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第34話 呪いのエルフ、無理難題に付き合わされる

 天を昇ったその先の空気は、妖しく濁っていて、息苦しい。それは多分、単純に未来の私がいるからで、彼女からは絶えず呪いである毒が振り撒かれているようだった。そこは、今の私と何も変わらない。


「……それで、勝算はあるの?」


 目の前に佇むニドゥカから目を逸らさないまま、言葉だけ宙に浮かせる。本人ではないとは言え、彼女が放つ圧というか、殺意みたいなものはどうしようもなく私を釘付けにしてしまう。

 だから、無意識に私は向こうの世界にいるニドゥカの言葉を聞いて安心したかった。


《言っただろ。アレは本物のオレより遥かに弱い。勝てないほどじゃねえよ=10000円》


「そ、そうなのかな……? 凄い圧を感じるんだけど」


《まあ、魔力のねえ状態でもアレは強いけどな=10000円》

《強いのか弱いのかどっちよ?》

《まだマシってだけなんだろ》

《魔法も筋肉もあるとか強すぎだろ》

《でも、勝てるってことでしょ》


 そう。勝てない相手じゃない、らしい。ニドゥカと戦うなんて想定してなかったから、ちょっと気が引けるけど、でも相手は生身の肉体を持たない、スライム体。そう考えると気は楽だ。


《どこまでオレのことをわかって創ってるのか知らねえけど、多分ギルハが創ったんなら大体オレの性格も模倣されてんだろ。だったら割と何考えてるかわかるな=10000円》


「そうなの?」


《ああ、どうせすぐに攻撃してくる》


 瞬間。

 轟音と共に地面が爆発した。

 衝撃と振動が全身を駆け巡り、気がつけば私の体は冷たい床に横たわっていた。


「げほっ……、な、何が――」


 周囲を見ると瓦礫が散乱していて、先ほどまでいた場所と光景が違っている。薄暗くてボロボロで、埃っぽいそこはどうやら最上階から一つ下のフロアのようだった。上を見上げれば、根が這う天井と外へと繋がる穴、それからその淵から私を見下ろすニドゥカの姿が映る。


《宝斧エウノミアによる一撃だ。オマエのゼノリークが床を崩してくれたおかげで、直撃は避けたけど、振り下ろしの衝撃までは防げなかったっぽいな=10000円》


「え、攻撃されたの? 私……」


 全然見えなかった。あと一瞬遅かったら死んでいたってことだよね。ちらりと振り返ると、背後に漂う虹色のクラゲは、威嚇するようにニドゥカへと触手を構えている。


「ありがとうね、ゼノリーク。おかげで助かったよ」


《さっきの攻撃もオレならそうした。だから、やっぱりオレとアレはほとんど一緒だ=10000円》


「い、言われてても防げなくないかな?」


《文句言うな。まだマシだろ。ほら、次が来るぞ=10000円》


「――っ!」


 ニドゥカが斧を振るうと、斬撃がさらに屋上を破壊する。その衝撃は階下にいる私のところまで響いて揺れ、天井から瓦礫が降り注ぐ。


《いったん逃げろ=10000円》


「わ、わかった!」


 言われなくたってそうするつもりだ。私は落ちてくる瓦礫を躱しながら、必死にニドゥカから距離を取る。


《アレも降りてきたな。まずは斧による横薙ぎ。斬撃が飛んでくるからしゃがんで躱せ。それで仕留められないと判断したら、槍を投げてくる。それは見てから躱すんじゃ間に合わねえから、斧の攻撃が終わった五秒後に左に飛べ=10000円》


「え、え?」


《横薙ぎの斬撃が来るぞ=10000円》


「――っ!!」


 ニドゥカのコメントに何を返せばいいか混乱するものの、まずはそれに合わせてしゃがみ込む。

 その刹那、私の少し頭の上を斬撃が飛んで行った。それは遥か先の壁を切り裂き、崩していく。


《走れ。距離を詰められるな=10000円》


「う、うん!」


 すぐに駆けだして、先ほどのコメントを思い出す。確か斬撃を躱してから五秒後に左に飛ぶんだっけ。秒数なんて数えてないけど、私は一拍置いて、左に飛んだ。

 そして、それとほとんど同時に、私の体を突風が掠めていく。


《走れ。距離を取り続けろ=10000円》


 言われた通りに走り続ける。


《次の角を曲がったらいったん止まれ=10000円》


 角を曲がって、立ち止まると。目の前に斬撃が発生した。


《穴を飛び越えたらそのまま止まらず走り続けろ=10000円》


 言われた通りに穴を飛び越えて、ボロボロの道を突き進んでいく。背後から斬撃が迸り、床ごと崩して追いかけてくる。

 何度も、ニドゥカのコメントの通りに動いて、斬撃や槍の投擲を躱し続け、逃げ回る。


「ど、どこまで行けばいいの?」


 そろそろ体力も限界だ。そもそも私、長時間走るのに向いていないし、こんなに逃げ回るだけで彼女に勝てるのだろうか。


《ああ、そろそろいいかもな=10000円》


「え?」


 ニドゥカのコメントが流れるのと、私の向かう先にあった壁が爆発したのは、ほとんど同時。瓦礫を崩しながら、ニドゥカがこちらを睨んで、佇んでいた。


「はあ、はあ……、お、て追いつかれちゃったよ?」


《大丈夫だ。いいか、ギルハ。これから作戦を伝える。って言っても、その作戦でオレを止められる時間も一瞬だろうから、ほとんど賭けみたいなもんだが=10000円》


「……うん。大丈夫だよ」


 もう今さら逃げられないし、できることもない。私は頷いて、ニドゥカのコメントを待つ。


「アレにわざと近づかせろ=10000円」


「え?」


 けど、目を疑うようなそのニドゥカのコメントに、私は思わず、間抜けな声を上げてしまっていた。

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