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第33話 呪いのエルフ、ラストバトルを始める

 私の目の前に、知りすぎている人が佇む。彼女はいつものような明るい表情じゃなくて、無感情な顔で、ただ私のことをその冷たい双眸で見つめていた。


「長年、私が振り撒く呪いという名の魔力を浴び続けた結果、色々操れるようになってね。スライムと私の魔力を混ぜ合わせて、私はニドゥカを再現したんだ」


 彼女(、、)は淡々とそう説明してくれる。本物じゃないことは良かったけど、それでも目の前で敵対しているという事実が私の喉を渇かす。


《これが話していたニドゥカって人?》

《クール系美人じゃん》

《未来のギルハちゃんにとっても、ニドゥカって人は特別なんだ》


「これは私の記憶にある、最も強かった頃のニドゥカだよ。丁度、あなたが来た時代の時ぐらいじゃないかな」


 コメントたちに混じって、彼女(、、)が告げる。

 ニドゥカの強さはよく知っている。その優しさについても。

 だからもし。

 その優しさがなくなってしまったとしたら、目の前にいるのはこの上なくどうしようもない、災害。

 警戒したとしてもきっと無駄だけど、私は最大限の警戒をしたまま、ニドゥカについて溢す。


「燦絶の勇者、ニドゥカ・クルヌジア。彼女は魔王討伐に際して、その冒険の九割を達成して、現状私がいた世界で一番強いとされてるの。持ってる能力は、運命への干渉」


《運命への干渉?》

《どういうこと?》


「私たちが本来持つ、魂に干渉するってニドゥカは言ってたけど、それがどういうこといまいち私も知らないんだよね……」


「安心して良いよ。私の全力でも、ニドゥカの能力を再現することはできなかったから」


《ほな安心か……》

《なら最強じゃないんじゃないの?》


「……ううん」


 コメントたちの言葉を否定して、まっすぐにニドゥカを見つめる。それなら彼女(、、)がわざわざニドゥカを選んだ理由がない。どこまで再現されているのかは知らないけど、何も持っていないニドゥカをこうして作ったということは――


「でも、能力なしでもニドゥカは強くてね」


 彼女(、、)は嬉しそうに、声を弾ませる。まるで自慢するかのように、あるいは子どものように明るい声を鳴らした。


「ニドゥカは純粋な戦闘面でも、最強なの」


 空から次いで、何かが降った。ニドゥカの目の前に突き刺さったそれは、槍と斧。私も知らないそれを、ニドゥカは握り、引き抜いた。


「宝槍アイレーネと宝斧エウノミア。どれも私たちが生きていた世界で国宝と呼ばれるモノでね」


「な、なんでそんなものが……」


「この、あなたたちの言う未来の世界も、元は私たちが生きていた世界。土に埋まっていたものを、掘り起こしたの」


「……じゃあ――」


「当然、ニドゥカみたいに作ったものじゃない。これは、本物だよ」


 ニドゥカが左手に持った斧を軽々と振った。外壁に向けられたものだったけど、勢いよく繰り出したわけじゃないのに、それは――

 一閃となって、外壁を切り崩した。


「……っ」


《は?》

《やば!》


「私は私の弱点を一番知ってるからね。今の斬撃も、防げないよね」


 外壁が崩れて粉塵が舞う。あれがもし私に振られていたと思うと、ゾッとする。というか、そう思う間もなく死んでしまうだろう。


《ギルハ殿! 撤退だ! 早くアトラで元の世界に戻った方がいい!》

《対策した方がいいよね》

《俺たちも最強を連れてこよう》


「う、うん! そうだね! アトラ、元の世界に帰還して!」


 私は今なお宙に漂う小鳥に命令した。でも、小鳥はいつもみたいに無機質な声を出さない。ただ先ほどまでと変わらずに、私のことを映しているだけ。


「な、なんで……?」


 試しに魔力を流してみるもののそれでもアトラは反応しない。戸惑う私に、彼女(、、)の冷たい声が放たれる。


「無駄だよ。これまではできてたかもしれないけど、こんなに私と接敵して、私の呪いの影響を受けないモノなんてない。私が私の魔力で守ってるモノ以外は、全部私の魔力を受けてるはずだから」


「そんな……」


「そのアトラっていうモノ、外界との通信とか転送機能が主な役割みたいだけど、これまでこの未来に来た人たちのアトラを宙に漂う私の魔力で調べてね。転送機能について、呪いの影響で封じれるようにしたの。もちろん、今そうやって飛んでる機能については知らないし、それができるのも私がいる場所の近くだけだけどね。でも、これで逃げられないでしょ?」


 実際に彼女の言う通り、アトラは今も飛んでいるし配信もできている。私から見えている視界に、乱れもない。


《くそっ、こいつ倒さないと元の世界に帰れないってことか!》

《本当の最終決戦っぽくなってきたな》

《いや、勝てるの? ギルハちゃんやばない?》


 心配するコメントたちの言葉が次々と流れていく。

 正直、今の私にニドゥカを倒せるとは思えない。しかも魔力勝負ならまだしも、物理的な戦闘ではほとんど勝ち目がないと言ってもいいだろう。


「……私――」


 ここまで来れただけでも十分かもしれない。元々引きこもりだったんだし、できることはやったのではないか。

 そんな諦めの感情が少しだけ膨らんできたけど、でもやっぱり――


「まだ、戦うよ」


 これは私ができるニドゥカへの恩返し。昏い地下室から連れ出して、世界を見せてくれた彼女がいたからこそ、私は今ここにいる。

 なら、やれることをやろう。

 それが、私にできることだから。


《そうだ。オマエならできる=10000円》


 私の視界に、そんなコメントが流れていった。それは、いつものコメント。ただお金が付けられているかどうか、ただそれだけなんだけど。

 どうにもそのコメントに、何故だか見覚えがあった。


《魔力も特異な能力――、稀星(エスタリウム)のねえオレなんて、ザコだ。いくらでもやりようはある=10000円》


「え!? ちょ、もしかしてニドゥカ!?」


《え? 本人降臨?》

《本物きちゃあ》

《向こうの世界の人たちもチャットできるん?》


 コメントたちがざわつく。確証はない。でも、多分、絶対、そのコメントを流したのはニドゥカだという自信が、私にはあった。


《カイネ王からたんまつ? ってやつを借りて送ってる》


「やっぱりニドゥカだ……!」


 突如現れた救世主に、私の心を渦巻いていた不安が一気に晴れた。


「ニドゥカ? どういうこと? 外界との通信は切れてるはずだけど」


「私には教えないよ!」


 べっ、と。舌を出して対話を拒絶。

 そして今度こそ、私は胸を張って対峙する。未来で独りぼっちのはずで、元の世界に戻っても誰とも協力なんてできないけど。

 今の私には、色々な人がついてくれている。

 それだけで勇気が湧いて、立ち向かえていた。


《そんじゃ攻略するぞ。オレとオマエで》


「私とニドゥカを、倒そう!」


 壊滅したこの場所に、場違いな明るい声が響いて。

 運命を変える戦いが、始まった。

お読みいただきありがとうございました!


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していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が早くなるかもしれません!


ぜひよろしくお願いします!

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