将来の夢
テレーザにとっての夢とは?
「私の夢は、ファッションデザイナーになることです。
私のデザインしたお洋服を、ファンタジーワールドの大勢の人たちに着てもらいたいです。
そのために、被服を学べる大学へ行けるようにがんばります」
「将来の夢」
最初に発表した女子生徒を皆の拍手が包む。
その子はほほを紅潮させながら席に座る。
自分の夢を高らかに語ったその表情は自信に満ちていた。
「おお、デザイナーか、普段から絵が上手いもんな。自分の作った服をどんな人に着てもらえたいいだろうか?」
と児玉先生がその女生徒に聞く、
「それは、やはり美の国の王女様かな。
世界で一番おきれいなお姫様に着ていただきたいです、フィオナ・クリスティーネ王女のような」
と女生徒。
「フィオナ」
テレーザにとっては久しぶりに聞く名だった。
ここでも美しさで有名なんだ、美の国の王女は。
「そうか、美の国の人々は美形で有名だからな、とくに王女様方はそれは美しいと評判だ。
3姉妹だっけな、いや、もう一人。たしか4人の王女がいらっしゃるよな、美の国には」
と児玉。
その時、一瞬児玉がテレーザを見た。
しかし、彼女は動じることもなくその言葉をただ聞いていた。
「まるで他人事」のように。
思わず、振り返ったのは駆だった。
後方に座っているテレーザ、そうだこいつは美の国の王女なんだ。
「でも、綺麗なのは3人だけなんでしょ?」
とほかの女子が言う。
「王室の雑誌で見たわ、美の国の美しき3姉妹って」
「じゃ、もう一人は?」
「出来損ない、ぅて噂よ」
「ほとんど公の場に出てこないしね」
クラスの女子たちがざわめき始めた。
ここでも王族、王女たちの話題は絶えないようだ。
「そういえばさ、その出来損ないのお姫様、この前の姫君格付けランキングに出たんでしょ?」
ととある女生徒が言ったところで、
「じゃ、つぎ。俺が発表します」
と大きな声がした、駆だった。
「おお?都留田。お前が自分から手を挙げるなんて。
珍しいな」
児玉がそう言い、駆を次の発表者に指名した。
先ほどまで王女の話題で盛り上がっていた女子たちが、一斉に駆を見つめる。
「さて、どうするかな」
立ち上がったのはいいが、内心困り果てる駆。
宿題である、「将来の夢」そんな事を考えてきてはいなかった。
当てられなければ、やっていなくても問題はない。
レポートを出せと言われたら、休み時間にでも適当に書いてしまうつもりでいた。
「自分の将来の夢は」
そう言うと、深く息を吸う駆。
この先を考えていた。
「将来は、倭剣術を極め、剣士として誰かを守る仕事がしたいです」
駆は即席で考えた、自分の夢を語った。
「そうか、都留田の家は元々、倭剣術の道場だもんな。
お前にも、代々剣士の血が流れているんだ。頑張ればかなうはずだよ」
と児玉。
発表を終えて、周囲を見渡すと、女子たちが自分を見ている。
なんだか、ポワンとした目をしている。
「やばい事を言ったか」
と駆。
そもそも、何故、剣士になりたいなどと言ってしまったのか。
兄の尊は多少、倭剣術の心得がある。
未だに道場に出入りしているかつての門下生たちから手ほどきをうけているのだ。
駆も誘われたが、拒否していた。
今更、剣術だなんて、時代遅れだ、そう思っていた。
「まあ、べつにすぐに気が変わった、と言えばいいんだし」
と駆は気楽に考えることにした。
話題がテレーザの出場した「姫君格付ランキング」から逸れればいい、
その勢いで手を挙げたまでだ。
その後、数人の生徒たちが発表をした。
「音楽家になりたい」
「医者になって人々を救いたい」
「子供たちをお世話する保育士になりたい」
どれも夢と希望にあふれていて、聞く者のを明るい気持ちにさせるものばかりだ。
「夢って持っていいんだ。将来を自分で考えていいんだ」
みなの話を聞きながら、テレーザは思う。
自分には許されなかったこと。
「どんな王女におなりになりたいのですか?」
そう聞かれたことは何度かあった。
そのたび、
「国王陛下のお力になり、この国の発展のためにお尽くしする、それだけでございます」
と答えた。
自分が「何か」になりたい、考えたことなんかない。
それは、姉たちも同じだった。
第一王女、フィオナ・クリスティーネは立派な女王になる、こと以外の選択肢はなく、
楚歌の2人の姉は、女王を支え、お守りする、これが使命だった。
「私たちって、夢がないのね」
とテレーザ。
その時、
「では、誰か発表したい者はいるか?時間的にあと一人だ」
と児玉が言う。
「ねえ、テレーザさん?の夢も聞いてみたいわ」
と女子生徒の一人が言った。
「そうね、異国の同年代の子たちの考えも聞きたいわ」
女子たちはテレーザに興味津々だ。
テレーザは困って下を向いていた。
自分に発表できることなど何もない。
それでも、周囲の視線はテレーザに注がれたままだ。
「どうしよう」
すっかり固まっているテレーザ。
そんな様子に、隣の席のたまきが心配そうにのぞき込んでいた。
「おいおい、いきなりはキツいだろう。
準備もしてないだろうし」
と児玉が助け舟を出した。
結局、別の生徒が最後の発表者に選ばれ、1時間目の授業は終わった。
休み時間、さっそくテレーザを取り囲む、女子生徒たち。
その様子を、教壇の上から児玉が見つめていた。
テレーザと目が合った一瞬、なにか嫌なものを感じたテレーザ。
「この人は、私を探ろうとしている」
それは、好意的な興味ではなく、悪意に近いものだった。
応援していただけるとうれしいです。




