第27話 不正の清算
正午を過ぎ、囚人たちの身柄引き渡しが進む中、ユリアン特使が一人、広場の隅に立つキリアンへと近づいた。
キリアンは腰の長剣に手を置いたまま、警戒を解かずに特使を見据えていた。
「……キリアン殿ですね」
ユリアン特使が静かに口を開いた。
「十年前、近衛第三大隊長として、第二王子の軍需横領の罪を着せられ、処刑台から脱走した男」
キリアンの銀灰色の瞳が険しく細められた。
「俺の首を王都へ持ち帰る気か、特使殿」
「滅相もない」
ユリアン特使は首を横に振ると、懐から金色の封蝋が施された羊皮紙を取り出し、キリアンへと差し出した。
「国王陛下直筆の恩赦令、ならびに名誉回復の布告書です」
キリアンが息を呑んだ。
「ファレル監察官から送られた告発状の中に、十年前の貴方の軍事裁判における『証拠偽造の記録』が添付されていました。当時の主計局の裏帳簿から、貴方の上官だった将軍が賄賂を受け取っていた確証が発見されたのです」
特使はキリアンに向かって、深く頭を下げた。
「貴方の冤罪は完全に晴れました。近衛大隊長への復職、ならびに十年間分の未払い給与と慰謝料として、金貨三千枚が王室より支払われます」
キリアンは差し出された布告書を見つめ、それから震える手でそれを受け取った。
十年間、奪われ続けていた彼の名誉と、失われた時間。
彼の視線が、少し離れた場所で住人たちに指示を出しているレティシアへと向けられた。
あの日、夜番の物見櫓で彼女が言った言葉が、彼の胸に蘇っていた。
『——あなたの過去は損失ではなく、初期投資です。いずれ、利息をつけて清算させましょう』
「……本当に、利息をつけて返させやがった」
キリアンの目から、一筋の涙が頬の古傷を伝ってこぼれ落ちた。
彼は布告書を胸に抱きしめ、天を仰いで深く、長い息を吐き出した。




