↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイコパスプリンス  作者: 山空
23/32

第23話「小さな一歩」

休日のショッピングモールは、多くの人で賑わっていた。


僕は待ち合わせ場所の入口付近で、行き交う人々を眺めていた。


「白瀬くーん!」


声のする方へ振り向くと、私服姿の朝倉さんがこちらに手を振りながら歩いてきた。


クリーム色のカーディガンに、淡いブルーのデニムパンツ。足元には白いスニーカーを合わせていた。


……可愛い。


そう思いながらも、僕はその言葉を口にできずにいた。


「お待たせ! 待った?」


「……ううん。僕もさっき来たところだよ」


朝倉さんは僕の前で立ち止まると、嬉しそうに笑った。


「白瀬くんとこうやって出かけるの、久しぶりだね」


「……うん。そうだね」


「今日はいっぱい楽しもうね!」


「……うん」


「あ、そうだ。白瀬くん」


「白瀬くん、もし血が見たくなったら、すぐに言ってね?」


「……うん」


「一人で抱え込んだり、我慢したりしないでね?」


そう言って、朝倉さんは僕の前に小指を差し出した。


「約束だよ?」


僕は差し出された小指を見つめた。


「……うん、約束する」


僕が小指を絡めると、朝倉さんは嬉しそうに微笑んだ。


「これでもう、一人で抱え込んじゃだめだからね?」


「……うん。ありがとう、朝倉さん」


「よーし! じゃあ今日は、とことん付き合ってもらおーっと!」


朝倉さんは楽しそうに両手を上げた。


「……お手柔らかにお願いします」


「あはは! だーめ! 今日はいっぱい楽しむんだから!」


「じゃあ、まずは靴を見に行こっか!」


「……靴?」


「うん! 新しい靴が欲しいなって思ってたんだ」


「……そっか」


僕たちは靴屋へと向かった。


店内には、スニーカーからパンプスまで、さまざまな靴が並んでいた。


「ねえ、白瀬くん。これとこれ、どっちがいいと思う?」


朝倉さんは白いスニーカーと黒いローファーを手に取り、僕の方へ向けた。


「……白のスニーカーかな。朝倉さんに似合いそう」


「ほんと? 実は私もこっちが気になってたんだ!」


「でも、せっかくだし両方履いてみようかな」


朝倉さんは二足の靴を持って、試着用の椅子に腰を下ろした。


「まずはこっちから!」


白いスニーカーに履き替えると、その場で立ち上がり、僕の前でくるりと一回転した。


「どう? 似合ってる?」


「……うん、やっぱり似合ってると思う」


朝倉さんが鏡で足元を確認している間、僕は何気なく近くの棚に目を向けた。


そこには、白い厚底スニーカーが並んでいた。


……これ、朝倉さんに似合いそうだな。


「じゃあ、次はこっちね」


朝倉さんは黒いローファーに履き替えると、僕の前に立った。


「どう? こっちも悪くないでしょ?」


「……うん。こっちも似合ってるね」


「えー、じゃあ迷っちゃうじゃん」


朝倉さんは鏡の前で何度か足元を見比べると、僕の方を振り返った。


「白瀬くん、どっちか一つ選ぶなら?」


「……でも、朝倉さんが一番履きたいと思った靴を選んでほしいな」


「もう、私は白瀬くんに選んでほしいの!」


「……そっか」


僕はさっき目に留まったスニーカーを思い出した。


「じゃあ、これも履いてみてくれない?」


棚から白い厚底スニーカーを手に取り、朝倉さんに渡した。


「あ、これ可愛い!」


朝倉さんは受け取ったスニーカーを眺めると、さっそく履き替え始めた。


「白瀬くん」


「……ん?」


「ちょっと立ってみて」


言われるままに立ち上がると、厚底スニーカーを履いた朝倉さんが僕のすぐ目の前に立った。


いつもより顔が近くて、少しドキッとした。


「……どう? ちょっと背が高くなったでしょ?」


「……うん」


僕は思わず視線を逸らした。


「……よし、これに決めた!」


朝倉さんはもう一度鏡で足元を確かめると、僕の方を向いた。


「白瀬くんが選んでくれた靴だし、大事に履かなきゃね」


「……そんな大げさな」


そう答えながらも、少し嬉しかった。


朝倉さんは元の靴に履き替えると、厚底スニーカーを購入した。


「じゃあ、次は服を見に行こっか!」


「……朝倉さんの?」


「もちろん! 今日はとことん付き合ってもらうって言ったでしょ?」


朝倉さんは紙袋を片手に、さっそく近くの洋服屋へと歩き始めた。


「ねえ、白瀬くん。こういう服ってどう思う?」


朝倉さんが手に取ったのは、アイボリーのオフショルニットだった。


「……可愛いと思うよ」


「ほんと? じゃあ、ちょっと着てくるね」


朝倉さんはブラウンのミニスカートも手に取ると、試着室へ向かった。


しばらくして、試着室のカーテンが開いた。


「白瀬くん、どうかな?」


朝倉さんはアイボリーのオフショルニットに、ブラウンのミニスカートを合わせていた。


「あ、そうだ!」


朝倉さんは鞄から伊達メガネを取り出した。


「今日持ってきたんだけど、結局かけなかったんだよね。どう?」


メガネをかけた朝倉さんが、僕の方を向いた。


普段とは違う彼女の姿に、思わず見とれてしまった。


「……可愛い」


「……え?」


朝倉さんと目が合った。


「あ、いや、その……」


「……そんなに見ないでよ」


朝倉さんは少し頬を赤くして、視線を逸らした。


けれど、すぐに僕の方へ向き直ると、いたずらっぽく笑った。


「でも、今日の服は可愛いって言ってくれなかったのに、この服は可愛いって言ってくれるんだね」


「……え?」


「じゃあ、今日の私は可愛くなかったんだ?」


「そ、そんなことないよ。今日の朝倉さんも可愛いと思う」


「ふふ、ありがと」


朝倉さんは嬉しそうに笑った。


「でも、会ったときには言ってくれなかったよね?」


「……うん」


「じゃあ、次からは可愛いって思ったときに言ってね?」


「……うん。わかった」


朝倉さんは満足そうに笑った。


「じゃあ、私、この服買ってくるね」


「……もうちょっと見ないの?」


「……ん? ほかの服?」


「……うん。まだいろいろあるし」


「でも、これが気に入っちゃったから!」


朝倉さんはもう一度鏡を見た。


「うん、これにする!」


朝倉さんは試着室に戻り、元の服に着替えて出てきた。


「白瀬くん、ちょっと待っててね」


「……うん」


朝倉さんは選んだ服を持ってレジへ向かった。僕はその後ろ姿を見送りながら、さっきの彼女の姿を思い返していた。


会計を終えた朝倉さんが、紙袋を持って戻ってきた。


「白瀬くん、お腹空かない?」


「……うん、そろそろお昼だね」


「じゃあ、ご飯食べに行こ! 何食べたい?」


「……んー、ハンバーガーとか?」


「またハンバーガー? 白瀬くんって、ほんとハンバーガー好きだよね」


「……ん? そうかな?」


僕は少し考えた。


「……まあ、そうかも」


「……朝倉さんはハンバーガーでも大丈夫なの?」


「うーん、私もお肉食べたい!」


「じゃあ、フードコートかな」


「うん! そうしよ!」


僕たちはフードコートへ向かって歩き始めた。


朝倉さんの両手には、靴と服の入った紙袋が提げられていた。


「……朝倉さん、荷物持つよ」


「え、いいの?」


「……うん。二つあるし」


「じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな。ありがとう、白瀬くん!」


朝倉さんから紙袋を受け取り、僕たちは再び歩き始めた。


フードコートに着くと、ちょうど昼時だったこともあり、多くの人で賑わっていた。


「白瀬くん、あそこ空いてるよ!」


朝倉さんが指さした先には、窓際の二人掛けの席があった。


「……じゃあ、先に席を取っておこうか」


それぞれ注文した料理を受け取り、僕たちは向かい合って席に座った。


僕の前にはハンバーガーのセット、朝倉さんの前にはステーキのプレートが置かれていた。


「じゃあ、食べよっか!」


「……うん」


僕たちはそれぞれ料理に手を伸ばした。


「んー! おいしい!」


朝倉さんは幸せそうに頬を緩ませた。


「ねえ、白瀬くん。今日は付き合ってくれてありがとね!」


「……ううん。僕も楽しいよ」


「ほんと? よかった!」


朝倉さんは嬉しそうに笑った。


「それに、白瀬くんが選んでくれた靴、早く履いて出かけたいな」


「……そんなに気に入ってくれたんだ」


「うん! だって、白瀬くんが選んでくれたんだもん!」


「……そっか」


そう答えながらも、少し嬉しかった。


そんな他愛もない会話をしながら、僕たちは昼食を楽しんだ。


やがて食事を終え、朝倉さんが口を開いた。


「はー、おいしかった!」


「……うん。結構お腹いっぱいになったね」


「じゃあ、そろそろ行こっか!」


「……うん」


僕たちは食器を返却し、買い物袋を持ってフードコートを後にした。


そのときだった。


ふと、朝倉さんの首筋が目に入った。


その肌の下にも、赤い血が流れている。


そう意識した途端、あの美しい赤色が頭から離れなくなった。


気づけば、彼女の手首へと視線が移っていた。


……見たい。


あの赤色を、もう一度。


僕は慌てて目を逸らした。


けれど、一度意識してしまうと、どうしても目で追ってしまう。


「……白瀬くん?」


朝倉さんが僕の視線に気づいた。


一瞬、頬を赤らめた彼女だったが、僕の様子を見て、その表情が変わった。


「……もしかして、血?」


「……うん」


僕は小さく頷いた。


「……ごめん。また来ちゃって」


「そっか……」


朝倉さんは少し考えるように僕を見つめると、そっと僕の手を握った。


「……大丈夫だよ」


そう言って、もう片方の手で僕の背中を優しくさすってくれた。


「焦らなくていいからね」


……温かい。


手のひらから伝わる彼女の体温に、少しずつ意識が向いていく。


血を見たいという気持ちが消えたわけではない。


それでも、さっきまでのように彼女の首筋ばかりを目で追うことはなくなっていた。


しばらくすると、胸のざわつきも落ち着いてきた。


「……どう? 少し落ち着いた?」


朝倉さんが心配そうに僕の顔を覗き込んだ。


「……うん。さっきより、ずっと楽になった」


「ほんと? よかった!」


朝倉さんは安心したように笑った。


「……朝倉さんがこうしてくれると、少し楽になる気がする」


「……でも、朝倉さんにこんなことまでしてもらっていいのかなって」


「もう、そんなこと気にしないでよ」


朝倉さんは僕の手を握ったまま、優しく微笑んだ。


「私がしたくてしてるんだから」


「……ありがとう」


そう答えたとき、僕はようやく気づいた。


……まだ、手を繋いでいる。


意識した途端、心臓が大きく跳ねた。


ただ、朝倉さんの手が温かくて、柔らかくて。


そのことばかりが気になってしまう。


……何を考えているんだ、僕は。


朝倉さんは、僕を助けようとしてくれているだけなのに。


その優しさに甘えて、こんなことを考えてしまう自分が嫌になった。


僕は少しだけ手の力を緩めた。


すると、朝倉さんも自然に手を離してくれた。


「……ありがとう、朝倉さん」


「ううん! 少しでも楽になったならよかった!」


朝倉さんはいつもの笑顔を見せた。


「……じゃあ、次はどこに行こっか?」


手を離したはずなのに、胸の高鳴りは、まだ収まっていなかった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


本日は第17話から第23話まで、計7話を更新しました!


今回は書きたい気持ちが止まらず、一気に更新してしまいましたが、今日だけの特別な更新ペースです。


これからも透と花の物語を楽しんでいただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。