第20話「花の決意」
遊園地に行った翌日、玲奈が私の家に遊びに来た。
「それで? 昨日の白瀬くんとのデート、どうだった?」
部屋に入って早々、玲奈は興味津々といった様子で聞いてきた。
「……デートって、まだそういう関係じゃないよ」
「でも、二人きりで遊園地なんて、ほとんどデートじゃん!」
「……まあ、そうかもしれないけど」
昨日のことを思い出すと、自然と頬が熱くなった。
「で、どうだったの? 楽しかった?」
「うん! すっごく楽しかったよ!」
そう答えたものの、帰り際の白瀬くんの様子を思い出して、少しだけ胸が苦しくなった。
「それで、白瀬くんのこと、本当に好きなのか確かめられた?」
玲奈にそう聞かれて、私は少し照れながら頷いた。
「……うん。やっぱり、好きみたい」
「そっか! じゃあ、花はこれからどうしたいの?」
「……どうしたいって?」
「白瀬くんと、どういう関係になりたいのかってこと」
私は少し考えてから、玲奈の顔を見た。
「……付き合いたい」
口に出してみると、自分でも驚くくらい、その気持ちははっきりしていた。
「……へえ、花がそんなにはっきり言うなんてね」
玲奈は少し驚いたあと、嬉しそうに笑った。
「それで、白瀬くんには告白するつもり?」
「……いつかは、したいな」
そう答えてから、私は少し表情を曇らせた。
「でもね、昨日の白瀬くん、途中からすごく苦しそうで……ちょっと心配なんだ」
「苦しそうって、何かあったの?」
「……わからない。でも、何か一人で抱え込んでるような気がして」
私は昨日、白瀬くんが何度も謝っていたときの表情を思い出した。
「それに、昨日の夜、また遊ぼうって誘ったんだけど、夏休みはずっと予定があるって言われちゃって……」
「そっか……。でも、花は白瀬くんのこと、好きなんでしょ?」
「うん。だから、もう少し頑張ってみたいな」
「そっか。応援してるよ、花」
玲奈はそう言って、優しく笑ってくれた。
けれど、夏休みが終わって学校が始まると、白瀬くんとの距離は少しずつ遠くなっていった。
最初は、たまたま話す機会が少ないだけだと思っていた。
でも、私から声をかけても、白瀬くんはどこかよそよそしかった。
……もしかして、私のこと避けてるのかな。
でも、どうして?
水族館や遊園地で見せてくれた白瀬くんの笑顔が、嘘だったとは思えない。
あのときは、白瀬くんも絶対に楽しんでくれていたはずなのに。
何か理由があるのかもしれない。でも、何もわからないまま距離を置かれるのは、やっぱり悲しかった。
それでも、白瀬くんの姿を見かけると、つい話しかけたくなってしまう。
……やっぱり、白瀬くんが好きなんだ。
文化祭が近づいてきた頃、私はもう一度だけ誘ってみようと思った。
最近はあまり話せていないけれど、一緒に文化祭を回れたら、また前みたいに笑い合えるかもしれない。
「……白瀬くん、ちょっといい?」
「……うん。どうしたの?」
「文化祭の日って、空いてる時間ある?」
「……少しはあると思うけど」
「じゃあ、一緒に回らない?」
白瀬くんの返事を待つ間、胸が少し高鳴った。
「……ごめん。やめておくよ」
「……そっか」
わかっていたつもりだったのに、やっぱり悲しかった。
私はなんとか笑顔を作ったけれど、白瀬くんの顔を見ているのがつらくて、思わず視線を落とした。
白瀬くんが帰ろうとしたとき、私は思わず声をかけた。
「……ねえ、白瀬くん」
このまま何も聞けずに終わってしまうのが、どうしても嫌だった。
「……何?」
「私って、そんなに頼りないかな?」
ずっと胸の奥にしまっていた言葉が、思わずこぼれてしまった。
「……白瀬くん、最近ずっと私のこと避けてるよね」
そう言いながら、私は少し俯いた。
「何か隠してるんでしょ?」
私は顔を上げて、白瀬くんをまっすぐ見つめた。
「……私には話せないことなの?」
白瀬くんは何も答えず、ただ黙っていた。
「……ごめん。無理に聞きたいわけじゃないんだ。ただ……」
私はうまく笑えているかわからないまま、言葉を続けた。
「私、白瀬くんの力になりたいんだよ」
「……朝倉さんが頼りないわけじゃないよ」
白瀬くんは少し間を置いて、続けた。
「僕自身の問題だから。……ごめんね」
私が原因じゃないとわかっても、胸の苦しさは消えなかった。
……やっぱり、私には話してくれないんだ。
「……そっか」
私はなんとか笑顔を作った。
「……わかった。無理に聞いたりしないよ」
「……ありがとう」
白瀬くんは鞄を持ち直した。
「じゃあ、帰るね」
「……うん。また明日」
教室を出ていく白瀬くんの背中を、私は黙って見送った。
あれからも、何度か白瀬くんに話しかけようとした。
でも、あの時の白瀬くんの言葉を思い出すと、以前のように気軽には声をかけられなかった。
……私にできることって、何もないのかな。
文化祭が終わってしばらく経った頃、玲奈に声をかけられた。
「ねえ、花。まだ白瀬くんのこと、好きなの?」
私は少し迷ってから、小さく頷いた。
「……うん。好きだよ」
「そっか。でも、ずっと避けられてるんでしょ? つらくない?」
「……つらいよ。でも、それでも好きなんだよね」
「……花は、諦めようとは思わないの?」
「……ううん。一度も思ったことないよ」
私は少し照れくさくなって、笑った。
「だって、こんなに誰かを好きになったの、初めてなんだもん」
「……花って、思ってたより一途なんだね」
「えへへ、そうかな?」
玲奈は少し呆れたように笑ったけれど、その表情はどこか優しかった。
それから数日が経っても、白瀬くんとの距離は変わらなかった。
白瀬くんにも、何か事情があるのかもしれない。
でも、何も言わずに避けられ続けるのは、やっぱり悲しい。
……私だって、少しくらい怒ってもいいよね。
ふと白瀬くんの方を見ると、いつものように一人で座っていた。
……もう、知らない。
気づけば、私は白瀬くんの席に向かって歩き出していた。
「白瀬くん、私と一緒の班にしよ!」
少し驚いたように顔を上げる白瀬くんを見て、今さら自分でも大胆なことをしていると思った。
でも、今日は簡単に引き下がるつもりはなかった。
「……え?」
「……でも、まだ班のことは考えてなくて……」
「白瀬くん、一緒に組む人いないでしょ?」
少し意地悪な言い方になってしまった。
いつもならこんな言い方はしないのに、今日は素直に引き下がりたくなかった。
「……どうしてそう思うの?」
「だって、白瀬くん、いつも一人でいるもん」
少し困ったような白瀬くんの顔を見て、私は思わず笑いそうになった。
「でも、行動班は三人以上じゃないと……」
「玲奈と私と白瀬くんの三人ね。ほかに誘いたい人がいたら、誘ってもいいから」
「……いや、まだ僕は……」
「じゃあ、決まり! 私が班長だから、名簿は出しておくね」
少し強引すぎたかな。
でも、久しぶりに白瀬くんと話せた嬉しさで、まだ胸が落ち着かなかった。
……白瀬くん。
私、まだ諦める気ないからね。




