「母の日」の夕食会、準備開始
母の日は日曜日、曜日の感覚が分からないテレーザ
「それでね、瑛子さんにゆっくりとお夕食を食べていただきたいの」
テレーザが熱心に、「母の日」の計画を話している。
聞いているのは、尊、葵、駆、この3人だ。
「まあ、それは喜ぶんじゃね」
と駆。
「で、私たちまでご相伴にあずかれるってわけね?」
と葵。
なんだかこの二人は戸惑っているようだ。
「王女が料理なんかできるのか」
と。
「いいじゃないか、すばらしい」
ただ一人、尊だけが大絶賛だ。
「だから、途中でおじ様がお帰りになっても、そのまま食卓に着いていただくわ。
瑛子さんに食事の中断はさせない」
とテレーザ。
その言葉を聞いて、顔を見合わせる3人。
そして、葵が口を開く、
「あのさ、テレーザ、母の日って日曜日なんだけど」
と。
「え、知ってますよ、それがどうかしました?」
とテレーザが言う。
「日曜日なんだからさ、父さんは家にいるだろう」
と駆。
「え、そうなの、なんで?」
とテレーザが不思議そうに聞いた。
「ねえ、テレーザ、あなたって曜日の感覚ってある?」
と葵が言う。
「感覚?」
とテレーザ。
何を聞かれているのか、わからない様子だ。
「曜日があるってのは、知ってるよね?」
と駆も言う。
「それは、知ってます。月曜日、火曜日、」
とテレーザ、この「曜日」と言うのは全世界共通だ。
「土曜日と日曜日は仕事や学校は休みなんだよ」
と尊が言う。
「休み、なんだ。」
とテレーザ。
休み、それはわかる、知っている。
王宮でも、侍女が
「明日はお休みを頂戴いたします」
と挨拶をしていたものだ。
しかし、土曜日、日曜日が全国的に休みだ、そんな感覚はなかった。
王宮に休みはない。
テレーザにも、何の予定のない「休日」があったがそれが土曜や日曜だったのかわからない。
「学校にも行ったことないんだからわかんないよな、金曜日の放課後の解放感とか」
と駆が言う。
「日曜の夜の絶望感とかね」
と葵。
そう言えば、日曜の夜、葵が不機嫌にぶつぶつ言ったのを聞いたことがあった。
「ああ、そういうことだったんだ、葵がもう明日は月曜だ、とか言ってたのって」
とテレーザが思い出したように言った。
「だから、土曜日や日曜日はみんな家にいることが多いのね、そうか朝ごはんが遅めなのも、そうっか」
そ妙な納得をするテレーザ。
「お姫様は気楽でいいね」
葵と駆が同時に言った。
テレーザには、曜日の感覚がない、それがどうしてお気楽となるのかはわからなかった。
「この国、いやファンタジーワールドの多くの人たちはね、
月曜日から金曜日までは働いたり学校に行ったりして、土曜日と日曜日にお休みをするの。
もちろん、土日に働いている人も多いけど。
それに、年末年始や夏場には長い休暇があって、旅行に行ったりするわ。
それがこの世の中の、常識、っていうか普通のことよ」
と葵。
「テレーザはね、とても浮世離れしているところがある。王女なんだから仕方ないかもしれないけど、
知らないって恐ろしい事よ。あらぬ誤解を生まないためにも、今のうちに色々と知っておいた方がいいわ」
と続ける葵。
「あ、葵はね、君のことを責めているんじゃないよ。だた」
そう言いかけた尊。
それを遮るように、
「わかってる。私、知らないことだらけだもの。本当に何も知らなかった、知ろうとも、知りたいとも思わなかった。
国民の暮らしを視察なんてこともやったのに、何も見ていなかった、見せてももらえなかったけど、
でもこれは言い訳ね。」
とテレーザが神妙な面持ちで言う。
王女として暮らしていた頃、いろいろなことは学習した。
しかし、それはより良き王女となることばかり。
王の言いつけに黙って従い、決められた相手と結婚する、そうなるように仕向けられた事ばかりだった気がする。
「じゃ、ここで庶民の暮らし、しっかりと経験してくれ」
と尊が言った。
「でもさ、尊兄い、引きこもりからそう言われてもなあ、説得力ぜんぜんないじゃん」
と駆に言われる。
「で、メニューは考えてあるの?
と葵。
「興味あるなあ、王宮ディナー」
と駆。
「食材調達するんだろ?珍しいものがあるんなら売ってる店調べないと」
と言うのは尊だ。
「メニューはね、家族で食べた夕食にしようと思っているの。
特別の日ではない普通の夕食ね。材料を思い出しておくから」
とテレーザ。
「じゃ、買い物は私たち、みんなで行こう。
テレーザ一人じゃ心配だしね」
と葵が言う。
タブレット片手に必要な食材をリストアップするテレーザ。
王宮での食事、一人の時も、家族で食べる時も、いい思い出はない。
それでも、出された料理はよく覚えていた。
王宮の料理人が、腕によりをかけて作ってくれた。
何度か、こっそりと調理室を覗きに行ったことがある。
大きな厨房に、大勢の料理人が忙しく動き回っていた。
テレーザを見かけると、皆、シェフの帽子を取り、胸に手をあてて礼をした。
料理人が、手早く食材を切っていく様子に目を奪われた。
まるで魔法使いみたい。
今度は自分が包丁を持ち、瑛子と家族のために料理を作る。
あそこにいたシェフのように。
そう思うとテレーザはなんだかワクワクしてくるのだった。
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