エマの処遇、そしてつのる妬み
エマがやっと戻ってきました。
廊下の向こうから歩いてくるエマの姿が見えるや否や、
テレーザが走り出した。
エマの元に向かって。
王宮、クリスタルパレスの王たちの私室エリア。
長い廊下の先にあるテレーザ王女の部屋。
そこでテレーザは、夕方になるのを今か今かと待ち構えていたのだ。
「日が落ちればエマが戻ってくる」
そう思いながら。
そして、西の空に日が傾き始めると、部屋から廊下に出た。
侍女が慌てて後を追う。
「テレーザ様、もうしばらくお待ちください。できればお部屋で」
と侍女が言うがテレーザは聞く耳を持たない。
それどころか、廊下の先にある階段に誰かの気配がするたびに身をのりだし見つめていた。
しかし、なかなかエマは現れない。
付き添う侍女に部屋に入るように促される、もう何度もだ。
テレーザもさすがにあきらめて戻りかけた、その時
廊下の奥にエマの気配を感じた。
まだ姿は見えないが、エマがもうすぐ近くまで来ている。
テレーザにはわかっていた。
思わず廊下を走るテレーザ。
やっと視界にエマを捉える、もう少しだ。
エマも、テレーザに気付いたようだ。早足になりテレーザの元に。
久しぶりに、とは言え数日だが、再会したテレーザとエマ。
2人は無言でただ抱き合った。
そして、どちらともなくクスクスと笑い出したのだった。
普段は物音ひとつしない廊下に笑い声が響く。
「あらあら、こんなになっちゃって」
とテレーザがエマの傷を見ながら言う。
「だいぶ治ったのに」
とエマ。
二人は腕を組み、笑いながら廊下を歩きテレーザの部屋に入って行った。
また静寂が戻る荘厳な廊下。
その廊下での騒ぎを聞いていたのが、第2王女、カタリナ・オルセウスだった。
「なによ。大きな声で」
とカタリナ。
カタリナ王女の私室はテレーザの部屋の並びにある。
ちょうどカタリナの部屋の前で、テレーザとエマは再会し騒いでいたのだ。
「あれは何なの?」
と外の騒ぎをカタリナ王女が自分の侍女に聞いた。
「テレーザ様の特別な存在が医務室から戻って来たようですね。森で何かあったとか」
と侍女が言う。
「テレーザごときが父上に直談判だなんて、身の程知らずな。侍女を特別扱いだなんてテレーザのくせに」
とカタリナが吐き捨てるように言った。
侍女はそれには答えることも出来ず、その場にじっとしていたのだった。
テレーザの部屋、寝室で。
「エマ、お帰り。ひどい目にあったわね。でもよかった」
エマをベッドに座らせてテレーザが言う。
「王女は?王女は大丈夫だったんでしょうか」
とエマ。
医療室にいる間、ずっと気になっていたことだった。
「私は大丈夫よ、あの時ダークウルフの心に訴えかけたの。
こんなところで、丸腰のか弱い女の子を襲っていいの?って。
そうしたら、ウルフはエマを襲うのをやめて、そのまま森の奥に戻って行ったわ」
テレーザ言った。
「なんで私はただの謹慎で許されたのでしょうか」
とエマがもう一つの疑問をぶつけた。
「それは、私が父上にお願いしたからよ。本当は、北の地の果てへの流罪だったんだけどね。
あなたがいないと、お嫁には行かない、って父上に訴えたの。
あなたの魔法使いとしての資質もなくすには惜しい存在だって言ったわ」
とテレーザ。
「でも、貴女を危ない目にあわせて、私は死罪でもおかしくないのに」
とエマが言うと、
「父上に泣きついたのよ。生まれて初めて。家族の中では父上が一番私に好意的だもの。
生涯一度だけの願いをお聞き届けくださいませ、エマを罪に問わないと言って下れば、
わたくしは、喜んで彩の国に嫁ぎます、ってね。」
とテレーザ。
そして、
「その代わり」
「その代わりに、姫君格付けランキングに張り切って参加することになったけどね」
とテレーザが言う。
「姫君格付けランキング」
彩の国の使者との話の流れで、テレーザが参加するということになっている、
今年の「姫君格付ランキング」
テレーザにとっては全く興味もない、出来れば避けたいイベントだ。
何とか回避する言い訳を考えていて、侍女を通して打診を続けていたのだ。
それを一転して「張り切って参加」と方針転換。
まあ、テレーザにけがもなく、そもそも森の奥、ベルデの森と呼ばれているエリアに
勝手に入り込んだのはテレーザだ。
資料によると、あの侍女は魔法使いの才能も豊かだ。
このまま修行をさせれば、有能な魔法使いとなるだろう。
テレーザとともに彩の国に行かせれば、情報収集にも役立ちそうだ。
そんな思惑もあったのか、
エマに対する処分は、「謹慎」というごく軽いものとなった。
この件は公にはされなかったが、噂は広まるもので、
「テレーザ王女が森に遊びに行き、そのとき魔獣の襲われた。
王女の特別な存在であるエマが魔獣を撃退し、その功績により処分はごく軽いものとなった」
そんなことを、城内の至る所で話している侍女や従者たち。
そのうえ、
「テレーザ王女の特別な存在、魔法の能力が素晴らしいって
王宮魔法使いから直々に手ほどきをうけるんだそうよ」
と。
実際にエマは宮廷内にある、宮廷魔法使い養成機関の特待生として魔法の鍛錬をする、
そして、宮廷魔法使いが直々に指導にもあたる、そういうことになっていた。
今までのように、森の奥のダイナ夫妻の元に行けなくなったのは残念だが、致し方ないだろう。
「エマったら、特別な存在になってそれから今度は王宮直属の魔法使いから魔法を習うの?
なんでよ、いつもエマばかり」
とかつて同室だった、ルナ・ルイーズが、一人つぶやいていた。
「なんで、いつもエマばかりがいい思いをするの?」
まだ一度も、仕えるフィオナ・クリスティーネ王女に同行を許されておらず、
名前すら呼ばれない。
ルナ・ルイーズの心に、ふたたび妬む気持ちがくすぶり始めていた。
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