第18話「隔たり」
教室に戻ると、何人かの生徒が集まって話していた。
「じゃあ、六時に駅前集合でいい?」
「うん! 予約も取れたみたいだし!」
どうやら、文化祭の打ち上げに行くらしい。
僕はその横を通り、自分の席へ向かった。
「お、白瀬くん!」
声をかけてきたのは、佐伯悠真だった。
文化祭の準備で、僕と一緒に大道具を担当していた生徒だ。
誰とでも気さくに話す性格で、準備中もよく声をかけてくれた。
「今日の打ち上げ、白瀬くんも来ない?」
「打ち上げか……」
「そうそう。みんなでご飯食べに行くんだって」
「……僕も行っていいの?」
「もちろん! せっかく一緒に頑張ったんだしさ」
「……ちなみに、何人くらい来るの?」
「ほとんど来ると思うよ。三十人くらいかな」
「そっか……」
少し迷った。
朝倉さんも参加するのだろうか。
けれど、三十人もいるなら、直接話す機会はそれほどないだろう。
それに、クラスのほとんどが参加するなら、僕だけ断る理由もなかった。
「……じゃあ、僕も行こうかな」
「お、マジ? よかった! じゃあ六時に駅前集合ね!」
「うん、わかった」
佐伯くんは嬉しそうに笑って、他の生徒たちのところへ戻っていった。
六時前に駅へ着くと、すでに十数人のクラスメイトが集まっていた。
「お、白瀬くん! こっちこっち!」
佐伯くんが手を振っていた。
「こんばんは。結構集まってるね」
「まだ半分くらいだけどね。もうすぐみんな来ると思うよ」
僕は彼の隣に立った。
「そういえば、白瀬くんって文化祭どこ回った?」
「ほとんど体育館にいたかな。劇を見るのが好きだから」
「え、二日とも?」
「うん。二日目は混んできたから、途中で出たけど」
「そっか。俺、結局ほとんど出店回れなかったんだよね」
「何してたの?」
「ずっと友達と喋ってた。気づいたら終わってたわ」
佐伯くんはそう言って笑った。
話しているうちに、ほかの生徒たちも次々と集まってきた。
全員が揃うと、僕たちは予約していた食べ放題のお店へ向かった。
店内には長いテーブルがいくつか用意されていて、クラスメイトたちは好きな席に座っていった。
「白瀬くん、ここ空いてるよ」
「ありがとう」
佐伯くんに声をかけられ、僕はその隣に腰を下ろした。
料理が運ばれ、それぞれがソフトドリンクを手にすると、クラスの代表が立ち上がった。
「じゃあ、そろそろ乾杯しようか!」
「誰がやる?」
「白雪姫でいいんじゃない?」
「お、いいね! 朝倉さんお願い!」
「えっ、私?」
少し離れた席から、朝倉さんの声が聞こえた。
「いやいや、私そういうの苦手なんだけど……」
「大丈夫だって!」
「……もう、しょうがないなあ」
朝倉さんが立ち上がると、みんなが飲み物を手に取った。
「えっと……みんな、文化祭お疲れさまでした」
朝倉さんは少し照れくさそうに笑った。
「準備は大変だったけど、無事に劇が成功して本当によかったです。今日はいっぱい楽しみましょう」
朝倉さんはグラスを持ち上げた。
「乾杯!」
「かんぱーい!」
店内に賑やかな声が響いた。
僕も佐伯くんとグラスを合わせた。
「お疲れ、白瀬くん!」
「うん。お疲れさま」
こうして、文化祭の打ち上げが始まった。
「いやー、ほんとに終わったんだな、文化祭」
佐伯くんは唐揚げを口に運びながら言った。
「準備してるときは長く感じたけど、終わってみるとあっという間だったね」
「それな。小人の家とか、結構頑張って作ったのにな」
「でも、ちゃんと使ってもらえてよかったよ」
「確かに。あれ、地味に評判よかったらしいし」
佐伯くんは嬉しそうに笑った。
「そういえばさ、白瀬くんって絵とか得意なの?」
「うーん、普通かな。どうして?」
「屋根の色塗り、めっちゃ丁寧だったからさ」
「ああ、あれは細かい作業が好きなだけだよ」
「へえ。俺、ああいうのすぐ雑になるから羨ましいわ」
佐伯くんとは、文化祭の準備をしていた頃から比較的話しやすかった。
話題が途切れても無理に会話を続けようとはせず、かといって気まずくなることもない。
そんなふうに話しているうちに、テーブルの料理も少しずつ減っていった。
「ねえ、せっかくだし席替えしない?」
少し離れた席から、女子生徒の声が上がった。
「え、席替え?」
「だって、ずっと同じ人と話してるじゃん。いろんな人と話したくない?」
「何それ、合コンじゃん!」
誰かがそう突っ込むと、周りから笑い声が起こった。
「違うって! ただの打ち上げだから!」
「じゃあ男女交互に座る?」
「だから合コンじゃん!」
再び笑い声が広がった。
「もう、好きなところに移動すればいいでしょ!」
その一言をきっかけに、生徒たちが次々と席を立ち始めた。
「白瀬くん、どうする?」
佐伯くんが僕に尋ねた。
「うーん、どうしようかな」
「まあ、適当に座ろっか」
「そうだね」
僕も飲み物を持って立ち上がり、空いている席を探した。
けれど、思っていた以上にみんなの動きが早く、空いている席はほとんどなくなっていた。
「白瀬くん、そっち一個空いてるよ!」
佐伯くんに言われた方を見ると、確かに椅子が一つ空いていた。
けれど、その隣には朝倉さんが座っていた。
……できれば、別の席がいい。
周りを見渡したけれど、ほかに空いている席は見当たらなかった。
「白瀬くん?」
朝倉さんも僕に気づいたようだった。
「……ここ、座ってもいい?」
「うん、もちろん」
朝倉さんは少し驚いたように答え、僕が座りやすいように椅子を引いた。
「……ありがとう」
僕は朝倉さんの隣に腰を下ろした。
周りの生徒たちは新しい席で楽しそうに話し始めていた。
「……白瀬くん」
隣から声をかけられた。
「……何?」
「今日の劇、どうだった?」
「うん。よかったと思うよ」
「ほんと? 実は結構緊張してたんだ」
「そうなんだ。そんなふうには見えなかったよ」
「……そっか。ありがとう」
朝倉さんは少し嬉しそうに笑った。
「白瀬くんも、大道具お疲れさま」
「……ありがとう。朝倉さんもお疲れさま」
そこで会話が途切れた。
朝倉さんはもう少し何か話したそうにしていたけれど、それ以上は何も言わなかった。
やがて向かいの生徒から話しかけられ、僕もそちらの会話に加わった。
朝倉さんも周りの生徒たちと話し始めた。
その後、僕たちが直接言葉を交わすことはなかった。
それからしばらくして、幹事の生徒が立ち上がった。
「みんな、そろそろ時間だから帰るよ!」
「えー、もうそんな時間?」
「早かったね!」
生徒たちは名残惜しそうにしながらも、荷物をまとめ始めた。
僕も席を立ち、鞄を手に取った。
店を出ると、外はすっかり暗くなっていた。
「じゃあ、今日はお疲れさま!」
「また学校でね!」
駅前で解散することになり、生徒たちはそれぞれ帰り始めた。
僕もみんなに挨拶をして、駅へ向かった。
文化祭が終わると、学校はいつもの日常に戻っていった。
廊下に並んでいた看板は片付けられ、教室を飾っていた装飾もなくなっていた。
文化祭が終わってからも、朝倉さんと話すことはほとんどなかった。
それから二週間ほど経った、ある日の放課後。
帰り支度をしていると、橘さんが僕の席にやってきた。
「白瀬くん、ちょっといい?」
「……うん。どうしたの?」
橘さんはいつもより少し険しい表情をしていた。
「話したいことがあるんだけど、今、時間ある?」
「……うん。大丈夫だよ」
「そっか。じゃあ、ちょっと付き合って」
その口調は普段よりも硬く、どこか怒っているようにも感じられた。
僕は鞄を持ち、橘さんの後を追った。
読んでいただきありがとうございます。
一言でも構いませんので、感想をいただけると嬉しいです。
良かったところや気になったところなど、どんな感想でもお待ちしています。




