三話後編
正直言うとその日の記憶はとても曖昧だ。
何故か虚無感に襲われたことは自身の中にだけ閉まっておいた。
そう、時が過ぎて思うことは虚しさと切なさであって、そこには達成感は存在しなかった。
思えば私は逃げているんだと気付いた時にはまた、それに背を向けている私があった。
今でも覚えていることは生きているなという感じ。
−感覚?
なんて言葉にしていいかわからないが。
言えることは私のそれは終わった。
これだけははっきり言える。
私のこれまでは終わったのだ。
歌い終えた後に前を見ることができなかった。
眼を開けることが出来ずに歌っていた。
怖くて受け入れる勇気なんてまだ本当は持ち合わせてなかったんだ。
彼の目を見れず、先生の目を見れず、友人をその目で探すのが怖くて、誰が私を見ていたのか。
興味よりもそこにあったのは恐怖。それが先に立った。
“どんな目で” “どんな顔で”
–そもそも私、見られていた?
–そもそも私、聞かれていた?
考えれば考えるほどに目には力が入って、直ぐに振り返った私は急ぎ足で校門へと向かう。
–「あぁ、なんて、なんて」
今振り返ればあの日、あの時だった。
「あぁ、なんて…。」
あの日に流した涙はきっと。
「あぁ…なんて、なんて。」
“なんて可哀想な…”
鼻に付く臭いと、匂い。あの暑さに、熱さに、頬につたるるは塩辛い雫が一筋どちらかも検討つかなかった。
ひそひそ声が聞こえる。私の話なのはバカでも気づく、そのくらいの内緒話。
どんな顔で見られてるの私?
何の事なの?
助けてよ。
いつもみたいに助けてよ。ねぇ明日から誰と歌うの?大丈夫って言ってよねぇ。
“可哀想な私…”
一年経っても変わる事なくこの感情だけが肥大していく。
可哀想なと、思って入れば何もかもつじつまが合うような気がしてならない。
何か嫌なことがあっても私が可哀想な人間だと自分自身を慰めていればいい。
それだけでいい。それだけで終わらせられた。
疑問を持つ事もなければ、怒りを思う事もなく淡々と過ぎる日々。
そのガラス玉のような目で変わりゆく空を見上げる。
綺麗なその景色を見ている時だけ今日も生きていたと実感するようになっていた。
歌はいつしか私を苦しめていた。
いっそのこと喉を潰そうか、幾らか楽になるんじゃないかな。
この指も切ってしまおうか。目も塞いで、耳も取ろうか。
あなたは私に教えてくれた喜びも、笑みも、甘え方も、温もりも、希望も、おかえりなさい、も。
そしてあなたは私に教えてくれた。
悲しみも、憎しみも、意地も、白々しいまでの態度も、絶望も、孤独も、理解したつもりでいます。
「さようなら、は教えて欲しくなかったのに、全部全部くれるだけで、教えるだけで、この気持ちですら、この命ですら。」




