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2、雪ん子きたりて店凍る

本日2話目の投稿です!

次から日曜週1投稿したいと思います!

よろしくおねがいします!

河童が去ってから数分後、新たな客がドアベルを軽やかに鳴らしやってきた。少し湿った店内の温度が、冷ややかに下がった。


「いらっしゃいませ」

「いらっしゃいませ〜。あ!ゆきめちゃんだ!」

「…うん。来た」


まゆみがゆきめちゃんと呼ぶこの女性は、身長は160に届くかという所だろうか。綺麗な黒髪をツインテールに結び、フリルのたくさん着いた黒いワンピースに身を包んでいる。ほっそりとした華奢な肢体、抜けるような少し青みがかった白い肌、くりくりとした目は今風のメイクに彩られ、涙袋もバッチリ強調されている。所謂地雷系メイクとでも呼ぶのだろうか。彼女は少し微笑みながらいつものカウンターに座り、注文をする。


「…ブルーハワイ」

「はいはい、ブルーハワイね」


マスターが氷を割る。それを受け取ると、まゆみはアイスクラッシャーでがりがりと氷を削っていく。クラッシュアイスを作る為だ。そしてカウンターの奥、一番端からそれに対抗するように「カリカリ…」という音が響いた。すると、店内の湿度と温度が戻ったように穏やかになった。この音はこの店が出来た当初からしているらしい。


「はい、どうぞ」


マスターが慣れた手つきでシェイカーからグラスへと滑らせたその液体は、ターコイズブルー。南国の海のような爽やかな色が、彼女の前に置かれた。


ほんの一瞬だけ、空気が緩む。


「…これ好き」


ゆきめが小さく笑った。店内が少し暖かくなったような気がする。


「はい、ゆきめちゃんはこれね!」


まゆみが差し出したのはマンゴーのドライフルーツ。ゆきめは南国のフルーツが大好きなのだ。パイナップルの入ったブルーハワイも彼女のお気に入りだ。


「今日はご機嫌だな」

「うん、今日はね…」


その時、ゆきめのスマホがぴりりと鳴った。SNSの通知らしい。ゆきめはおもむろに画面をのぞくと、表情を凍らせた。握るグラスが白く曇り、氷が1つずつ結晶化していった。縁には霜がついている。鋭くキンとした空気が流れる。


「ゆきめちゃん、どうしたの…?」

「…これ」


消え入りそうな声で応え、そっと震える手でスマホを差し出した。


ある写真投稿SNSの画面には、楽しそうな男性の笑顔と隣に映る女性の''手''。ある人が見ればそれは「匂わせ」と評するかもしれない。


「…女の子と、飲んでる」


次の瞬間、店内の温度が明確に下がった。他の客はざわついている。


「え?さむっ」

「空調壊れた?まゆみちゃん、温度上げてくれる?」

「はーい!ごめんなさいね、調子悪くて〜」


まゆみはそう言って誤魔化しながら空調を暖房に切り替えた。そんなことをしていると小さく冷たい声がカウンターに響く。


「…ギムレット」

「…はいはい、ギムレット…ね」


マスターの声が少し緊張気味になる。ギムレット、それはジンの強い香りと鋭い酸味のするカクテルだ。ゆきめはそれを一気に煽ると、カウンターにコンと硬質な音が響いた。置いた空のグラスには霜がついている。空気が凍り、客も一斉にその口を閉じた。


「…また始まったか」

「やばい、冬きた…」


カウンター内でこそこそしていると、ゆきめの瞳から一粒の涙が零れ落ちた。ひとつ落ちるとあとは決壊したかの様にぽろぽろと涙が零れてゆく。


「ゆきめだけって…ゆきめだけって言ったのに…」


ぽろぽろと涙を零し、嗚咽を堪えるように唇を噛み締める彼女。まゆみは白い息を吐きながらゆきめの隣に座った。


「ゆきめちゃん、もしかしたら会社とかの飲み会とかかもしれないよ?」

「…でも、隣に…。近い所に座って…」

「多分お店が狭いんだよ!ほら、奥の人だって近いよ?」


泣き出してしまったゆきめの背を撫ぜながら、まゆみが落ち着いた声で慰める。


その時カウンターの奥、端の方から小さなため息が聞こえた。


(メルくん…)


小柄な影。誰もが気付くのに、誰もその正体を明確にしない存在。彼は黙ったまま、いつもの様にカリカリと音を鳴らしている。その音が止んだ瞬間、小さな声が聞こえた。


「…うるさい」


その一言だけで、少しだけ空気が戻る。店内の霜が少しだけ溶けた。その間にマスターがコッソリとどこかに電話をかけていた。


「あ、もしもし?ダイスです、お世話になってます。聞きたいんだけと、1番奥の席のお客さんってどんな感じ?…あぁ、職場の集まり?なるほど…」


まゆみは小さく息をつく。


「ほらね」

「…うん」


ゆきめはまだ涙声だが、涙は止まったようだ。じっとスマホの画面を見つめたまま、少し考え込んでいる。

その時


───プルルルルル


着信、その画面に出た名前を見て───


「…え?」


ゆきめは急いで通話のボタンを押した。


『もしもし?ゆきめちゃん?今近くで飲んでるんだけどさ、そろそろ終わるしこの後一緒に飲まない?』


一瞬の沈黙。次の瞬間。


「…行く!」


霜が一瞬にして消えていった。彼女は手元に残ったブルーハワイを一気に流し込み、満面の笑みで


「行ってくる!」


と、花が飛びそうなくらいご機嫌だ。椅子が鳴る、スカートが翻る。店内の温度が一気に春になる。


「ごちそうさま!」


会計を払うと、そう言ってスキップでもしそうな勢いで飛び跳ねながら店を後にした。


ドアが閉まる。


───バタン


刹那の静寂。マスターはグラスを拭きながら一言。


「…疲れたな」


まゆみもため息をつく。


「恋愛って気温差エグいね…。まぁでも今日はマシな方かな〜」


(マシな方?!)


客の心の声がハモった。


そしてカウンターの奥、メルくん(と思われる存在)はまだカリカリしていた。


「…うるさい」

ゆきめ「コレ、この前の居酒屋で撮ったやつ…」

まゆみ「わー!ラブラブじゃーん!」

ゆきめ「…(照)」



メルくん「…うるさい」

───カリカリカリカリ

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