第三話
人が溢れていた
何とも言えない匂いがするような気がした
誰も助けようとしないし、状況を変えようともしない
むしろ望んでいる
暑い。
-暑いなんてもんじゃない。
燃えるような。
-いや、既に燃えている。
暑くて見てられない。
-見てられない?私じゃない・・・?
でも見なくちゃいけない。
-あぁ、そうかこんなことがあった
最後って皆が言っていたから。
-私が初めて[別れ]を覚えた日だ
「さようなら、大好きな・・お・・。」
「う、美羽!起きて美羽」
(・・・学校?あぁ夢か。)
グランドは人工芝生で作られていた。木陰から漏れる光が眩しい。
初夏を思わせるような心地よい風がとても新鮮に思えた。
隣からは心配そうな視線が絶えず送られてくる。
私は目から溢れていた跡をかき消すよう大きくあくびをした。
「大丈夫?うなされてたし・・もしかして泣いてる?」
「大丈夫、あくびしただけ。」
そっかと笑顔で私の前に手を差し出すのは私が付き合っている彼氏だ。
「ほら、授業にでよう。今日はせっかく来たんだから」
ここから見える校舎の時計は13時を回ろうとしていた。
昼休みは残り30分、その後は午後の授業が始まる。
頭が暑さでぼーっとしていたが、差し出されている手ははっきり見えた。
それを掴むことができない私はきっとひどい人間なんだ。
「大丈夫、一人で起きれる。授業には出るよ、先に行っててくれる?ちょっと職員室に行かなきゃいけないの」
引きつった顔で声だけは明るく言うように努めた。
これが私の精一杯。
彼はどこか寂しそうな顔だったが直ぐに私に背を向けて手を振る。
「じゃあ先に言ってるよー。次体育だったけど、先生休みだから自習なんだー。早く行ってバスケやろうぜって話だったから先着替えてる。」
少し早口な彼の声は違和感があったし、もはや校舎に喋りかけてるかのようだった。
「それでいいよ・・・。」
そう言った私もまた芝生に喋りかけているようだった。
多くは語らなかったけどきっと彼はもう私を見ないだろう。
そう、これでいい何度も言い聞かせた。
職員室へは本当は行かない。ただ渡すだけだから。
木に寄りかかって涼んでいるかのような私の大切な人からの贈り物。
「お前だけは一生何があっても離さない、ずっと一緒に見よう。」
こうやって話しかけるのが私の悪い癖。
頭おかしいってよく言われてたから、もうなにも気にしないんだ。
私の家族はコイツだけな気がして。
「弦でも都合よくなって反応してくれれば可愛いいのに・・・」
体育座りで見つめた私はお前に何を期待してるんだろう。
思い出したように鞄の中から紙を取り出して紙飛行機を折ってまた鞄にしまった。
力なく立ち上がる。私が時計を見るより早く予鈴がなった。
最後っていう言葉は本当は好きではない。
けどきっとこの紙飛行機も最後。
鞄の中に入った紙飛行機を壊さないようにやっぱり手に持った。
紙飛行機は2つ、人差し指と中指で挟むように持った手は少し汗ばむ。
木陰から立ち上がると日差しは強いものへと変わった。
このくらいがいい
嫌ってほどのライト
広いステージ
500人以上の観客
私は私に問いかける
「最後の・・・違うね。高校最初のステージ、次はない。ゲリラライブ。ここが私の始まりになる。覚悟を決めろ。」
校庭でたたずむ少女に声がかかる。
「白崎!来てたのかぁー!ちょっと来い、お前に渡すものがいっぱいあるんだよ」
怒っているんだか喜んでいるんだか、その男は少女に話しかける。
少女はその男に狙いを定めて右手に持っていたものを投げた。
一直線に飛ぶのは紙飛行機。
職員室の窓からその男の足元に着地する。
男は拾わずとも内容が見えてしまった、羽の部分に[退]という字が見えたから。
悔しそうで、やりきれない思いのせいか男はその場を飛び出してしまった。
「ごめんね、先生。もう迷惑かけることもこれでないから許して」
13時30分本鈴が鳴り響く。
私のステージが開演する。




