襲撃と処遇
エマの災難
「姫、後ろにお下がりを」
エマが思わず叫んだ。
エマはテレーザの前に立ちはだかり、覚えたばかりの防御をテレーザに、にじり寄ろうとしている
2匹のダークウルフに鋭い攻撃を仕掛けた。
それから。
気が付くと、エマはどこかの部屋のベッドに寝かされていた。
真っ白い天井、真っ白い壁、そしてカーテン。
うっすらと目を開けたエマがぼんやりとした周囲を見回していた。
何が起きたかわからず、まるで放心状態のエマ。
しかし、すぐに、
「王女は?」
と叫び身体を起こした。
「あら、気が付いたのね、まだ寝ていないと、さあ」
そう言って起き上がったエマを寝かせるのは傍にいた看護係の侍女だ。
「ここは?」
とエマ。
すると看護係がエマのベッドサイドに座り、話し始めた。
「ここは王宮の医療室よ。あなたは、テレーザ王女と共に、ベルデの森の洞窟付近でダークウルフに襲われたのですよ、覚えていないの?」
と看護係が言う。
「あんなところまで行って。あの辺りは禁足地だというのに」
と腹立たし気に言う看護係。
そう言われて、エマが記憶をたどる、あの時何が起きたんだっけ。
テレーザと穴モグラを見に森の奥まで行った。
近道を通って戻ろうとしたとき、道に迷ってそこにダークウルフが現れたんだ。
ダークウルフ、魔獣の中でもどう猛で攻撃的だ。
魔力で人を魔やかすよりも、まず最初にすぐ襲ってくる。
身体を動かそうとすると、あちこちが痛んだ。
手と足には包帯がまかれている、そしておでこには大きな絆創膏。
何かに引っかかれたようなミミズばれがあちこちに出来ていた。
「あの、テレーザ王女はご無事なのでしょうか」
エマが改めて聞いた。
「お前が気にすることではない」
背後から低い声がした。
王宮の医師だ。
「お前は一日も早い回復することに専念し、謹んで今後のお沙汰を待て」
医師はそう言い、エマの状態を確認すると、小さな声で看護係に何かを指示しその場を離れた。
「王女は大丈夫よ、お怪我もなくご無事です」
看護係が小さな声で教えてくれた。
「あなたのことはこれから処分が決まるわ。今は早く良くなることだけを考えて」
と看護係。
エマはだんだんと自分の記憶が鮮明になるのを感じていた。
あの、森からの帰り道、
テレーザを防御の結界で包み、そしてダークウルフに立ち向かった。
エマの前にいたウルフに攻撃を仕掛け、仕留めたと思ったその時、いつのまにか背後にいたもう一匹に
襲われて身体を倒された。
ウルフと揉みあいながら、なんとか身体を引き離そうとするエマ。
こんなことは故郷で家畜の冬羊を狙う野犬相手に何度もやったことがある。
こういう時は、口の中に手を入れるんだ、喉の奥まで、そうすればむせて、ウルフはひるむはず。
エマの身体より大きなダークウルフにがっしりと押さえられているエマ。
なんとか、ウルフの口に向けてこぶしを差し入れようとした、しかしそれよりも早くウルフはそれをかわし逆にエマの首元を狙って牙をむき出しにしていた。
その時、ウルフの身体が硬直した。そしてエマの身体を離した。
もう一匹も同じように身を縮めるにうずくまっている、
見ると、テレーザが結界を抜けてウルフに向けて何かの力を放っていた。
「エマ!早く王宮魔法使いに伝達をして!」
テレーザが叫ぶ。
エマが力を振り絞り、宮殿にいる魔法使いに緊急の援護要請を送った。
そして、エマの記憶はそこで途切れた。
「そっか、テレーザが助けてくれたんだ。」
とエマがポツリと言う。
テレーザに会うことはもちろん、どうしているのかも全く知ることも出来ないまま、
エマは医療室で数日を過ごした。
ダークウルフに身体のあちこちを引っかかれ、足と腕を噛まれていたエマの怪我も、だんだんと回復していた。
病室内であれば歩き回れると様になっていた。
「私はどうなるんだろう」
自分のこれからと、テレーザがどうしているのか、そればかりが気になるエマ。
看護係はあれ以来、テレーザに関することは何も話してはくれない。
聞いたところで、答えてももらえない。
この先の自分の処遇、何かの決して穏便ではない処分が下るはずだ。
以前、テレーザの乗った馬車が、迷わせ鳥に狙われた。
その時は、自分以外、退去を言い渡された。
第一侍女のレイアはその後取り消されたけれど。
今度はこの前とはわけが違う。
テレーザ王女の身を危険にさらしたのだ。
彩の国への輿入れが決まっている王女の身に何かあったら外交問題だ。
きっと自分は、よくて退去、最悪なら。。。
そんな事ばかりが頭をめぐった。
どんなに寛大な処分が出たとしても、もう王女の特別な存在ではいられないだろう。
彩の国への同行するのも叶わないだろう。
「私、極刑よね」
そうとしか思えない。
そんな時、あの医師が見知らぬ人物を伴ってエマの元にやって来た。
その後ろには、侍女頭マリアとテレーザの第一侍女、レイアの姿もある。
「いよいよだ」
とエマ、ついに自分の処分が言い渡されるのだ。
「こちらは王宮懲罰委員会の方だ」
と医師。
「私は懲罰委員会、委員長のエランといいます。この度の一件について」
とエランと名乗った男は語り始めた、
緊張の面持ちで、エマはエランの言葉を待った。
「この度の一件につきまして、テレーザ王女、特別な存在であるエマ。
謹慎を言い渡す」
とエラン。
「謹慎ですか?」
意外な顔でエマが聞く。
その言葉には答えずエランは、
「エマよ、ここにいるのは何日目だね?」
と聞いた。
「えっと、六日目です」
とエマが答える。
「そうか、では謹慎期間は6日間。本日の夕方までとする。
その後は今まで通り、王女の特別な存在として任務に励むように。
これは国王と懲罰委員会による決定だ、謹んで従うように」
とエランが言い、エマに向かって笑顔を見せた。
「エマ、これからもテレーザ王女を頼みますよ」
と付け加えるエラン。
エマへの処分を聞き、内心心からほっとしているレイア。
もしも、厳しい罰だった場合、王に直談判する覚悟だったのだ。
「随分と王女に信頼されているのね」
とマリアも言う。
こちらも、安堵の表情が浮かんでいる。
医療室で過ごしたのは数日だが、多少の荷物ができていた、看護係にもらったお見舞いの品や、医療室で用意してもらった着替えなど。
それらをまとめ、使ったベッドを整えた。
第一侍女、レイアが迎えに来てくれて、ここを出る。
そして、クリスタルパレスのテレーザ王女の部屋に「戻る」のだ。
「さあ、王女がお待ちかねですよ」
とレイア。
エマも自然と早足で歩いていた。
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