第7話 呪いのエルフ、ゴーレムと戦う
瓦礫の怪物、私たちの世界ではゴーレムと呼ばれているそれが足を一歩踏み出すと、地響きと共に周囲に砂煙が舞った。
相当な質量だ。足一つ動かすのに、相応のエネルギーが必要だろう。
「ゴーレムはね。魔力を使って石とか岩とかを組み上げる、魔術の産物なんだ。人型にするのもあれば、獣を象るものもある。瓦礫一つの組み上げを間違えたらちゃんと動かない、精密な人形なの」
ゴーレムが一歩歩み寄ってくる度に、私も一歩近づく。
《丸腰で倒せるの!?》
《ゴーレムの解説たすかる》
《そんな装備で大丈夫か?》
「私は大丈夫だよ。……私がいた世界でもゴーレムっていうのがいてね」
《ゴーレムは俺らの世界にはいないぞ》
《何それ知らん……こわ……》
「え、そうなんだ。ま、まあとにかく、何回もゴーレムと戦ったことあるから大丈夫! 皆に見せてあげるね」
《見せて~》
《wktk》
皆の期待を一身に受けて、私は体の中の魔力を外に押し出す。溢れ出すのは、虹色のマナ。キラキラと輝きながら、まるで煙のようにのたうつそれが、私の背後で膨れ上がり、やがて形を成す。
《虹のクラゲ!?》
《かっけぇ……》
《オシャレ過ぎんだろ!》
「ふふっ、ゼノリークって呼んであげてね」
《名前いかつくない?》
私の背後に浮かぶのは、巨大なクラゲ。無数の半透明な触手を漂わせ、空中に浮かんでいる。
誰も怖がっていない。これまでは、この力を見せたら皆怖がって、会話なんてできなかった。
でも、このコメントの皆は違う。私のことを認めてくれるし、私の呪いを怖がらない。
なんて、居心地が良いんだろう。
「せっかく動けるようになったのに、ごめんね?」
ゴーレムにそう話しかけるけど、案の定返答はない。ただそれは、目の前にいる私に向けて、その拳を振るおうと持ち上げる。
そして破壊の鉄槌は振り下ろされた。
《やば》
《ギルハちゃん!!》
本来なら、それを食らえば私の体は粉々に潰されていた。それだけの質量が、そのゴーレムにはあるはずだった。
でも、その拳が届くよりも前に、ゼノリークの触手が柔らかくそれを包み込む。
瞬間――
「……」
《ゴーレムの手が!?》
《触れただけで壊せるとかチートじゃん》
《TUEEEEEEEE》
拳が砕けて、ヒビが腕を伝い、ゴーレムの胴体にまで及ぶ。
感傷も情動もない。ゴーレムは体を揺らし、やがて瞬く間に崩壊へと至った。
《うおおおおおおお、ギルハちゃんつええええええええ》
《ナイス!》
《これってチュートリアル?》
《始まったばっかだから弱かったのかな?》
「ありがとね。皆がいてくれたから楽しく戦えたよ」
私の言葉にコメントの皆も楽しそうに、たくさんの文字を流し始める。さっきまでの雰囲気もなくなって、すっかり談笑ムード。そのコメントの中に、私はさっき見たような色付きのコメントを見つけた。
《めっちゃカッコよかったよ!=1000円》
《GG!=100円》
《チュートリアル突破記念=1000円》
《ゲームじゃないみたいな臨場感やね=500円》
「わ、わわ。これって、お金、なんだよね? いいの? こんなに貰っちゃって……」
《良いんだよ》
《楽しませてもらってるしな》
《皆ギルハちゃんのためにハイコメしてるからね》
《ギルハが喜んでくれて俺、嬉しいよ(後方腕組み彼氏面)》
やったことと言えば、ゴーレムを倒しただけ。それだけでこんなに楽しんでもらえるんだ。
そう思うと俄然やる気が出る。後ろに漂っていたゼノリークが消えていく中、私はすっかり砕けたゴーレムに改めて目を向けた。
さっきはその場の勢いで倒してしまったけど、どうしてゴーレムなんて現れたんだろうか。
「……このゴーレム、何がしたかったんだろう」
《煽りか?》
《死体蹴りやめて》
《急に刺すやん》
《何か気になる?》
「あ、えっとね。ゴーレムってそれを創り出すだけの理由があるはずなの。例えば、お宝を守ってくださいとか、ここから先を誰も通さないでくださいとか。そういう役割を与えられて創られるはず、なんだけどね」
《ほーん》
《この辺りに創り手がいるってこと?》
《目的がわからんってことか》
「うん。そうなの。この辺りに人はいなさそうだから、きっと事前に、この辺りに来た誰かを襲うように命令されていたんだと思う。でも、こんな何もない場所で誰かを襲う理由がわからなくて」
《たしかに》
《何かあるんじゃね? お宝とか》
《もしくは黒幕がいるんかもな》
その言葉にニドゥカの言葉を思い出した。確かこの場所にはエリアマスターとかいうヤツがいるらしい。そいつがここを訪れた存在を消そうとしてたってこと?
可能性はあるけど、手がかりもないし、明確な答えは出ない。私は首を横に振って、一旦考えることを止めにした。
「とりあえず、次はそのサンシャインってところに――」
周りを見渡しながらそう言いかけて、ふとある場所で止まる。
《どしたの?》
《何か見つけた?》
「何かいた。人かな?」
見つけたのは崩れかけている岩と岩の間。影が落ちる暗がりの中、ローブを目深に被った何かが、こっちを見ている。
《え、見えない。どこ?》
《めっちゃ眼いいやん》
《え!? こんな荒廃した未来に人が!?》
確かに生物がいる気配は乏しい。見間違いの可能性だってある。
それでも、ちゃんとこの世界で暮らしている存在かもしれない。私は見つけたその謎の正体を明らかにするべく、駆けだした。
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