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灰谷の墓守 〜王都を追われた監査官、呪われた禁足地で「死者の村」を登記する〜  作者: しの


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第18話 査察使への尋問(ただし帳簿による)

捕縛された査察隊の面々は、旧領主館の地下ワインセラーを改装した「面談室」へと連行された。


鎖で縛り上げられ、椅子に座らされたヴォルフ大尉は、目の前に座るレティシアを睨みつけ、唾を飛ばした。


「貴様、反逆罪だぞ! 脱走兵と徒党を組み、王国の正規軍を監禁するなど、死刑では済まんぞ!」


「反逆罪の成立要件は、国家に対する武力行使または反乱の意思の存在です」


レティシアは感情を交えず、机の上に積み上げられた書類の山から一束を取り出した。

拷問具など一つもない。

部屋にあるのは、インクの壺と天秤、そして査察隊から押収した輜重車の荷目録だけだった。


「私は現在、貴方方の『不法侵入および不正物資の持ち込み』に対する行政手続きを行っているに過ぎません。……さて、ヴォルフ大尉。こちらをお認めになりますか」


レティシアが広げたのは、輜重車から押収した物資の監査票だった。


「貴方方が携行していた軍用矢、二千本。長剣四十振り。これらはすべて、王都第三工廠の刻印が削り取られていますね。そして、この保存食の小麦樽」


レティシアは指先で書類の一行を叩いた。


「樽の底に、王都主計局ではなく『貴族院兵站補給委員会・ベルンハルト卿私邸』の納入印が残っていました。……正規の査察部隊が、なぜ私兵団の横領物資を携行しているのですか?」


ヴォルフの喉が、引き攣ったように動いた。


「そ、それは……部隊の配給を……」


「さらに、貴方の懐から押収したこの密令書」


レティシアは一枚の羊皮紙をピンセットで持ち上げた。

そこにはバルツァー主計局長の私印とともに、こう記されていた。

『レティシア・ファレルの身柄を確保次第、事故に見せかけて処分し、鉱脈の標本を回収せよ』


「国家公務員法の第十二条に基づき、公務員の殺害教唆および公文書偽造の現行犯です」


「く……っ!」


「大尉。私をここで殺しても、この監査報告書は消えません」


レティシアは静かにペンを走らせた。


「すでにこの写しは、信頼できる外部の交易ルートを通じて、王室直属の最高監査院へ送る手はずが整っています。貴方がここで私兵団の横領の実態と、バルツァー総監の指示内容をすべて供述すれば、貴方を『違法な上官命令に従わざるを得なかった従属者』として、減刑の意見書を添えて差し上げます」


「な……」


「拒否されるなら、このまま当共同体の地下鉱山で、生涯『不法侵入に対する無報酬の労働奉仕』に従事していただきます。どちらが貴方の余命の計算にとって有利か、明白ですね?」


ヴォルフは蒼白になり、ガタガタと震え出した。

目の前にいる女は、剣も握らず、怒鳴りもせず、ただ書類と法条文の冷徹な重みだけで、自分の一生を完全に解体してしまっている。


「……話す。全部、話す……! ベルンハルト卿と局長の帳簿の隠し場所も……全部だ!」


部屋の影で腕を組んで見ていたキリアンが、低く嘆息を漏らした。


「……恐ろしい女だ。拷問部屋のどんな熟練の尋問官より、お前のペン先の方がよほど骨を折る」


「合理的な取引です」


レティシアは表情一つ変えずに供述調書をめくった。

「感情で脅しても嘘を吐かれますが、計算で追い詰めれば人は真実しか話せなくなりますから」

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