第24話 醒めない悪夢と再び見える
《なあ、ルカ遅くないか?》
ルカに言われた通りに待っていた私は、コメントたちと遊んでいた。そんな中、流れていくコメントの一つが目に留まる。
「確かに……。どれぐらい経ったかな?」
《現実時間で大体十五分ぐらいかな》
《そっちの世界とで時間間隔違うんじゃね?》
《いや、太陽の進みの遅さ、建物の影の傾き具合的にこっちの世界と同じっぽいぞ!》
《ガチ勢おるやん》
《早口で言ってそう》
「十五分ぐらいかあ。心配だし、ちょっと様子観に行ってみる?」
特に何も考えずにそう口にしたものの、彼がどこに行ったのか知らない。勝手に動けば迷子になることぐらい、どれだけ馬鹿な私でもわかる。
《良いじゃん。探しに行こうぜ》
《ギルハちゃんとの雑談は楽しいけど、ストーリーも進めないとね》
「で、でも、ルカがどこに行ったかわからないよ?」
《たし蟹》
《池袋なのにわけわかんないもんな》
やっぱり待っているしかできないのかな。それでも増幅する不安に、居ても立っても居られなくなっている自分は確かにいて、無駄だと思いながらも必死に辺りを見渡してしまう。
《どこ行ったかわからんけど、目星は付くだろ》
「え!?」
思わず声を上げてしまっていた。私のその反応に、他のコメントたちも便乗して、ざわつき始める。
「ど、どこにいるの!?」
《いや、確証があるわけじゃないんだけど》
「大丈夫だよ! 私じゃ何があっても思いつかないから!」
《あ、サンシャインシティ?》
《そうそう》
また、別のコメントがそう流れていく。そう言えば、私たちの目的地はそこだった。なら、そこに向かう道中にルカがいる可能性が高いだろう。
「じゃあサンシャインシティってところに行ってみようよ!」
《ここからサンシャインシティ、案内できるかな》
《そのための俺らじゃん?》
《任せたぜ、東京の民》
《任せてほしい》
なんて頼りになるのだろう。皆の言葉に私は後押しされて、ルカを探すために走り出した。
◆
これまで何一つとして失敗してこなかった。全てが上手くいっていて、何も障害らしい障害もなく、ここまでこれた。
神は、僕のことを愛していると、そう思い上がった考えまで浮かぶ始末。それほどまでに、僕の人生は完璧だった。
なのに――
「こんな――っ、もの――……!!」
僕は、纏わりついてくるスライムたちに苦戦していた。苦戦、なんて言葉使いたくなかったけど、でも事実として、僕はザコの象徴足るそれを払えないでいる。
「無駄だって。そいつらは本能のままに、対象を食らう。魔力がある者には特に、その動きは活発になるんだよ。理屈じゃない。悪意じゃない。水が下に流れるように、現象として、スライムはお前を取り込む」
いつの間にか、姿かたちが戻っている赤錆の少年が、呆れたように呟いた。確かに切断したその首元からは、黄金の炎が上がっている。
「いやっ、僕には稀星があるんだ! それなのに――」
ありえない!
僕の言葉が最後まで紡がれることはなく、スライムが口内に入り込もうとしてくる。それを僕は僕自身の稀星で浄化させるけど、スライムたちの攻撃の手は緩まないし、本来の効力を発揮できていないようだった。
どれだけ打ち消しても、どれだけ霧散させても、こいつらに恐怖心はないらしく、飛び掛かってきてはそれを僕の能力で消して、また飛び掛かってくる。
「なんだっけ。お前の能力って、悪意ある力を消し去るモノって言ってたよな」
「――っ」
「対人戦ならそりゃあ強いかもだけど、悪意を持たないやつに対しては弱いんだな」
確かに無尽蔵に消せるわけじゃない。僕にだって限界はある。でもそれは、このスライムたちだって同じはず!
僕は必死に抵抗し続け、その猛攻が収まるのを待っていた。
「どれだけ消しても無駄だよ。この湖全体を干上がらせるつもりじゃないと、終わらないからさ」
「くっ――」
僕は視線を湖へと向ける。まだまだその嵩が減る気配はなく、終わりが見えない。
「こんな……」
スライムが纏わりついて、身動きも取れない。その特性である物体の消化は食らってないけど、それももう時間の問題だろう。
いやだ。
いやだ!
こんなところで僕の人生が終わるわけない。終わるわけにはいかないんだよおおおお!
僕の想いに、神がきっと応えてくれる。これまでだってそうだったんだ。ここだけ、今だけ僕のことを見捨てるなんて、あり得ない!!!
「あり得ないだろ!!!」
「……っ!!」
果たして、僕の願いが届いたのか。それまであったスライムの猛攻は止まった。
いや、違う。
これは――
「……はは。ハハハハハハハハハハハハハ――っっ!!」
僕に攻撃を仕掛けていたスライムたちは、いない。
厳密に言えば、少し違うな。
僕の体には今もスライムたちが纏わりついている。でもそれは僕を食らおうとしているわけじゃない。
僕の体からは粘性の液体が伸ばされていて、半身をゲル状に包まれている今のこの状態は。
僕が、スライムを取り込んだんだ、と。そう結論が出せた。
「どうだ! 僕は最高なんだ! 神から愛されているんだよ! こんなザコにやられるわけない! 序盤で終わるような使い捨てキャラじゃないんだよ!!!」
「――っ」
あり得ない能力の開花。劣勢だった人間の攻勢。
さすがにこの状況は想定していなかったのか、ツヴァルカインの表情が強張っている。湖に大量にいるスライムも、僕を襲おうとしてこない。多分、スライムを取り込んだ僕を、同一個体だと認識しているのかもしれない。
笑いが止まらない。
「僕が主役だ。僕が主人公だ。僕が最強で、僕が英雄で、僕が一番なんだよ。誰にも邪魔させない!」
僕を止められる人間はもうここにはいない。喜び勇む足で、生意気なツヴァルカインへと一歩、足を踏み出した。
「――なに、してるの?」
聞き覚えのある声だ。僕は声のした方へと、悠然と振り返る。
そこには肩で息をする銀髪のエルフが、脅えたような瞳をこちらに向けて、立っていた。
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