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三.……え?

 SNSのタイムラインは、まるで炎が踊る洞窟の奥底のように熱気を帯びていた。

 赤や金のドラゴンのイラストが画面いっぱいに拡散され、

 コメント欄は矢継ぎ早に興奮と感嘆(かんたん)で埋め尽くされた。


《この翼の描写、最高すぎる!》

《火を吐く瞬間の表現がリアル!》

《ドラゴンは実在した!》

《夢がある!》

《科学は夢を否定するな!》

《今夜はドラゴンについて語ろう!》


 ――などと、ドラゴン礼賛のメッセージが次々と流れ、

 まるで無数の竜たちがタイムラインを飛び交うかのように

 GIFや動画もシェアされてはリツイートされた。

  

 ハッシュタグには「#ドラゴン愛」、「#火竜祭り」、「#伝説の翼」が瞬く間に並び、その流れに乗ってユーザーは日常を忘れ、空想の世界の熱と力に全身を浸している。

 

 通知サウンドが鳴るたびに、新たな驚きや議論が飛び交い、

 その瞬間、SNS界隈は真のドラゴンの巣窟と化していた。


 誰もが楽しそうだった。

 そして、祭りは最高潮に達した。

 

 そのときだった。 

 一通の冷静なリプライが投下された。


《皆さん、盛り上がっているところ申し訳ありませんが、これ、カモメの骨盤ですよ》


 鳥類学者のエレン・ベーカーである。


 彼女は自身の研究室にあるカモメの骨盤の標本写真と、

 問題の骨片の写真を並べた比較画像をコメントに添えていた。


 丸みを帯びた優美な端は、腸骨の前端。

 骨盤の骨と複雑に融合したその独特のシルエット。

 どうひっくり返っても「頭蓋骨」などではなく、

 見事なまでに鳥類の腰回りそのものだった。


 ネットの熱狂は、音を立てて急ブレーキを踏んだ。


《……え?》

《頭蓋骨じゃないの……?》

《骨盤なの……?》

《しかも、カモメ……?》


 お祭り騒ぎは一気に冷め、砂浜の潮が引くように、

 SNSのタイムラインには気まずい沈黙が広がった。

 

 やがて、祭り会場から少しずつ音が消え、

 炎のドラゴンを描いていた人たちはシレッと投稿を削除し、

 古代ドラゴン説を熱弁していた人はあっちを向いて沈黙した。


 そして、政府陰謀説を唱えていた人は――


《まあ、最初から冗談だけどね》


 ――と書いて逃げた。

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