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昔から、他の人より全てにおいて遅かった。
給食を食べるのも、走るのも、話をするのも、本を読むのも遅い。
そして色々なことに気付くのも遅いのだと、最近ようやく気がついた。
「誰かおれ宛ての書類預かってない?」
営業の野村が、事務所に入るなりそう言った。
運送会社の営業所である。室内には四・五人の男女がおり、それぞれの机で作業をしていた。皆、野村の言葉に思い当たるものはないようで、首を振っている。晴奈も伝票を綴じる手を止めて、思いをめぐらす。書類、というものには覚えがなかった。ぐるりと室内を見回した野村と一瞬だけ目が合う。頭の切れる野村の視線に、晴奈は怖さを感じて、目をそらした。
晴奈は野村が苦手だ。学生アルバイトの晴奈と違う社会人という差もあるのだが、それだけが理由ではない。彼は仕事がテキパキとしていて、言動に迷いがない。気も回るし、作業も正確で早い。顧客に対しても笑顔をまじえつつ、こちらの意向も通せるような話術をもつ。できる男という感じだ。
対して晴奈は、まじめではあるがお世辞にも要領がいいとはいえない。人見知りで、話が苦手なので、特に電話応対には苦労している。野村から見ると、使えないアルバイトだと思われているのではと想像すると、苦手意識が起こってしまう。とはいえ、彼はあまり事務所にはいないし、晴奈に対して何か言ってきたことはなかった。
野村はしばらく書類を探していたが、「じゃ、届いたら教えて」と近くの職員に伝えると、隣の倉庫へ出て行った。晴奈はそれを確認すると、再び伝票整理に戻った。
「あれ、これいつからあった?」
しばらく後、年配の男性職員から声をかけられ、晴奈は手元から顔をあげた。彼は手に社名入りの長細い封筒を持っていた。どうやら晴奈のいる机の端に置いてあったもののようだ。晴奈は覚えがなくきょとんとする。
「えと…すみません、わからないです…」
「あれ? でもなかったよね、ちょっと前は。誰かから預かったとかじゃなくて?」
晴奈は戸惑う。記憶をたどっても、誰かに話しかけられた覚えはなかった。晴奈が困っていると、彼は苦笑して手を振った。
「あ、いいよ大丈夫。誰かが無意識で置いてっちゃったんでしょ」
そう言うと、彼は「野村君のところ行ってくる」と部屋を出て行った。
その封筒が、先ほど野村が探していた書類だったらしい。それに気がついて、晴奈は焦った気持ちになる。
(うそ、そんなところにあったの? 私、ほとんど机から移動してないのに気付かなかった…)
伝票整理や電話応対に必死で、周りに目がいっていなかったのだろうか。それにしても、こんなに近くに人が来て物を置いても気付かない自分に、晴奈は情けなくなる。一気に気持ちが沈み、業務終了までの二十分がとても長く感じた。




