王女の「親友」
エマ、いきなりの変化。
特別な存在として、テレーザ王女から指名されたエマ。
慌ただしく、寮の部屋を後にした、ここで暮らしたのは1日と少しだけだった。
エマがいなくなった後、残された4人の同室の侍女たち、
呆然としながらも、エマに少しばかりの嫉妬心を持っていた。
王女の「親友」、これからは自分たちと段違いの待遇を受けることになる。
住まいは、王女の部屋の隣に自分だけの個室を与えられる。
制服だって、一般侍女の地味なものとは違い、優美な装飾の付いた貴族の令嬢のような衣装が用意されている。
食事は、王女と同席または別室で王女と同じものを食べる。
まあ、これは毒見も兼ねているのだが、それでも一般の侍女からしたら夢のようだ。
それに、それに。
「エマがテレーザ様に指名されるなんて、昨日何かあったのよ」
とルイス。
昨日の、迷わせ鳥に狙われた一件、そしてエマの処遇。
どう見てもテレーザ王女の差し金があるとしか思えない。
「でもさ、テレーザ様の特別な存在よ、そこまで嬉しくない、かな。私なら」
エレナが言う。
ルナ・ルイーズとアレクサンドラも小さくうなずいた。
そう思わなければ、やっかみと嫉妬に支配されてしまいそうだったから。
美の国の4人の王女と王子の侍女たちをまとめそして仕切る、侍女たちのリーダー、侍女頭のマリア。
そのマリアもこの決定にはいささか驚いた。
「テレーザ様とはいえ、着任したばかりの新入りを特別な存在として指名するとは」
昨日の事件で、エマだけが追放を免れたのも、テレーザ王女の釈明のおかげだ、とマリアは思っていた。
「これは、かなり異例の事だから、周囲からはいろいろと言われるかもしれないけど、
いい?何を言われても、気にしないで。あなたはただテレーザ様に忠義を尽くして、それを忘れないでね」
と王女の部屋までエマと並んで歩きながら伝えるマリア。
「わかっています」
エマはそう答える。
エマ自身、特別な存在と言うものがどんな存在なのか、いまいちわかってはいない。
侍女研修で学んだだけの知識しかない。
王女の「親友」とも呼ばれるが、本当に友情などがあるのだろうか、そんな疑問も感じている。
「さ、これからはここで暮らすのよ」
テレーザ王女の部屋の到着したマリアがエマに言った。
そして、テレーザ王女の部屋の扉が開かれた。
昨日、農場の視察に同行するためにここに来た、同じ部屋のはずなのに今日のエマには少し違って見えている。
出迎えたのは、テレーザ王女の第一侍女、レイアだった。
昨日の一件で、追放されたのでは?
驚くエマ。
「まあ、エマ。そんなに驚かなくても」
そう言いながらエマを部屋に迎え入れ、一番奥の王女の居間に通すレイア。
侍女頭、マリアはエマを引き渡すとそのままその場を去って行った。
テレーザ王女の部屋、謁見用の居間、応接室、王女のプライベート空間にはもう一つの居間、寝室、
洗面室や浴室、それに侍女の控えの間があった。
まるで、これだけでも一つの家のような大きさだ。
一番王、王女の私的な居間にテレーザ王女がいた。
昨日と同じように、こちらを向いて立っている、しかし、その表情は笑顔だ。
エマの姿を見るなり、
「エマ、あなたには今日からここで暮らしてもらうわね。私の、特別な存在親友として」
とテレーザが言う。
エマはそのことよりも、レイアがここにいることに驚いている。
居間のソファに座ると、テレーザは、
「昨日の事よね、レイアはね私が願い出て処分を取り消してもらったわ。
いなくなったら困るもの」
とテレーザが言う。
別の侍女が用意したお茶を飲みながらテレーザが言う。
第一侍女のレイアは、代々美の国の王女の侍女をしている家系だ。
レイアの姉も従姉も姉姫の侍女としてこの王宮にいる。
「レイアはね、私の侍女に決まっても断らなかったのよ」
とテレーザ。
そう言えば、「辞退」してもう一度採用試験に挑む、そんなことができると聞いた。
「まあ、騎馬兵たちは仕方ないわ、守備が仕事なのに任務を全うしなかったんだから。
あとね、カイとエレインは、追放したけれど履歴は残らないようにした。
だから、来年にでももう一度王宮に入ることができるわ。
次は私付きじゃないといいわね」
テレーザが言う。
カイとエレインは自分に仕えることが本意ではない、それを感じ取っていたテレーザ。
この件で、また来年改めて他の姉姫か王子の元で仕えることができるように配慮したのだ。
「レイア、エマを部屋に。それから身支度をお願い。あとで裏庭の散歩に行くわ」
テレーザはそう言うと自分の寝室に消えて行った。
「さ、こっちへ」
レイアに言われて入り口付近の部屋に連れていかれるエマ。
そこが、特別な存在の個室の様だ。
「時間がなかったら、大慌てで準備したんだけど足りないものがあったら言ってね」
とレイア。
そこには、ベッド、テーブル、ドレッサー、王女の部屋ほどではないにせよ、
趣味も質も良い家具がそろえられており、まるで上流階級の令嬢の部屋のようだ。
「さあ、これに着替えて。これからはこの戸棚に入っている服を着てね。
今着ている一般侍女の制服はもう使わないで」
レイアに言われて作り付けの衣類ダンスから取り出された衣装をに着替えるエマ。
とても上質な、品のあるワンピース。
エマが小さなころ思い描いていた憧れのドレスそのものだ。
髪は自分で少しだけアレンジをしてみた、
なんだか、自分じゃないみたいだ、と鏡を見ながらエマは思った。
「では、行きましょう」
とテレーザがエマに言う。
テレーザ王女、エマ、第一侍女レイア、侍従の者そして護衛の兵士がずらずらと
クリスタルパレスの長い廊下を抜けて、王族専用の出入り口に向かった。
テレーザ王女と並んで歩くエマ、テレーザがエマに同列に並ぶように言ったのだ。
侍女ならば一歩下がるのが通例だが、エマは特別な存在だ。
エマにとってはこの人数の護衛でさえ、物々しいと感じていたが、王宮内での移動、
しかもテレーザ王女だ、ということでかなりの少人数なのだそうだ。
出入口を出ると、城の中庭を進む。
そしてその奥には木々が生い茂る森がある。
「じゃあ、行こう」
テレーザがエマの手をつかむと、いきなり走り出した。
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