第26話 真実の監査報告
旧領主館の大広間に設えられた即席の査問会。
ユリアン特使と近衛の記録官たちが居並ぶ前で、レティシアの告発が始まった。
彼女の前に積み上げられたのは、半年間かけて収集された動かぬ証拠の山だった。
「第一に、西部国境警備隊への物資横領。金貨四千五百枚の使途不明金について」
レティシアは織物ギルドの帳簿の写しと、貴族院の私設口座の送金記録を並べた。
「第二に、三十年前のノイラート郷廃村事件における、意図的な情報隠蔽。当時、死病とされた現象は、ベルンハルト侯爵家の先代が強行した違法な銅採掘による鉱毒水の流出が原因でした。彼らは公害の責任を逃れるため、住民全員が死んだと虚偽の登記を行い、地図からこの地を抹消したのです」
広場にどよめきが走った。
三十年間、自分たちが「呪われた土地の亡霊」だと信じ込まされていた住人たちが、拳を握りしめて涙を流す。
「そして第三に」
レティシアは、先ほど捕縛したバルカス将軍とヴォルフ大尉の署名入り供述書を提示した。
「本日未明に行われた、ベルンハルト侯爵家私兵によるノイラート郷への武力侵攻。これは国家反逆罪に該当する私兵の違法動員であり、目的は真実を知る監察官の口封じと、当郷が独自に開拓した高純度黒鉛および製塩利権の不法強奪でした」
数字、日付、署名、印章。
一切の反論を許さない完璧な論理の構築に、バルカス将軍は完全に項垂れ、ユリアン特使は深く感嘆のため息を漏らした。
「……完璧だ。これほどまでに隙のない、美しい監査報告書を私は見たことがない」
ユリアン特使は立ち上がり、厳かに宣告した。
「バルカス将軍、ならびにヴォルフ大尉を国家反逆の容疑で拘束する。また、王都に待機する近衛隊により、主計局長バルツァー男爵およびベルンハルト侯爵の身柄は、すでに今朝未明に確保された」
広場に、歓声が満ちた。
三十年の長きにわたり、彼らを縛り付けていた偽りの呪いと不正が、一人の女性のペン先によって、完全に打ち砕かれた瞬間だった。




