表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら学校で1番の美少女の椅子だった件  作者: にんじん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/45

衝撃

 幽霊は僕のことを椅子に取り憑いた悪霊だと思い込んでいるようだが、今の僕にはそれを訂正している余裕はない。僕は核心に踏み込むべく、彼に問いかけた。


 『君は、ミコッチのお兄さんの地縛君で、間違いないよね』


 幽霊は、砕けた顎を震わせ、小さな声で「あぁ……」と呟いて認めた。僕はさらに突っ込んだ質問をした。


 『君にはミコッチはどのように見えているのかい』

 「……」


 地縛は少し考えてから口を開く。


 「俺には巫女の姿はちゃんと見えている。でも、巫女からは俺をきちんと認識できていないのだろう」


 地縛は理解しているのだ。それも当然だろう。もし、ミコッチが幽霊を兄だと認識していれば、問いかけなどしないで、きちんと声をかけているはずだ。そのことを考えればおのずと答えが出たのだろう。しかし、なぜ、僕には幽霊の姿がきちんと見えて、話すこともできるのだろうか?椅子とは道具であり、それ以上何者ではない。その椅子に魂が宿り、転生椅子が誕生した。僕という存在は、人間よりも霊的よりの存在なのであろう。だから、幽霊本来の姿が見えて対話することも可能なのだろう。僕と幽霊は同じ種族と考えて問題ない。


 僕は一番大事な話を切り出す。


 『地縛君……ミコッチと話して、安心させてあげてくれないか。あの子は、ここにいる幽霊の正体がわからなくて、ずっと心配しているんだ。君が声をかけてあげれば、あの子の心も救われるはずだよ』


 しかし、僕の言葉が終わるか終わらないかのうちに、周囲の空気が一変した。地縛君から、刺すような、そして肌を焼くような異様なまでの怒りのオーラが噴き出したのだ。だが、それは僕に向けられた刃ではなかった。


 「……巫女と、話す……?」


 地縛君の砕けた顎が、怒りでガチガチと鳴り響く。


 「ダメだ……。もし巫女が、この幽霊の正体が俺だと知れば、あの子は間違いなく成仏してほしいと願うだろう。優しすぎるあの子なら、俺の無念を晴らそうと寄り添ってくれるはずだ……。だがなッ!!」


 突如、彼の周囲の闇が爆発するように膨れ上がった。


 「俺は鳳たちを、決して、決して許すことはできないんだ! この怒りだけは、どんなに優しい言葉をかけられても、どんなに時が流れても、消えることはないッ!」


 地縛君の叫びは、もはや言葉というよりは呪詛の塊だった。


 「俺のこの黒い思いを知れば、巫女はきっと無理なことをする。俺のために、あの子の人生まで汚してしまうかもしれない。……だから、俺は巫女とは話せない。あの子を、この泥沼に引き込むわけにはいかないんだ……。俺が……君と2人で話したいと誘ったのは、巫女に、もうここには来ないでくれと言って欲しいのだ」


 地縛君の鳳たちに対する憎悪は、想像を絶するほどに深く、鋭かった。彼は妹を愛している。愛しているからこそ、自分の復讐心という名の怪物に彼女を触れさせたくないのだ。地縛君が鳳たちからどのような凄惨ないじめを受けていたのか、僕はその詳細までは知らない。アイツらのやり方はいつだって狡猾だ。決して表沙汰にはせず、人目のつかない場所を選んで執拗に獲物を追い詰める。何より厄介だったのは、中学時代のアイツらが英雄だったことだ。2年生の時、無名で弱小だった曇天中学野球部を全国大会へと導いた功労者。その輝かしい実績は、学校内でのアイツらの立場を絶対的なものにしていた。逆らう者は生徒だけでなく、教師の中出すらいない。表面上は熱血なスポーツマンを演じているため、多少の暴力があっても、それは部活動における厳しい指導として容認されてしまう空気が出来上がっていたのだ。


 僕が耳にしていた噂では、地縛君の悲劇は1本の正義感から始まったという。鳳たちが後輩に対して指導という名の過激な暴力を振るっていた。 それを見かねた地縛君が、これ以上の横暴をやめるよう校長に直訴した。しかし、校長は鳳たちに軽い注意を与えただけで終わった。その結果、事態は最悪の方向へ転がった。告発を境に、いじめのターゲットは地縛君1人へと集中したのだ。誰の目から見ても異常なほど、顔を腫らして登校する日々。地縛君の両親が学校へ乗り込み、鳳たちに暴力を振るわれていると訴えても、校長は冷淡に突き放した。


「これは部活動中の不慮の事故による怪我に過ぎません」


 校長は2度目の全国大会出場を控えた大事な時期に、部内の不祥事でおおごとにしたくなかったのだ。勝利という美名の前に、1人の生徒の悲鳴は無視されて隠蔽された。そして、皮肉にも野球部が2年連続で全国大会への切符を手にした数日後、地縛君は校舎の屋上から飛び降り、帰らぬ人となった。


 地縛君を縛り付けているのは、鳳たちへの恨みだけではない。学校の名誉を守るために自分を切り捨て、真実を闇に葬った大人たちへの激しい憤り……。その幾重にも重なる絶望の鎖が、彼をこの世界に繋ぎ止めているのだ。だが、僕はそれでも、ミコッチと向き合ってほしいと願わずにはいられなかった。


 『……地縛君の気持ちは、痛いほどわかるよ。でも、それでもミコッチと向き合ってほしいんだ』


 僕と彼は、鳳という怪物の犠牲になった同志だ。だからこそ、僕はあえて踏み込んだ言葉をぶつけた。しかし、地縛君の答えは、僕の想像を絶するものだった。


 「ダメだ……。巫女が真実を知れば、あの子もアイツらに殺されるかもしれないんだ」

 『え……?』


 衝撃的な言葉に、僕は思考が停止した。真実? 殺される?いじめの真相を知るだけで命を狙われるなんて、いくら鳳でもそこまでするだろうか。嫌な汗が(もし僕に汗腺があれば)噴き出すのを感じながら、僕は震える思念で聞き返した。


 『真実って……どういうことなんだ!?』


 地縛君はしばし沈黙し、砕け散った顎を震わせて、重い口を開いた。


 「椅子の君なら、話しても問題ないだろう……。実は、俺は自殺なんてしていないんだ」


 僕は衝撃の事実に時間が止まったような気がした。


 「俺はアイツらの悪事を世間にぶちまけるために、スマホで証拠の動画を撮っていた。それをネットにアップして、すべてを終わらせるつもりだったんだ。……でも、バレちまった。アイツらは俺を屋上へ引きずって行き、抵抗する俺を突き落としたんだ」


 血の気が引くのがわかった。地縛君は自ら命を絶ったのではない。鳳たちに殺されたのだ。自分たちの輝かしいキャリアを守るため、邪魔なヤツを消した。それが真相だった。もしミコッチが兄の死が殺人だと知れば、彼女は命懸けで証拠を探すだろう。それは開けてはいけないパンドラの箱を開く行為に他ならない。鳳たちが、自分たちの殺人罪を隠し通すために、妹であるミコッチまで処理しようとする可能性は十分に考えられた。


 『それは……本当なのか?』

 「本当だ。君も鳳の毒牙にかかったのならわかるはずだ。アイツらのあの狡猾さ、そして目的のためなら手段を選ばない残虐性をな」


 地縛君の言う通りだ。アイツらにとって、1人の人間の命など、自分たちの悪事を暴こうとした不遜な存在を黙らせるための、単なる邪魔な障害物に過ぎないのだ。自分たちの築き上げた聖域を汚そうとした地縛君への、許しがたい怒り。ただそれだけのために、アイツらは1人の少年を屋上から突き落とした。自分たちへ歯向かった者への凄惨な報復。それが、地縛君の命を奪った真相だった。


 『そうか……。だとしたら、警察が自殺と断定したのは……校長や教師たちの証言があったからなのか?』

 「……その通りだろうな」


 校長からすれば、校内で殺人事件が起きるよりは、いじめによる自殺として処理する方が、まだ傷は浅いと考えたのだろう。部員たちの殺人を見逃す代わりに、自分たちの管理不足を隠蔽する。地獄のような利害の一致が、1人の少年の死を自殺へと書き換えたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ