第3話 呪いのエルフ、配信をやらされる
聞き慣れないワードに私は呆気にとられていた。はいしん? 一体何をさせられるんだろう。色々と疑問が浮かぶけど、そんな私の不安を払うようにニドゥカは楽しそうに笑って何かを取り出した。
「……? 何それ?」
それは小鳥のような形をした、粘土細工だった。作られたその小鳥は今にも動き出しそうなほどに、精巧だ。
「これはアトラっていう配信デバイスだ。マイクとカメラの役割もあるし、こいつを通して全視聴者にオマエを映す」
「さっきから何を言ってるの……?」
ニドゥカが何を言っているのか、全く意味がわからない。言葉から推察しようにも、聴き馴染みのない単語の連発で、脳が単語の咀嚼を拒否している。
そう混乱極まっている私に、彼女は苦笑いで応えてくれた。
「実を言うとオレもよく知らなくてさ。まあ、習うより慣れろってな。試しにやってみようじゃん。ギルハ、その小鳥にオマエの魔力を注いでみろ」
「ええ~? うん、まあやってみるけどさ」
別に働きたいわけではない。それに全く未知の仕事をやらされそうになっている事実で、足が重くなっているのは事実だったけど、ニドゥカがそう言うならと試しに小鳥を手に乗せてみる。
そして、魔力を注ぐ――
「わ――っ!?」
「――ピピ、管理者の魔力を感知。電源を起動。これより全ての機能をアクティブにします」
小鳥の瞳が青く光ったかと思えば、小さな嘴からそんな無機質な声が紡がれた。思わず手を離してしまったけど、小鳥は小さな羽を動かしてその場に停滞し、音もなく宙に浮かんでいる。
「え、えっと……」
「今はまだ撮影は開始してねえよ。ギルハの意思でオンオフが切り替えられる。ほら、これ着けろ」
「わ、わわ――」
ニドゥカが放り投げたそれを慌てて受け取り、視線を落とす。眼鏡を片方だけにしたような形のそれを、着けて覗いてみても特に視界に変化はない。
「それにオマエの配信画面が映る。ちょうど、その小鳥が映す光景が、そのまま画面に映る仕組みだ。コメントも見えるから、しっかりとコミュニケーション取れよ」
「……何言ってるか全くわからないけど、私にコミュニケーションなんて無理だよ? ニドゥカも知ってるでしょ」
「なんでそんな自慢げなんだ、まったく。……コミュニケーションって言ってもオマエが一方的に喋って、他のヤツはそれに対してリアクションをする、って感じになる、らしい。だからそんなに気構えなくていいぞ?」
「……そんなに詳しいなら、ニドゥカがやればいいじゃん」
ジトっと、目の前でキョトンとする彼女を見る。
ニドゥカは同性の私から見ても美人だ。目鼻立ちが整っていて、スタイルも良い。明け空のように瞬く、美しい黄金の長髪は後ろで束ねられていて、動く度にそれが絹糸のように揺れる。頭頂部では髪の毛が跳ねているけど、その特徴さえも加点されるぐらいには整って見える。鋭い目つきに琥珀色の瞳がよく似合っていて、雰囲気含めて、美しさよりもカッコイイと思ってしまう。
そんな容姿抜群の彼女こそが、誰かに見られるべきだと思うんだけど、ニドゥカはわかってないと言わんばかりに、呆れたような溜め息を返す。
「オレじゃインパクトが足りねえよ。良いか? ギルハはもっと自分に自身を持った方がいい。雪原を思わせる銀髪ショート。エルフだから、年齢の割に肌は透き通るように張りが合って瑞々しい。虹色に輝く瞳が片方髪で隠れてるのもポイント高いな。そして何より、胸がでかい」
「む、胸は関係ないよね……!?」
「いいや。寧ろ一番大事な部分だな。言っただろ、インパクトが必要だって。低身長なのに、胸があるそのアンバランスなのがいいんだって」
「そういうものかな……?」
「そういうもんだ」
別に自分の体が誰よりも優れていると思ったことなんてなかったけど、ニドゥカにそう言われると何となく自信がつく。
「それに何より、この使命はオマエに適任だからな。別にそんな容姿だけで決めたんじゃないから、安心してくれ」
「本当かな……?」
色々と信憑性に乏しいけど、今の私にそれを暴くだけの材料はない。ただ彼女の言う通りに従うことしか、できないでいる。
「そんじゃ、始めるか」
「始めるって、何を?」
「配信だよ。デバイス……、あの小鳥に向かって配信開始を念じてみろ」
「う、うん……」
そう言われるけど、はいしんかいし、ってよくわからない。でも、あの小鳥と魔力が繋がっているのは感じ取れる。そこに再び力を込めてみると、小鳥は羽ばたきながらまたも無機質な声を震わせた。
「――ピピ、マイク、カメラ共にオン。これより配信を開始します」
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