願い」


僕は硬貨を入れ、クレーンを操作した。


……この辺りかな。


特に自信があったわけではない。ただ、なんとなく位置を合わせてボタンを押した。


クレーンが下り、ぬいぐるみを持ち上げる。


そして、そのまま出口まで運んでいった。


……え?


ぬいぐるみが取り出し口に落ちた。


「えっ、すごい! 一回で取れた!」


「……え、ほんとに?」


僕自身、取れるとは思っていなかった。


朝倉さんはぬいぐるみを取り出すと、僕の方を振り向いた。


「白瀬くん、遊園地のときも取ってくれたよね」


「今回は本当にたまたまだよ」


「あはは! でも、ありがとう」


朝倉さんはぬいぐるみを抱きしめた。


「あ、そうだ」


「ん?」


「白瀬くん、レースゲームしない?」


「レースゲーム?」


「うん。遊園地のゴーカート、二回とも負けちゃったでしょ?」


朝倉さんは少し得意げに笑った。


「今日はそのリベンジ」


「また負けちゃうんじゃない?」


「えー、まだ始まってもないのに」


「だって、前は二回とも負けてたし」


「もう、今度こそ勝つからね」


朝倉さんは少し頬を膨らませた。


僕はそんな彼女を見て、思わず笑ってしまった。


僕たちは並んで置かれたレースゲームの筐体に座った。


「負けた方がジュース奢りね」


「え、そんなルール聞いてないけど」


「今決めたの」


朝倉さんはいたずらっぽく笑いながら、ハンドルを握った。


僕もハンドルに手を置き、画面に表示されたカウントダウンを見つめた。


レースが始まると、僕が少し前に出た。


「あー、ちょっと待って」


朝倉さんは画面を見つめながら、ハンドルを動かしていた。


しばらくは僕がリードしていたものの、最後のカーブで曲がりきれず、壁にぶつかってしまった。


「あっ」


その隙に、朝倉さんの車が僕を追い抜いていく。


慌てて追いかけたけれど、追いつく前に朝倉さんがゴールした。


「やった、勝った!」


朝倉さんは僕の方を向いた。


「最後、ぶつかってたね」


「うん。完全にミスった」


「じゃあ、ジュースよろしくね」


「はいはい」


「何が飲みたい?」


「んー、何にしようかな」


朝倉さんは近くの自動販売機を見つけると、その前に立った。


「あ、これにする」


彼女が指さしたのは、いちごミルクだった。


「じゃあ、ちょっと待ってて」


僕は自動販売機に硬貨を入れ、いちごミルクを購入した。


「はい、どうぞ」


「ありがとう、白瀬くん」


朝倉さんは受け取ったいちごミルクを両手で持ち、一口飲んだ。


「おいしい」


その表情を見て、僕も少し笑った。


「ねえ、白瀬くん。どこか行きたいところないの?」


「うーん……じゃあ、ちょっと寄りたいところがあるんだけど」


「どこどこ?」


僕が向かったのは、雑貨屋だった。


「へえ、何か買うの?」


「まあ、一応」


店内に入ると、僕は文房具や小物が並ぶ棚へ向かった。


ちょうど新しいブックカバーが欲しいと思っていたところだった。


棚には、黒と茶色のブックカバーが並んでいた。


僕は二つを手に取り、見比べた。


……どっちにしようかな。


「ねえ、白瀬くん」


「ん?」


振り向くと、朝倉さんが少し離れた棚の前で手を振っていた。


「これ見て。可愛くない?」


朝倉さんが手にしていたのは、小さな花の飾りがついたヘアピンだった。


「うん、可愛いね」


「でしょ。こういうの好きなんだよね」


朝倉さんはヘアピンを手に取ったまま、しばらく眺めていた。


「買わないの?」


「うーん、今日はもういろいろ買っちゃったしなあ」


少し迷ったあと、朝倉さんはヘアピンを棚へ戻した。


僕は再び手元のブックカバーに目を落とした。


……まあ、黒にしようかな。


茶色のブックカバーを棚に戻したところで、朝倉さんが隣に来た。


「ねえ、白瀬くん」


「ん?」


「私も同じの買っていい?」


「え? うん、いいけど……今日はもういろいろ買ったんじゃないの?」


「これは別だから」


朝倉さんは当然のように答えた。


「そ、そっか。朝倉さんも本読むんだね」


「えっ? あ、うん。いや、普段はあんまり読まないんだけど……」


「ちょうど最近、本を読み始めようかなって思ってたんだ」


「そっか。じゃあ、一緒に買おっか」


「うん」


朝倉さんは黒いブックカバーを手に取った。


「そういえば、白瀬くんってどんな本読むの?」


「んー、小説が多いかな」


「へえ。じゃあ、今度おすすめ教えてね」


「うん、いいよ」


「白瀬くん、私、もうちょっとほかのものも見てきていい?」


「うん、いいよ」


朝倉さんはブックカバーを持ったまま、別の棚へ向かった。


僕は先に会計を済ませることにした。


しばらくして朝倉さんも会計を終え、僕たちは雑貨屋を後にした。


「ねえ、朝倉さん」


「ん? どうしたの?」


「これ、よかったら」


僕は小さな袋を朝倉さんに差し出した。


「え? 私に?」


「うん。開けてみて」


朝倉さんは不思議そうに袋を覗き込んだ。


「……えっ、これ、さっきのヘアピン?」


「うん。可愛いって言ってたから」


「え、いつ買ったの?」


「朝倉さんがほかの棚を見てる間に」


朝倉さんはヘアピンを手に取ると、しばらく見つめていた。


「……ありがとう、白瀬くん。すっごく嬉しい」


「気に入ってくれたならよかった」


朝倉さんはヘアピンを大切そうに袋へ戻した。


「大事にするね」


「うん」


朝倉さんは小さな袋を手に、僕の隣を歩いていた。


「そういえば、修学旅行が終わったらすぐテストみたいだね」


「うん。この学校、行事のあとにテストが多いよね」


「あはは! ほんとだよね」


朝倉さんは少し笑ったあと、僕の方を向いた。


「ねえ、白瀬くん」


「ん?」


「また、一緒に電話しながら勉強してもいい?」


「うん、もちろん」


「ほんと? よかった」


朝倉さんは微笑んだ。


気づけば、ショッピングモールの外は夕暮れに包まれていた。


「もうこんな時間なんだね」


朝倉さんは時計に目を向けた。


「うん。今日は結構遊んだね」


「楽しかったなあ。白瀬くんは?」


「僕も楽しかったよ」


「よかった」


僕たちは駅へ向かって、ゆっくりと歩き始めた。


駅に着くと、改札の前で立ち止まった。


「今日はありがとう、白瀬くん」


「こちらこそ。楽しかったよ」


「また一緒にお出かけしようね」


「うん、ぜひ」


朝倉さんは微笑んだ。


「じゃあ、また学校でね」


「うん。またね」


朝倉さんは僕に手を振ると、改札の向こうへ歩いていった。


家に帰り、寝る準備を済ませた頃、スマホに朝倉さんからメッセージが届いた。


『今日はありがとう。すっごく楽しかった!』


『こちらこそ。僕も楽しかったよ』


すぐに返信が届いた。


『ねえ、今大丈夫?』


『ん? 大丈夫だけど』


すると、朝倉さんからビデオ通話がかかってきた。


……どうしたんだろう。


通話に出ると、画面には朝倉さんの顔が映った。


「白瀬くん」


「どうしたの?」


「ねえ、見て」


朝倉さんは少し顔を傾けた。


髪には、今日僕がプレゼントしたヘアピンがついていた。


「あ、それ……」


「つけてみたんだ。どうかな?」


僕は画面越しに朝倉さんを見つめた。


……似合ってる。


そのとき、服屋で朝倉さんに言われたことを思い出した。


『じゃあ、次からは可愛いって思ったときに言ってね?』


「可愛いよ」


「……え?」


「すごく似合ってる」


その直後、通話が切れた。


……え?


突然のことに戸惑っていると、朝倉さんからメッセージが届いた。


『ありがとう! また明日ね。おやすみ』


『うん、おやすみ』


僕はスマホを置いた。


今日も、血への欲求が消えたわけではなかった。


朝倉さんと一緒にいることへの不安も、まだ残っている。


今までは、親しい人に血への欲求を感じるたびに、そんな自分が嫌になっていた。


その気持ちに囚われて、楽しい時間さえ楽しめなくなっていた。


でも、今日は違った。


不安が消えたわけじゃない。


それでも、朝倉さんと過ごした時間は、確かに楽しかった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


透も少しずつ変わってきましたね。


二人の距離が少しずつ縮まっていくのを、作者である自分も一人の読者のような気持ちで楽しんでいます。


まだまだ不安なこともありますが、これからの二人が楽しみですね。


これからも温かく見守っていただけると嬉しいです。


次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。