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灰谷の墓守 〜王都を追われた監査官、呪われた禁足地で「死者の村」を登記する〜  作者: しの


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第29話 決別と新領地の登記

「ですが、ファレル監察官」


ユリアン特使は表情を引き締めた。


「貴方がここに残るとしても、この土地の法的な位置付けを明確にしなければなりません。ノイラート郷を『廃村』のままにしておくことは、もはや不可能です。王都の貴族たちが、いずれ再びこの豊かな資源に目をつけないとも限りません」


「ええ。そのための書類は、すでに用意してあります」


レティシアは机の引き出しから、以前から準備していた最後の一冊——青い革表紙の公文書を取り出した。


『自由自治郷ノイラート 設立協定書』


「王室に対し、以下の三点を要求いたします」


レティシアは指を一本ずつ立てた。


「第一に、ノイラート郷を王室直轄の『永世中立・自由自治特区』として承認すること。領主の設置を禁じ、自治管理権は住民による共同体代表委員会に帰属するものとします」


「第二に、王都に対する納税は、金貨ではなく、当郷が産出する高純度黒鉛および純白塩の現物納入をもって充てること。税率は平時の一割固定とします」


「第三に——」


レティシアは窓の外を見つめ、それから扉の向こうの男へ視線を送るように言った。


「当郷の最高軍事責任者として、元近衛大隊長キリアン殿を任ずること。王室軍の駐留を永久に拒絶し、郷の防衛は自治軍がこれを担います」


ユリアン特使は協定書を手に取り、細部に至るまで読み込んだ。

防衛、交易、租税、法的手続き。あらゆる抜け穴が完全に塞がれた、王都にとっても莫大な物資の恩恵があり、かつ手出しのできない完璧な自治協定だった。


「……完璧です。国王陛下にこのまま上奏し、無修正での勅許を取り付けることをお約束しましょう」


特使は立ち上がり、右手を差し出した。


「お見事でした、ノイラート自治郷代表、レティシア・ファレル殿」


レティシアはその手をしっかりと握り返した。

それは、腐敗した過去との完全なる決別と、新しい世界の始まりを告げる握手だった。

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