第19話「透の決意」
橘さんについていくと、人通りの少ない廊下で彼女が足を止めた。
「……白瀬くん、最近ずっと花のこと避けてるよね」
振り返った橘さんは、少し怒ったような表情をしていた。
「……うん」
否定することはできなかった。
「別に、何があったのか聞くつもりはないよ。白瀬くんにも、話したくないことくらいあるだろうし」
橘さんはそう言って、少しだけ声を落とした。
「でもさ、何も言わずに避け続けるのは、ちょっと違うんじゃない?」
橘さんは僕の顔をまっすぐ見つめた。
「白瀬くんには白瀬くんの事情があるんだろうけど、花にだって気持ちはあるんだよ」
「……そうだね」
「別に、花と仲良くしろって言ってるんじゃないよ」
橘さんは少し間を置いて、続けた。
「ただ、これからも距離を置くつもりなら、せめて花が納得できるように説明してあげてほしい。全部話す必要はないから」
「何もわからないまま避けられたら、花はどうしたらいいのかわからないでしょ」
僕は何も言い返せなかった。
橘さんの言うことは、もっともだった。
僕は朝倉さんを傷つけないために、距離を置いているつもりだった。
けれど、本当にそれだけだったんだろうか。
自分の本性を知られて、拒絶されることが怖かっただけなのかもしれない。
もし朝倉さんが僕の本性を知って、それでも受け入れようとしてくれたら。
また同じことを繰り返してしまうかもしれない。
……やっぱり、朝倉さんとは距離を置くべきなんだ。
ただ、何も伝えずに避け続けるのは、間違っていたのかもしれない。
僕は顔を上げ、橘さんを見た。
「……橘さんの言うとおりだと思う」
僕は少し間を置いて、続けた。
「明日の放課後、朝倉さんにちゃんと伝えるよ」
「……そっか。わかった」
橘さんは少し表情を和らげた。
「ちゃんと花の気持ちも考えてあげてね」
「……うん。ありがとう」
橘さんは小さく頷くと、先に教室へ戻っていった。
翌日、教室に入ると、ちょうど朝のホームルームが始まるところだった。
「今日は、十二月に予定している北海道への修学旅行について説明します。今回はスキー研修を行うので、班決めについても話しておきます」
先生はそう言って、黒板に「部屋割り」と「行動班」の二つを書いた。
「部屋割りは同性同士の四人部屋です。行動班は男女混合でも構いません。人数は三人から六人までです」
「スキー研修も行動班ごとに行います。ただし、班の中で一番経験の少ない人のレベルに合わせて行動してください。無理に難しいコースへ行かないように」
「上級者向けのコースを滑りたい人は、なるべく同じくらいの経験がある人同士で班を組むようにしてください」
「どちらも自由に決めていいので、来週までに班の代表者が名簿を提出してください」
先生の説明が終わると、教室のあちこちで誰と同じ班になるかという話が始まった。
僕は特に誘う相手もいなかったので、班が決まらなければ先生に相談しようと考えていた。
やがてチャイムが鳴り、休み時間になった。
僕は朝倉さんの席に目を向けた。
放課後のことを伝えようと、声をかけるタイミングを考えていると、朝倉さんの方から近づいてきた。
「白瀬くん、私と一緒の班にしよ!」
朝倉さんはいつものように笑っていたけれど、どこか有無を言わせないような口調だった。
「……え?」
「……でも、まだ班のことは考えてなくて……」
「白瀬くん、一緒に組む人いないでしょ?」
朝倉さんは少し意地悪そうに僕を見つめた。
「……どうしてそう思うの?」
「だって、白瀬くん、いつも一人でいるもん」
そう言われると、否定することもできなかった。
「でも、行動班は三人以上じゃないと……」
「玲奈と私と白瀬くんの三人ね。ほかに誘いたい人がいたら、誘ってもいいから」
「……いや、まだ僕は……」
「じゃあ、決まり! 私が班長だから、名簿は出しておくね」
朝倉さんは僕の返事を待たずに、話をまとめてしまった。
今回はいつもより短めですが、キリのいいところだったので、ここで一区切りにしました。
次回もよろしくお願いします!
感想聞かせてもらえたら嬉しいです!
何でも大丈夫なので待ってます!




