第11話 頭目の古傷
翌朝、密貿易商との接触を前に、私はキリアンの部屋へ足を運んだ。
部屋と言っても、坑道の突き当たりを板で仕切っただけの殺風景な空間だ。
中に入ると、キリアンが上半身裸になり、抜き身の長剣を布で磨いているところだった。
「……何の用だ。出発はまだ先だぞ」
「あなたの装備と身体の点検です」
「点検?」
キリアンが怪訝な顔をするのを無視し、私は彼の前に歩み寄った。
松明の明かりに照らされた彼の鍛え上げられた背中には、無数の刀傷に混じって、右の肩甲骨から脇腹にかけて走る、赤黒く盛り上がった引き攣れのような大きな傷跡があった。
私は手袋を外し、その傷跡の縁に迷わず指先を当てた。
「っ……!」
キリアンが小さく息を呑み、全身の筋肉を硬直させた。
「痛みますね。熱を持っています」
「……昔の傷だ。王都を脱出する際、追っ手の槍に抉られた。肉は塞がったが、雨の日や寒くなると疼くだけだ。剣を振るうのに支障はない」
「支障は大いにあります。嘘をおっしゃらないで」
私は冷徹に指先に力を込めた。
キリアンの顎の筋肉がピクリと跳ねる。
「筋肉の深層に、壊死した組織か、あるいは槍の穂先の破片が残ったまま皮膚が塞がっています。炎症が神経を圧迫している。先日の構えの狂いも、痛みを無意識に庇っていることが原因です」
「……今さらどうにもならん。切り開く医者もいなければ、麻酔の薬草もない」
「薬草ならあります」
私は腰の革袋から、昨日の山菜採集で住人たちに集めさせた数種類の乾燥植物を取り出した。
「オオバコの葉の粉末と、野生のトチノキの樹皮。これを木炭の粉と混ぜ、練り合わせた湿布です。トチノキのエスシンという成分が患部の鬱血を散らし、オオバコが膿を吸い出します。——動かないでください」
私は傷口の上に湿布を厚く塗り、清潔な麻布を巻きつけた。
私の手が彼の背中に触れるたび、キリアンが息を殺しているのが伝わってくる。
鋼のように硬かった彼の背の筋肉が、湿布のひんやりとした感触とともに、徐々に緊張を解いていく。
「……お前は、本当に容赦がないな」
キリアンが背中を向けたまま、掠れた声で言った。
「防衛の要であるあなたが倒れれば、この集落の損益計算は一瞬で破綻します。あなたが傷一つ隠すことは、集落全体に対する背任行為です」
「勘定、計算、損益……すべて数字か」
「数字は嘘をつきませんから」
包帯の端をきつく縛り終え、私は手を引いた。
「痛みが引くまで、無駄な素振りは控えてください。それから、その剣です」
私は作業台の上に置かれていた彼の長剣を指差した。
「刃の手入れは見事ですが、鍔と柄の固定ピンが摩耗してわずかにグラついています。激しい打ち合いになれば、三撃目で柄が割れますよ。鍛冶の経験者に命じて、焼き入れした真鍮のピンで打ち直させておきました」
私は懐から、新しく削り出された二本の細い金属ピンを取り出し、机の上に置いた。
キリアンは振り向き、机の上のピンと、私の顔を交互に見つめた。
その銀灰色の瞳の奥に、名状しがたい激しい感情が渦巻いている。
「……レティシア」
初めて、彼が私の役職ではなく名前を呼んだ。
「お前は、なぜそこまでやる。王都に捨てられ、死人の谷へ追放された身だろう。なぜ絶望もせず、誰を恨むこともなく、こんな穴倉の連中と俺のために……」
「恨む時間は、一日の労働可能時間を圧迫します。無駄な感情です」
私は道具袋を整えながら、極めて平然と答えた。
「私はただ、自分の引いた境界線の内側にあるものが、理不尽に壊されるのが我慢ならないだけです。——行きましょう、キリアン様。商人を待たせるのは、交渉において下策です」
私が背を向けて歩き出すと、背後でキリアンが小さく、だが深く息を呑む音が聞こえた。
それは、自らの命を預けるべき「主」を定めてしまった武人の、静かな覚悟の気配だった。




