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サイコパスプリンス  作者: 山空
14/23

第14話「束の間の幸せ」

 夏休みに入ってから、朝倉さんとは水族館に行ったきり会っていなかった。


 そんなある日、朝倉さんからメッセージが届いた。


『白瀬くん、来週空いてる?』


 僕は予定を確認してから、返信した。


『空いてるよ』


 すると、少ししてもう一通メッセージが届いた。


『よかったら、一緒に遊園地行かない?』


 ……遊園地か。


 朝倉さんとの距離は少しずつ近づいている。


 それなのに、不思議と血への欲求は感じていなかった。


 だから、普通に仲良くなれるかもしれない。


 でも、このまま親しくなっていけば、いつか本当に好きになってしまうかもしれない。


 朝倉さんは、ただ友達として誘ってくれているだけなのに。


 勝手に勘違いして、期待してしまうのが怖かった。


 でも、断る理由も見つからなかった。


 それに、また朝倉さんに会いたいと思っているのも事実だった。


 僕は少し考えてから、返信した。


『うん、いいよ』


 そして、遊園地に行く日がやってきた。


 約束の時間より少し早く待ち合わせ場所に着いた僕は、朝倉さんを待っていた。


「白瀬くん!」


 聞き慣れた声に振り向いた。


 そこには、いつもと少し雰囲気の違う朝倉さんが立っていた。


 三つ編みにした髪を後ろで一つに結び、カジュアルなTシャツにデニムのショートパンツを合わせていた。


 普段の朝倉さんも可愛いけれど、今日は一段と可愛く見えた。


 朝倉さんが近づくと、ふわりと甘い香りが漂ってきた。


「じゃあ、行こっか」


「うん!」


 僕たちは並んで遊園地の入り口へ向かった。


 遊園地に入ると、朝倉さんは楽しそうに辺りを見渡していた。


「ねえ白瀬くん! 最初は何に乗る?」


「そうだね。朝倉さんは何か乗りたいものある?」


「うーん、いっぱいあって迷っちゃう!」


 そう言いながら、朝倉さんは園内のマップを広げた。


「白瀬くん、絶叫系って得意?」


「うん、大丈夫だよ」


「ほんと? じゃあ、あれ乗ろうよ!」


 朝倉さんが指さした先には、大きなジェットコースターがあった。


「結構高そうだね」


「えへへ、ちょっと怖いかも!」


「朝倉さんが誘ったんでしょ」


「あはは! そうだった!」


 僕たちは笑いながら、ジェットコースターの列に並んだ。


 しばらく並んでいると、僕たちの順番がやってきた。


「うわぁ、近くで見るともっと高いね!」


「今からやめてもいいんだよ?」


「やだ! 絶対乗る!」


 朝倉さんはそう言って笑いながら、座席に乗り込んだ。


 安全バーが下り、ゆっくりとコースターが動き出した。


「ねえ、白瀬くん……やっぱりちょっと怖いかも」


「もう遅いよ」


「もう! 笑わないでよ!」


 そう言いながらも、朝倉さんは楽しそうに笑っていた。


 コースターはゆっくりと坂を上っていく。


 隣を見ると、朝倉さんは安全バーをぎゅっと握りしめていた。


 そして、頂上に差しかかった瞬間、コースターが一気に急降下した。


「きゃあああ!」


 隣から朝倉さんの叫び声が聞こえた。


 僕も思わず声を上げてしまった。


 急カーブを曲がるたびに体が大きく揺れ、気づけば僕たちは二人して叫んでいた。


 ジェットコースターを降りると、朝倉さんが楽しそうに笑いながら言った。


「白瀬くんもあんな声出るんだね!」


「……僕もびっくりしたよ」


「あはは! なんか意外だった!」


「次は何に乗ろっか?」


 朝倉さんがマップを覗き込む。


「あっ、コーヒーカップ! あれ乗ろうよ!」


「いいね、行こうか」


 僕たちはコーヒーカップの方へ歩き出した。


 僕たちは空いている青いカップに乗り込んだ。


「ねえ白瀬くん、これって真ん中のハンドルを回すと速くなるんだよね?」


「そうみたいだね」


「じゃあ、どっちが速く回せるか勝負しよ!」


「……二人で同じカップに乗ってるんだけど」


「あはは! ほんとだ!」


 朝倉さんは自分の言葉がおかしかったのか、しばらく笑っていた。


「じゃあ、二人でどこまで速く回せるか挑戦しよ!」


「目が回っても知らないよ?」


「大丈夫、大丈夫!」


 やがて音楽が流れ、カップがゆっくりと回り始めた。


「よーし、回すよ!」


 朝倉さんが勢いよくハンドルを回し始めた。


「ちょっと、速すぎない?」


「白瀬くんも手伝って!」


 僕もハンドルに手を添えて回すと、周りの景色がどんどん流れていった。


「きゃー! 速い速い!」


 朝倉さんは笑いながら、さらにハンドルを回そうとした。


「朝倉さん、そろそろやめない?」


「あはは! 白瀬くん、もう限界?」


「……ちょっと目が回ってきた」


 そう言うと、朝倉さんはますます楽しそうに笑った。


 やがてカップの回転がゆっくりになり、音楽が止まった。


「楽しかったね!」


「……うん。すごい回転だったね」


「あはは! 回しすぎちゃったね!」


 カップから降りると、朝倉さんも少しふらついていた。


「わあ! あのぬいぐるみ可愛い!」


 朝倉さんが輪投げの屋台の前で足を止めた。


「ねえ白瀬くん、あれ取れる?」


「……どうだろう。結構難しそうだけど」


「えー、白瀬くんなら取れると思ったのにな〜」


 朝倉さんはいたずらっぽく笑いながら、僕を見上げた。


「……わかったよ。やってみる」


「やった! 頑張ってね!」


 僕は料金を払い、輪を受け取った。


 狙うのは、朝倉さんが欲しがっていたぬいぐるみだ。


 慎重に狙いを定めて、一つ目の輪を投げた。


 しかし、輪は景品の手前に落ちてしまった。


「あれ? 白瀬くん、意外と下手?」


「……まだ一回目だから」


「あはは! 頑張れ、白瀬くん!」


 朝倉さんは楽しそうに僕を応援していた。


 僕は二つ目の輪を手に取った。


 今度は少し力を加減して投げてみたけれど、輪は景品に当たって跳ね返ってしまった。


「……思ったより難しいね」


「白瀬くん、あと一個だよ!」


「うん、最後だね」


 朝倉さんの期待に満ちた視線を感じながら、僕は最後の輪を手に取った。


 少しだけ深呼吸をして、ぬいぐるみに狙いを定めた。


 最後の輪が僕の手を離れ、ゆっくりと宙を舞う。


「あっ!」


 輪は景品の棒に引っかかり、そのまま落ちずに止まった。


「やったー! 白瀬くん、すごい!」


「……よかった。取れたね」


 朝倉さんは僕以上に嬉しそうにはしゃいでいた。


 店員さんからぬいぐるみを受け取ると、僕は朝倉さんに手渡した。


「はい、どうぞ」


「ありがとう! 大切にするね!」


 朝倉さんは嬉しそうにぬいぐるみを抱きしめた。


 そんなに喜んでもらえるなら、頑張った甲斐があったと思った。


「ねえ白瀬くん! お昼ご飯、私が奢るよ!」


「え? いや、悪いよ」


「ぬいぐるみ取ってくれたお礼!」


「でも、そんなに気を遣わなくていいよ」


 朝倉さんは少し頬を膨らませながら、僕を見上げた。


「いいの! ねえ、何食べたい?」


「……じゃあ、ハンバーガーかな」


「よし! ハンバーガーね! 行こ!」


 朝倉さんは満足そうに笑った。


 僕たちはハンバーガーショップに入り、それぞれ注文を済ませた。


 料理を受け取ると、窓際の空いている席に座った。


「いただきまーす!」


 朝倉さんは嬉しそうにハンバーガーにかぶりついた。


 食事を終え、店を出たところで僕は朝倉さんに声をかけた。


「ごちそうさま。ありがとう」


「えへへ! ぬいぐるみ取ってもらったし、お互い様だよ!」


「ねえ白瀬くん、次は白瀬くんが行きたいところに行こうよ!」


「僕が?」


「うん! 私ばっかり行きたいところ選んでるし!」


「……じゃあ、一つ行ってみたいところがあるんだけど」


「どこどこ?」


「……子供っぽいって思わないでよ」


「えー! なになに?」


「……ゴーカート、かな」


 朝倉さんは少し驚いた顔をしたあと、嬉しそうに笑った。


「いいじゃん! 行こうよ!」


 僕たちは園内のマップを確認し、ゴーカート乗り場へ向かった。


「白瀬くんって、こういうの好きなんだね!」


「……意外だった?」


「うん! でも、なんか嬉しい!」


「嬉しい?」


「だって、白瀬くんの好きなもの、一つ知れたから!」


 朝倉さんはそう言って、楽しそうに笑った。


「……そうなんだ」


 そんなことを言われるとは思っていなかった。


 ゴーカート乗り場に着くと、朝倉さんがコースを眺めながら言った。


「ねえ、白瀬くん! どっちが速いか勝負しようよ!」


「いいよ。負けても知らないよ?」


「あはは! 私だって負けないからね!」


 スタートの合図とともに、僕たちは走り出した。


 最初のカーブを曲がる頃には、朝倉さんとの距離が開いていた。


 そのまま差を縮められることなく、僕は先にゴールした。


 少し遅れて、朝倉さんもゴールする。


「もう! 白瀬くん、速すぎ!」


「僕の勝ちだね」


「こんなに差がつくなんて思わなかった!」


 悔しそうに頬を膨らませる朝倉さんを見て、思わず笑ってしまった。


「もう一回! もう一回勝負しよ!」


「え、また乗るの?」


「だって悔しいんだもん!」


「……次も負けるかもしれないよ?」


「今度こそ勝つから!」


 朝倉さんは自信満々にそう言った。


「……わかったよ。もう一回だけね」


「やったー!」


 もう一度列に並ぼうとしたところで、ふと朝倉さんの様子が気になった。


 朝倉さんは何度か片足に体重を移していた。


「じゃあ、今度は一つ条件をつけない?」


「条件?」


「勝った方の言うことを一つ聞くっていうのはどう?」


「いいよ!」


「うん。何でもってわけじゃないけどね」


「よーし! 絶対勝つからね!」


 朝倉さんは嬉しそうに笑い、僕たちは再び列に並んだ。


 しばらくして、再び僕たちの順番がやってきた。


「今度こそ負けないからね!」


「うん、頑張って」


「もう! 余裕そうなのが悔しい!」


 スタートの合図が鳴り、二台のゴーカートが走り出した。


 朝倉さんはさっきよりも上手くカーブを曲がっていたけれど、結果はまた僕の勝ちだった。


「えー! また負けちゃった!」


 ゴーカートを降りると、朝倉さんは悔しそうに肩を落とした。


「じゃあ、約束どおり僕の言うことを聞いてもらおうかな」


「うぅ……何でも言ってください!」


 朝倉さんは少し身構えながら、僕を見上げた。


「じゃあ、少し休憩しようか」


「……え?」


「休憩……?」


 朝倉さんは少し残念そうに僕を見つめた。


「……白瀬くん、楽しくなかった?」


「ううん、すごく楽しかったよ」


「じゃあ、どうして?」


「……朝倉さん、足痛いんでしょ?」


 そう言うと、朝倉さんは驚いたように目を見開いた。


「……気づいてたんだ」


 朝倉さんは少し困ったように笑った。


「でも、これくらい大丈夫だよ! まだまだ乗りたいアトラクションもあるし……」


 そう言いながら、朝倉さんは悲しそうに目を伏せた。


「ダメだよ」


 僕は朝倉さんの目を見て、はっきりと言った。


「無理してまで遊んでほしくないんだ」


「でも……」


「まだ時間はあるんだから。少し休んでから、また一緒に楽しもうよ」


 朝倉さんは少し驚いたように僕を見つめていた。


「……うん、わかった」


 朝倉さんは小さく頷いた。


「ありがとう、白瀬くん」


「うん。あそこにベンチがあるから、座ろうか」


 僕たちは近くのベンチへ向かった。


 腰を下ろすと、朝倉さんは少し安心したように息をついた。


「どこが痛いの?」


「かかとかな。たぶん、靴擦れしちゃったみたい」


 朝倉さんはそう言って、靴を脱いだ。


「ちょっと見てみるね」


 靴下を少し下げると、かかとの皮膚が赤く擦れていた。


 そして、その傷口にはわずかに血がにじんでいた。

読んでいただきありがとうございます。


一言でも構いませんので、感想をいただけると嬉しいです。


良かったところや気になったところなど、どんな感想でもお待ちしています。

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