第九話、援軍要請
商店は少しづつ建築されていた。米が足りなくなりそうなので、商店を通じて米を買うことにした。募兵も行い兵の数は164となった。
そろそろ正月の準備でも、というときに、家中は、にわかに騒がしかった。
西の風見家からの使者があり、風見家南東の支城、田上城防衛の援軍の要請があったそうだ。
田上城は何度か大串家の攻撃にさらされていたが、風見家の武将、多野甚兵衛がその軍勢を退けていた。その多野甚兵衛が流れ矢に当たり負傷し、病に倒れた。
武将が傷をおったり、病に倒れると、武将の能力値は半分になる。病は、最低一ヶ月、最長半年能力値の半減状態が続く。場合によっては死ぬ場合もある。
幻門戦記では、支城を任されている武将の能力値が支城の守りに反映される。多野甚兵衛は統率力の高い武将であったと思う。城の守りの場合は、統率力はかなり重要で、それが半減となると、かなり厳しい。
別の武将に支城を任せればいいのでは、という話になるのだが、支城を任せていた武将を解任した場合、その解任した武将の忠誠心は著しく下がる。再び忠誠心を上げようとすれば、かなりの額のカネか、それなりの家宝が必要になる。また、支城を任された武将は、兵を任せられる数が増え、能力値が上がるメリットがあるため、いっときの怪我や病気でかえるのは躊躇してしまう。しかし、これらはゲームの仕様なので、この世界でどうなっているのかはわからない。
判断に迷った父、伊平は、評定を開くことにした。
主だった家臣と、兄、太一郎、叔父の筑山、そして俺も参加した。筑前の子、一緒にダンジョン潜った、いとこの佐門は参加していないようだった。
「まったく、やっかいなことになった」
父、伊平が、およその状況を説明した。風見家の支城、田上城にこもる1500の兵に対して、6000の大串家の軍が攻め寄せているそうだ。
「当家と風見家の関係を考えれば、出さないわけにもいきますまい」
家臣の一人が言った。
風見家とは同盟関係であり、姉が当主の風見宮宿の側室になっている。
「だが、うちとて出せる兵は限られている。今すぐ動かせる兵は、せいぜい2000程度、田上城の兵は1500、一方の大串家の兵は6000はくだらない。多野殿が健在なら、たやすくは落ちないだろうが、援軍を出したところで果たして勝てるのかどうか」
父、伊平がいった。
「一応、挟撃という形にはなりますが」
「指揮官が怪我と病では田上城からの攻撃は期待できまい。大串家は6000の兵を割って、3000の兵で対応することができる。野戦で3000の兵と戦うとなると、仮に、田上城を守れたとして、うちは相当の犠牲を覚悟せねばならん」
「その価値はないと」
「そこまでは言えん、同盟国ではあるわけだし、田上城が取られれば、うちとてあまりいい状況ではなくなる。だが、田上城を守るために、我が兵を犠牲にしたくないというのも正直ある」
「しかし、出さねば今後の関係に響くといったところですな」
叔父の本庄筑山がいった。
「そうだ。本音としては出したくはないが、出さねば、今後、こちらが困ったときに、援軍を出してくれなくなる。間違いなくな」
顔をしかめた。
「では、出すしかないのではないですか」
兄の太一郎がいった。
「そのとおりなのだ。だが、風見家の支城を守って、こちらの兵が使い潰されてはかなわん。それこそ、まずい状況になる」
「形だけでも、というのはどうでしょう。戦わず、牽制のみでも、意味はあるかと」
家臣の一人が恐る恐るいった。
「中途半端な戦力では、風見宮宿は、納得せんだろう。あの性格だ。あとあと、本庄家の所為で田上城が取られたとか、やれ腰抜けだとか、言い出しかねん」
父は、風見宮宿に対してあまりいい印象を抱いていないようだった。たしか顔グラフィックも性格の悪そうな顔をしていた。
「では、やはり、風見家が納得できるぐらいの数を出すしかないのでは」
「それをなるべくしたくないのだ。なにか良い知恵はないか」
伊平は顔をしかめ腕を組んだ。
「大串家の領地を攻めてはどうでしょうか」
俺は言った。
うん? という雰囲気で評定の場が止まった。
「大串家をか?」
父、伊平がいった。
「はい」
「大串家は田上城に兵を出し、手薄になっているとはいえ、領地にも十分兵を残している」
叔父の筑山がいった。
「威勢がいいのはいいが、さすがに、大串家相手に勝てないぞ」
兄、太一郎が顔をしかめた。国土の広さが違ううえ、兵の数でも、三倍ほど差がある。
「別に勝つ必要はないのです」
「勝つ必要がない? ならなぜ攻めるのだ」
伊平がいった。
「田上城にいった兵を引かせるためです」
「どういうことだ」
「大串家とて、自国の領地が攻められたとなると、他国を攻めている余裕はなくなるのではないでしょうか」
幻門戦記では、他国を攻めている国を攻めると、その国の兵は自国を守るため戻ってくる。取られたくない領地を守るときによく使う手だ。
ただ、このやり方が、この世界でどう作用するのかわからない。
「そのために、大串家の領土を攻めるか。悪くはない考えだが、だがそれで、田上城に行った兵が引いたとして、わしらが大串家の兵を相手に戦をすることになる。援軍を出すより負担が大きくなるのではないか」
「別に正面からぶつかる必要性はありません。大串家の兵と直接ぶつからず、大串家の町や村を襲うのです」
「盗賊の真似事をしろというのか」
伊平は不快そうな顔をした。
「はい、そうです。敵を引きつけるため、できるだけ派手にやらねばなりません」
村を焼いて略奪すれば、カネと兵糧が手に入り、本庄家の名声値は下がることになる。一方の大串家は治安と民忠が下がり、村が焼けた月は、金銭収入もストップする。兵糧も減るので、戦線の維持も難しくなる。大串家の国内情勢が不安定になれば、国内の立て直しに労力をとられて、風見家に、しばらくちょっかいを掛ける余裕もなくなるはずだ。
名声値に関しては本庄家の名声値は現状高々しれているので、下がったところでなんの影響もない。
「愚かな考えだ。ともいえませんな」
叔父の本庄筑山が冷静な表情でいった。
「しかし、略奪など、あまり気が進まん」
「少なくとも、大串家の軍勢と正面からぶつかるよりはましでしょう」
「それは確かに、そうだが」
「才気走った風見宮宿が好みそうな策でもあります」
筑前が苦々しげな表情でいった。叔父も風見宮宿のことが嫌いなのだろう。
「大串家の領地をうちが攻めてしまうと、恨みを買わないか」
「恨まれはするでしょうが、その矛先がこちらに来る可能性は低いです」
俺はいった。
「なぜだ」
「風見家がいるからです。もし大串家がこちらに攻めてくるようなことがあれば、風見家は流石に黙っていないでしょう。おそらく、援軍を出してくれるか。これ幸いと大串家を直接攻めるでしょう。それに大串家は、風見家を攻め取るためにカネも人も出しています。いまさら、本庄家に切り替えようとはなかなかできないでしょう」
一度その国を攻めると、しばらく、その国を執拗に責める傾向が幻門戦記のCPUにはある。それが、この世界でも適用されているのかどうかはわからない。
「なるほど」
「むしろ、警戒すべきは大串家ではなく、十文字家です」
視界の隅で、俺は叔父の本庄筑山の様子をうかがったが、とくに表情の変化はなかった。
「なぜ十文字家なのだ」
「地理的に考えて、十文字家が風見家の領地をかすめ取るのは難しいでしょう。だとすれば、十文字家が切り取れる土地は、東の狩尾家か南の本庄家になります。あとは、福江山地ですが、あんな山賊しかいないような土地をとっても仕方がないですからね。となると、東の狩尾家か南の本庄家、攻めるとしたらこの二つです。狩尾家に関しては、昨今、隣国の馬能家を討ち滅ぼしています。また狩野家は、日野小五郎、牧野権兵衛など、勇猛な武将が揃っています。狩尾家には勝てないと十文字家は考えるでしょう。とすると、選択肢は本庄家になります」
「それでうちか」
伊平は心底嫌そうな顔をした。
「風見家の支城に援軍を送るとなると、おそらく、兄上が行くことになるでしょう。そうなると、こちらに隙ができます」
その隙を狙って、叔父である本庄筑山が謀反を起こす可能性がある。それは言えないことだった。
「そこを、十文字家に攻められるということか。しかし、大串家に兵を送っても同じことになるのではないか。結局、国を空けることになる」
「いえ、行くふりをすればいいのです。兵を率いて、大串家の領地を攻め取るふりをすればよいのです。主力の戦力を送り込まなくても、国境で攻めるふりをして、少数の兵で大串家の領地を荒らせば、それを知った風見家の支城を攻めている兵は、本庄家が風見家と協力して、国を攻めてくるかもしれないと、警戒して引き上げる可能性があります」
「なるほど、主力の兵を国にとどめ、十文字家を警戒しながら、大串の兵を引かせるか。筑山、どう思う」
父、本庄伊平は聞いた。
「良い策かと」
叔父の本庄筑山はいった。その表情からは、なんの感情も読み取れなかった。




