第八話、山が燃えた
冬の入口に入り、寒さが忍び寄ってきた。朝方など寒さに目を覚まし、羽織っていた着物を手繰り寄せて丸まることになる。この世界では、まだ布団というものはなく、畳の上に寝転び、厚手の着物を掛け布団代わりにしていた。
とはいえ、この地域は雪が降るようなことはめったになかった。幻門戦記の舞台は、北東と南東に長い島国で、形としては日本に似ている。ただ四国に当たる部分は、かなり大きめに作られており、国の数も六つあり、そのまま六国と呼ばれている。六国は、シナリオ1時点では、人材が揃ったかなり強い国がおおく、序盤生き残ることができれば、かなり有利になれる場所である。
本庄家は、その六国から北東、日本の地図で言うと兵庫県の真ん中あたりで上下を十文字家と大串家に挟まれている小さな国だ。
弱小な上、挟まれている、頼みの西の風見家は内紛状態、おまけに叔父は裏切っている可能性がある。冬の寒さより厳しいものがある。
そんな日に日に肌寒くなってきたある日の朝、領地にある山が一つ焼失したと知らせを受けた。
「て、敵襲か?」
慌てて、じい、こと、新田惣右衛門に話を聞くと。
「いえ、それが、どうやら、野焼きの延焼のようでして」
と、歯切れ悪く答えた。
「延焼、火の不始末か」
「はっ、すでに、下手人は捕まえております」
「下手人ということは、放火なのか」
「いえ、本人は、畑で雑草を燃やしただけと言い張っておりますが、不審な点も多く、とりあえずは捕まえております」
「一体何者なのだ」
「村の名主の息子で、藤勘九郎という男です」
聞いたことのある名前だった。
「よし、そいつに会いに行こう」
「会いにですか」
「ああ、案内してくれ」
「誠に申し訳ありません」
村の名主である藤平佐が両膝をついて頭を下げていた。名主は村の有力者で、名字帯刀を許されている場合もあった。その横で、縄に縛られた二十代と見られる男が同じく膝をついてうなだれていた。
「なにがあったのだ」
ここに来る途中、燃えてしまった山を見た。それほど大きな山ではない。十分も歩けば山頂につく小さな山だ。名前すら知らない。もともと木もそれほど生えていなかっため、山は完全に燃え尽きていた。
「このバカ息子が、火をつけたのです」
「違う。俺は、畑の草に火をつけただけだ」
縄に縛られた男が言った。この男が、藤勘九郎だろう。見覚えのある顔だった。
「黙れ! どこの世界に、野積の草に火をつけて、山一つ燃やす人間がおるのだ。嘘をつくな!」
藤平佐は血走った目で怒鳴りつけた。
「本当だ。本当に、草を焼いただけなんだ。それがあっという間に、燃え広がっちまった。信じてくれよお。本当なんだよー」
藤勘九郎は頭を地面に押し付け泣き始めた。
「実際のところ、どうなのだ。誰か見たものはいないのか」
俺が問いただすと、おずおずと、百姓が一人、前に出てきた。
「全部見たわけじゃねぇが、やつが、積み草に火をつけているところは見た」
「その後、どうなったのだ」
それで、放火扱いするのは無理があるような気がする。
「近くに、枯れた柿の木があってよ。暇なときに切っちまうか、なんて言ってたやつで、落ちた枯れ枝を株元に積み上げとったんよ。そこさ、ふいっと、風が吹いてよ。燃えてた野積みの草が、だーだーと、転がっちまって、ばっと、積んでた枯れ枝に燃えついちまったんよ。そうしたら、もう、燃える燃える。手がつけられなくなって、あとは、もう風に巻かれて山まで一直線でさ」
百姓は身振り手振りで説明した。
「では、勘九郎の言う通り、山に放火したわけではないのだな」
「うん、まぁ、そう、なんでしょうが」
「なんだ。なにか疑念があるのか」
「いや、放火じゃねぇとは思うんだけど」
歯切れが悪かった。
「なんだ。言ってみろ」
「火がよ。枯れた柿の木に移ったとき、燃えてるわけでさ。そりゃあ、みんな慌てふためいたわけよ。水もってこい、桶もってこいってな。消そうとしたわけでさ。それなのによ。勘九郎の野郎はよう」
その百姓は勘九郎をじろりと睨みつけた。
「笑ってやがったんだ」
百姓はいった。
さらに詳しく話を聞くと、もともと、村のあちこちで不審火があり、どうも勘九郎には怪しい節があったようで、あいつならと、なっているようだ。
俺が知っているゲームの知識では、藤勘九郎は山賊だったはずだ。火付けくせがあり、それが原因で山賊になったとか。たぶん、この後、村を追放されたか逃げたかで、東の福江山で山賊になったのだろう。
能力値的に見るところはない。武力は多少高かったが、それでも50前後、あとは全く覚えていないから、大したことはないだろう。注目すべきは特技だ。火付けと火飛びの特技を持っていたはずだ。
火付けは文字通り、火計の際、火をつけやすくなる特技だ。火飛びは、火がついた箇所から火が広がりやすくなる特技だ。おそらく、火飛びの特技が発動して、ただの野焼きが飛び火して、山を燃やしてしまったのだろう。
火付けと火飛びの特技が、この世界ではどう解釈されるのかわからないが、ゲームの世界だとかなりいい組み合わせになっている。うまく使えば、敵の大群を焼き殺し、下手に使えば味方が焼き殺される。
「その男だが、私のところで召し抱えてもいいだろうか」
俺は父親の藤平佐に言った。ちょっと怪しい部分はあるが、敵に回られても困るし、山賊になられても困る。
「へ」
名主の藤平佐は驚いた顔をした。
「丸文様、さすがにそれは、このような怪しげな男、いかがなものかと」
惣右衛門は顔をしかめながら言った。その後ろで、喜助も激しく頷いている。
「ただの野焼きが、この有様、山全部を燃やしたとなると、それはそれで才能だ。どうだ勘九郎、俺の家臣にならないか」
俺はそう言いながら、勘九郎に顔を寄せた。
勘九郎は「へぇ」といまいちピンとこないような顔をした。
「いや、俺の家臣にだな」
そうか、俺、魅力23だった。
それから、このままでは牢屋送りになるぞ、とか、このまま山賊になってもいいのかとか、親がなくぞとか、それなりの俸禄を払うぞ、など、脅し、すかしながら、時間は、かかったが、なんとか配下に加えることに成功した。




