第38話 呪いのエルフ、全力で戦う
ニドゥカが振るう斧を、ルカが短剣で受け止める。けど、直撃は防げても勢いまでは消せない。斧に振られるように、そのままルカの体は吹き飛ばされた。
「マズ――っ」
空中では身動きも取れない。追い打ちを掛けるようにニドゥカもまた跳躍し、斧を勢いよく振り下ろす。
衝撃と、戦塵が舞い上がった。
「ルカ!」
ただでさえ脆いのに、起きた振動で地面にさらに亀裂が入った。そんなことを気にも留めず、私は戦塵に呑まれた少年の身を案じる。
返事はない。代わりとばかりに煙が晴れると、立っていたのはニドゥカだけだった。
「――っ」
背後で、ルカが横たわっている。首と胴が切り離され、燃えている彼のことなど意にも介していないかのように、ニドゥカはこちらを見つめ、斧を構える。
「……ゼノリーク」
やるしかない。幾本かの触手で迎え撃とうと彼女と睨み合う、その最中。
彼女の背後で起き上がる、ルカを見た。
「――……!!」
回復したルカがその短剣で奇襲を仕掛けるのと、ニドゥカが瞬時に振り返り斧で防いだのはほとんど同時。
《今だ!》
私は、それを見守るでもなく、構えていたゼノリークの触手をニドゥカへと伸ばす。防御が間に合わないことを期待して、攻撃を仕掛ける。
けど、願った結果は訪れない。ニドゥカが姿勢を低くし、腰を落とす。足元にはさらにヒビが広がり、そしてそのまま上空へと跳んだ。
避けられてしまったが、しかし上空なら身動きは取れないはず。私は触手を操ってニドゥカを追い掛ける。
油断はしていなかった。最大限の警戒は払っていたし、身構えていたけど。
ただ甘く見ていたのかもしれない。
ニドゥカという存在を。
勇者であるということを。
「――っ、天井に!?」
勢いよく真上に跳躍したニドゥカはそのまま宙で身を翻し、天井を蹴って駆ける。
まるで地上にいるかのように天井を走る彼女は、あっという間に私の触手から逃れてみせた。
《思ったよりパワータイプじゃん……》
《勝てるの? あれに?》
悠々と着地して再び私とルカから距離を取った彼女を見て、私もその意見に同調してしまう。現時点で、ニドゥカへ一矢報いることができそうもない。かといって、このまま続けていても、時間が掛かるだけでいずれ私は失血して倒れてしまうだろう。今だって、なんとか耐えている状態だ。
《時間稼ぎが狙いか=10000円》
「やっぱりそう思うよね」
《ああ、というかオレならそうする》
本物のニドゥカもそう言うぐらいなんだから、きっと目の前にいるニドゥカも同じ思考を持っているんだろう。ならどうするべきか。相手を、焦らせればいい。
「お願い、ナインバイタン!」
私は半透明の白蛇を呼び出し、ニドゥカへと仕掛ける。それほど速くもない攻撃は、易々と躱されてしまうけど、それでいい。
「ゼノリーク!」
今度は触手で彼女を追い詰めようとする。けどそれも当然というか、やっぱり当たらない。
でも、これでいい。彼女の注目が私に向かえば、きっとその分ルカが動きやすくなる。
《ギルハ。攻撃の手を緩めるなよ=10000円》
「わかってるよ」
《いや、全部読まれてる。その上で、隙を逃すな》
「……それって――」
私が何かを確信するその前に、事態が動く。
気配を消して背後を取ったルカが、その短剣でニドゥカの首元を狙う。
「――っ!?」
「ルカ!!」
けど、それよりも、ニドゥカの攻撃の方がずっと速い。
斧による一閃を背後を見ずに放った彼女は、そのまま私の攻撃も避けていなす。
ルカの体は、真っ二つに。
飛び散る血は、漂う中で黄金の火を灯す。
「くそっ……」
下半身による支えを失ったルカは、落ちながら悔しそうに吐き捨てる。
幾ら再生できると言っても、痛みは伴うはずだ。見ていて、気持ちの良いものでもない。ルカの頑張りを無駄にならないように、私は必死に触手を振るい、ナインバイタンを操る。
勝てないのか。
決死の覚悟を以ても、届かないのか。
もう、私の体も限界が近い。さっきの傷が深すぎる。なんとか、ナインバイタンの力で出血を抑えているけど、それも応急処置に過ぎない。
ぼんやりとする頭を振り絞り、私は私にできることを続ける。
その最中、私は笑うルカを見た。気のせいかと思ったけど、見間違いじゃない。
笑っている、はずなのに。
どうして私の胸の中の不安は、増していくんだろう。
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