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晴奈の通う大学は、自宅から電車と徒歩で三十分くらいの所だ。その道中でも、晴奈はまだ昨日のアルバイトでの出来事を思い出していた。それでも、日の光のもと、歩いて移動しているうちに、だんだん切り替えられるようになってきた。幸い今日はアルバイトが休みだ。晴奈は今日の講義予定に気持ちを向かわせることで、落ち込みそうになる自分を押しとどめた。
午前の講義が終わり、晴奈は持参した弁当を持って校舎の外へ出た。中庭のいつもの場所へ向かう。そこは小さな東屋のようになっている。デザインは和風ではなく、大学の外観に合わせて洋風だ。木のベンチと
テーブルがあり、定員は四・五人というところだ。屋根はあるがふきさらしなので、冬に近づき始めたこの時季は、ほとんど利用者がいない。今日も先客はいなかった。
膝掛けを準備し、テーブルに自分の弁当を広げた所で、こちらに向かってくる人影が見えた。茶色がかったセミロングと、鮮やかな緑のマフラーが目立つ。晴奈を見つけ、彼女が手を振ってきた。
「やっぱり忙しい。就活とバイトの両立は」
晴奈の隣でやきそばパンを頬張りながら、みずほはそうこぼした。
みずほは晴奈より一学年上の三年生だ。就職活動のため、あちこちの会社説明会やセミナーに行っているようだ。お金がかかるため、アルバイトを減らすことも難しいと以前話をしていた。
忙しいといいながらも、彼女は生き生きとしている。大学に入ったときから、目指している職業があるらしい。晴奈はそういった目標が今のところないため、みずほがうらやましかった。
彼女が、アルバイト先の店長の文句や客とのエピソードを話すのを聞いていると、途中で晴奈に矛先を向けてきた。
「で、晴奈はどうよ。例の営業さんは」
今度はおにぎりを食べながら、みずほが言った。以前、アルバイト先に苦手な人がいると話したことがある。みずほの誘導で、話すつもりのなかった具体的なことまで言ってしまっていた。
「え…どうってこともないよ…。あまり接点がないし」
もそもそと晴奈が言うと、ふーんと少しつまらなそうにみずほが相槌を打った。
「でも、接点がないって言っても、苦手な人ってそこにいるだけで緊張しない? 私もさー、バイト先にエリアマネージャーっていうの? そういう人がいて…」
話の流れがみずほ自身に戻り、晴奈はほっとする。彼女の話に耳を傾けながら、弁当の卵焼きを口に入れた。
昼休みが終わると、二人はそれぞれの教室へ向かった。晴奈は教室へつくと、室内をぐるりと見渡す。同じサークルの人を見つけ、声をかけて隣に座った。
大学は高校よりも自由だなと感じる。時間割を自分なりに工夫することができるし、席が固定だったりもしない。ただその分、自分で動かないと進まない場面も多い。
人見知りの晴奈は、入学当初、なかなか親しい人ができなかった。高校のようにクラス単位で行動することが多ければ、何となくその中で親しい人もできた。けれど大学ではきっかけが難しい。そこで、晴奈は美術系のサークルに入った。それほど人数は多くなく、ゆるい雰囲気がいいと思った。サークル活動の中で、晴奈は何人か親しくなることができた。
講義を聞きながら、晴奈は卒業後のことを考えた。彼女はみずほのように明確なビジョンを持って大学に入ったわけではない。教科の中では英語が比較的良かったため、外国語学部に入ったが、特に海外で仕事をしたいわけでもなかった。ただ、大学の勉強は難しいけれど興味深く、サークル活動も自分にあっていて充実していると思う。それが将来の仕事につながっていくのだろうか。
仕事と考えると、アルバイトでの自分が思い出され、気が重くなった。短時間でのアルバイトでもままならないのに、卒業後社会に出てやっていけるのかと今から不安になってしまう。
教室にいる多くの生徒達は、晴奈よりも簡単に勉強やアルバイトができているように見える。時々もれ聞こえる生徒同士のたわいない会話から、そう感じる。例えば、アルバイトの話、コンパの話、ゼミの話。晴奈にはそれらを一緒にこなすことは難しい。良く言えば、一つのことをコツコツ頑張る人。悪く言えば、同時に複数のことができない不器用。自分でそう考え、また落ち込んでしまった。




