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年が明けた職場は慌ただしかった。年末から春にかけては、特に忙しい時期らしい。来客も電話も多い。晴奈以外にも学生アルバイトが一時的に増えている。
「三井さん。この伝票って、どこに入れとくんですか?」
ニコニコ笑って、大和が聞いてきた。一瞬、胃の辺りが重苦しくなった。
彼は学部は違うが同じ大学の一年生だ。といってもお互い面識はない初対面。けれど彼は同じ大学ということで親しみを覚えたのか、よく話しかけてきた。
「あ…それはあそこの引き出しで…。そこ、その二段目」
大和は礼を言って、伝票をしまうと自分の仕事に戻る。
ここで晴奈は一応先輩だ。大和は荷物の運搬など外の仕事が中心とはいえ、わからないことがあれば先輩に聞くのは自然だ。晴奈はそれがおそろしかった。そもそも自分の仕事で手一杯だし、まだまだわからないことも多い。教えることに慣れていないので、自信がない。しかも大和は人当たりが良く、器用なタイプのようで、電話応対などは、遠からず晴奈を追い越す能力があると予想された。
新人を教えるのは社員の仕事なので、大和が晴奈に聞くのは先ほどのような簡単なものだ。それでも晴奈としては、聞かれるのはプレッシャーだった。
「三井さん、ここ、ハンコ忘れてるよ」
ベテラン事務員の女性に言われ、晴奈はあわてて伝票を見直した。確かに自分の印がもれている。
「あっ、す、すみません!」
所定の位置に印を押すと、伝票を返す。
「忙しいのはわかるけど、次から気をつけてね」
さらりと言われた言葉に、晴奈は気持ちが重くなった。相手は怒っている風でもなく、当然のことを言っただけだ。けれど今の晴奈にはこたえた。他にも気付かないだけでミスがあるのではと不安になってくる。
晴奈の気持ちに関わりなく、来客や電話は来る。机に戻り作業をしていると、電話が鳴った。周りを見ると、皆電話や来客対応でふさがっており、晴奈しかいないようだ。なかなか進まないデスクワークを中断し、晴奈は受信ボタンを押して受話器を取った。
「遅い! 確認するっつって、いつまで待たせんだア!」
晴奈が名のる間もなく、大音量の男性の声が耳を打った。混乱して、思考が止まってしまう。相手が何やらまくしたてているうちに、ようやく、別の職員が対応していた電話を間違えて取ってしまったのだとわかった。さっと血の気が引くのを感じた。
「す、すみません…。私ではなくて、社員さんが対応するもので…」
相手は弱々しい晴奈の声を聞くと、少し冷静さを取り戻したようだ。
「何、あんたバイトなの?」
「はい…そうです…」
「でもさ、こっちにしたら相手がバイトかとか社員とか関係ないじゃん?」
「はい…すみません…」
晴奈はどうしたらいいかわからず、ひたすら謝る。相手が、他の人に代わって、と言ってきたため、素直に従い、先ほどまで対応していたらしい社員に代わった。代わった後も血の気が戻らず、作業を再開するまでには、しばらくの時間が必要だった。
先ほどの電話を終えた社員が、晴奈の元へすまなそうな表情で近づいてきた。
「大丈夫?悪かったね。あのお客さんは、結構癖のある人でね。誰にでもあんな風だから、あまり気にしないで」
優しく言われた言葉に、晴奈は目頭が熱くなる。
「いえ…私が間違えて出てしまったのが悪いんです…すみません」
顔を見ると泣いてしまいそうで、少し視線をずらして謝った。
「忙しくて申し訳ないけど、頑張ってね。来月くらいには落ち着くと思うから」
彼はそう言うと、自分の席へ戻っていった。
晴奈はふっと息を吐く。先程までこわばっていた体が、彼のフォローのおかげで楽になった。正直、また電話に出るのは気が重い。けれど頑張るしかない。晴奈はちらっと腕時計を確認する。終了時間までは1時間を切っていた。
電話や来客が落ち着いた頃、支店長が晴奈の元へやってきた。おしかりを受けるのかと身構える晴奈に言った。
「悪いけど、少し残業お願いできない?」




