↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サイコパスプリンス  作者: 山空
17/31

第17話「文化祭」

 僕の通う高校では、文化祭は二日間にわたって開催される。


 一日目は主に各クラスの出し物や体育館での発表が行われ、二日目には一般のお客さんも多く訪れる。


 校内には飲食店やお化け屋敷、ゲームコーナーなどが並び、毎年かなりの賑わいを見せるらしい。


 僕たちのクラスが上演する『白雪姫』は、一日目の午前中に予定されていた。


 文化祭当日、校門をくぐると、色とりどりの看板や飾り付けが目に入った。


 普段とは違う学校の雰囲気に、朝からあちこちで楽しそうな声が響いていた。


 教室に入ると、すでに何人かの生徒が集まり、衣装や小道具の最終確認をしていた。


「白瀬くん、おはよう!」


「おはよう」


「ちょうどよかった。小人の家、体育館に運ぶの手伝ってくれない?」


「うん、いいよ」


 僕は鞄を置き、他の大道具係の生徒と一緒に廊下へ出た。


「いやー、いよいよ本番か。ちゃんと成功するといいな」


「そうだね。練習どおりにできれば大丈夫だと思うよ」


「白瀬くん、落ち着いてるなあ。俺、なんか緊張してきたわ」


「僕たちは裏方だからね。出演する人たちの方が緊張してると思うよ」


「確かに。セリフ忘れたりしたら大変だもんな」


 そんな話をしながら、僕たちは大道具を体育館へ運んでいった。


 体育館に着くと、すでに照明係や音響係が準備を進めていた。


「大道具、どこに置けばいい?」


「舞台袖でお願い! あとで配置確認するから!」


 僕たちは指示された場所に小人の家を運び、ほかの大道具と一緒に並べた。


 その後も背景の設置や小道具の確認をしているうちに、開演の時間が近づいてきた。


「みんな、一回集まって!」


 クラスの代表が声をかけると、出演者も裏方も舞台袖に集まった。


「ここまでいっぱい練習してきたし、あとは楽しんでやろう!」


「おー!」


 みんなが声を上げる中、僕も小さく拍手をした。


 出演者たちはそれぞれの立ち位置へ向かい、僕たち大道具係も舞台袖で待機した。


 やがて体育館の照明が落ち、客席から拍手が聞こえてきた。


 幕が上がると、舞台には大きな鏡が置かれ、王妃役の生徒がゆっくりと歩み出た。


「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」


 何度も練習で聞いたセリフだったけれど、本番の衣装と照明が加わると、いつもとは違って見えた。


 舞台袖では、次の場面に備えて大道具係の生徒たちが待機していた。


「白瀬くん、次の場面で森の背景だよね?」


「うん。王妃の場面が終わったら交換するよ」


「了解。そっち側お願いね」


 僕は頷き、舞台の様子に目を向けた。


 やがて場面が切り替わり、朝倉さんが舞台に姿を現した。


 白い襟のついた青いドレスに、赤いリボン。普段とは違う格好だったけれど、不思議とよく似合っていた。


 客席から小さな歓声が上がる。


 朝倉さんは少し緊張しているようにも見えたが、落ち着いた声でセリフを話し始めた。


 僕はしばらく、その姿を眺めていた。


「白瀬くん、そろそろ準備しよう」


「……ああ、うん」


 隣の生徒に声をかけられ、僕は舞台の方から目を離した。


 今は、自分の仕事に集中しよう。


 王妃の命令で白雪姫が森へ逃げ込む場面になると、僕たちは舞台袖から背景を運び出した。


「もう少し奥でいい?」


「うん、そこなら大丈夫」


 小声で確認しながら位置を合わせ、再び舞台袖へ戻る。


 客席からは時折笑い声が聞こえ、劇は順調に進んでいた。


 やがて、白雪姫が小人たちの家を見つける場面になった。


「わあ……かわいいお家。誰か住んでいるのかな?」


 朝倉さんが不思議そうに家の中を覗き込むと、客席から小さな笑い声が起こった。


「白瀬くん、家の位置ちょうどよかったね」


「うん。ちゃんと見えてるみたいでよかった」


 隣の生徒とそんな話をしながら、次の場面に備えた。


 朝倉さんは練習のときよりも自然に演じていた。


 劇はその後も大きな失敗なく進み、いよいよ最後の場面を迎えた。


 王子様の呼びかけで白雪姫が目を覚ますと、客席から拍手が起こった。


 朝倉さんは王子様役の生徒と向かい合い、最後のセリフを言った。


 やがて幕が下り、再び上がると、出演者たちが横一列に並んでいた。


「ありがとうございました!」


 全員が頭を下げると、体育館いっぱいに拍手が響いた。


 舞台袖に戻ってきた出演者たちは、緊張が解けたのか、互いに笑い合っていた。


「花、すっごくよかったよ!」


「あはは! ありがとう! 途中、セリフ飛びそうになっちゃった!」


「全然わかんなかったって!」


 橘さんと話す朝倉さんの声が聞こえてきた。


「白瀬くん、俺たちも片付け始めようか」


「うん、そうだね」


 僕たちは舞台に残った大道具を運び出し、決められた場所に片付けていった。


 何週間もかけて作った小人たちの家も、これで役目を終えた。


 すべての片付けが終わる頃には、昼休みになっていた。


 出演者たちは何人かで集まり、このあとどこを回るか楽しそうに話していた。


 僕は特に行きたいところもなかったので、そのまま体育館に残ることにした。


 このあとも、他のクラスや部活動による発表が予定されている。


 校内を歩いていれば、朝倉さんとすれ違うこともあるかもしれない。


 それなら、ここで劇を見ている方がいい。


 僕は後方の空いている席に腰を下ろし、次の公演が始まるのを待った。


 次に始まったのは、三年生のクラスによる劇だった。


 どうやら推理ものらしく、舞台には探偵役の生徒が立っていた。


 僕たちのクラスとは違い、途中で笑いを取る場面も多く、客席からは何度も笑い声が上がっていた。


 劇が終わると、僕も周りに合わせて拍手をした。


 去年も、文化祭のほとんどを体育館で過ごしていた。


 特に行きたい場所もなく、いろいろなクラスの劇を見ているうちに、一日が終わったのを覚えている。


 今年も、同じように過ごしている。


 体育館の出入り口では、友達同士で楽しそうに話しながら出ていく生徒たちの姿が見えた。


 僕も、一緒に回れる友達がいたら、もう少し文化祭を楽しめるのかもしれない。


 少し羨ましく思いながら、僕は次の劇が始まるのを待った。


 今度は恋愛ものらしく、舞台には制服姿の男女が立っていた。


 周りの生徒たちは楽しそうに見ていて、僕も時折笑いながら劇を楽しんだ。


 公演が終わると、時計はもう三時を過ぎていた。


 文化祭の一日目も、そろそろ終わりに近づいている。


 僕は席を立ち、体育館を出た。


 廊下にはまだ多くの生徒がいたけれど、片付けを始めているクラスもあった。


 明日は一般のお客さんも来るから、今日より賑やかになるだろう。


 そんなことを考えながら、僕は帰り支度をするために教室へ向かった。


 教室に戻ると、何人かの生徒が明日の準備をしていた。


「白瀬くん、お疲れさま。今日の劇、うまくいってよかったね」


「うん。大きな失敗もなかったしね」


「大道具も評判よかったみたいだよ。頑張った甲斐があったね」


「そうだね」


 僕は自分の席に置いていた鞄を手に取った。


 周りでは、明日はどの出店を回るか、何を食べるかといった話で盛り上がっていた。


 僕はその会話を聞きながら、静かに教室を出た。


 こうして、文化祭の一日目が終わった。


 翌日。


 今日は一般公開ということもあり、昨日よりも多くの人で賑わっていた。


 僕は昨日と同じように体育館へ向かった。


 午前中は比較的空いていて、後ろの方の席に座り、いくつかの発表を楽しんだ。


 けれど、昼が近づくにつれて、客席は少しずつ埋まっていった。


『本日は多くのお客様にご来場いただいております。混雑緩和のため、連続してのご観覧はなるべくお控えいただきますよう、ご協力をお願いいたします』


 アナウンスが流れ、僕は周囲を見渡した。


 立ったまま席が空くのを待っている人もいる。


 さすがに、このまま座り続けるのは申し訳ない。


 僕は席を立ち、体育館を出ることにした。


 校舎に戻ると、廊下には各クラスの出店を宣伝する看板が並び、呼び込みの声が飛び交っていた。


「フランクフルトいかがですかー!」


 ちょうどお腹も空いていたので、声のする方へ向かった。


「一本ください」


「はい、百五十円です!」


 お金を払い、受け取ったフランクフルトを廊下の端で食べた。


 食べ終わってからも、特に行く場所は決まっていなかった。


 しばらく校内を歩いていると、ある教室の前で足が止まった。


『カジノ体験! 友達とポーカー対決!』


 入口にはトランプの絵が描かれた大きな看板が飾られていた。


 ポーカーか。


 ルールは知っているし、少し面白そうだ。


 入ってみようかと思い、入口に近づいた。


 けれど、扉の横に貼られた案内が目に入った。


『※二名以上のグループでご参加ください』


 ……そうか。


 僕はそのまま踵を返した。


 廊下では、友達同士で笑いながら歩く生徒たちと何度もすれ違った。


 僕は次に行く場所を探しながら、ゆっくりと歩き続けた。


 その後も、いくつかの教室を覗いてみた。


 写真部の展示では、校内や街の風景を撮った写真が並んでいた。


 普段見慣れているはずの場所も、写真になると少し違って見える。


 気に入った写真を何枚か眺めてから、教室を出た。


 廊下を歩いていると、前を行く男子生徒たちの会話が聞こえてきた。


「次どこ行く?」


「さっきのポーカー、もう一回行こうぜ」


「えー、今度は絶対負けたくないんだけど!」


 楽しそうに笑いながら、三人は階段を上がっていった。


 僕も誰かと一緒だったら、ああいう遊びができたのかな。


 そんなことを考えながら時計を見ると、文化祭の終了時刻が近づいていた。


 結局、二日目もほとんど一人で過ごしてしまった。


 それでも、劇や展示を見るのはそれなりに楽しかった。


 僕は帰り支度をするため、自分の教室へ向かった。

読んでいただきありがとうございます。


一言でも構いませんので、感想をいただけると嬉しいです。


良かったところや気になったところなど、どんな感想でもお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。