第六話、帰還
じいを先頭に、佐門、俺と続く。どの道を選ぶか、じいに任せてある。いくつか道を曲がると広場に出た。何匹が敵影が見えた。
「豆たぬきのようですな」
じいは槍を構えた。頭に葉っぱを乗せた六匹の豆たぬきが、横一列に並んで、立ち上がり、こちらを威嚇するような両手を上げたポーズを取っている。
じいが一匹の豆たぬきを槍で突くと、豆たぬきは、色を失い砂のように崩れ去った。
豆たぬきの体力は50だ。その豆たぬきを一撃で仕留めるということは、じいの武力は50以上ということになる。
佐門が踏み込み刀を振るった。豆たぬきの肩の辺りを切り裂いた。豆たぬきは、こてんと後ろに倒れたが、すぐに立ち上がった。一撃で倒せないということは、佐門の武力は50以下ということになる。
俺は、立ち上がった豆たぬきに矢を放った。矢は豆たぬきの腹に当たり、豆たぬきは砂になって消えた。
俺の武力が11だから、佐門の武力は39から49の間ということか。
残った四匹の豆たぬきが怒ったような仕草を見せて、いしつぶてを投げてきた。三個は、じいに当たり、一個は佐門に当たった。俺の特技である、敵の攻撃対象になる確率を減らしてくれる雲隠れのおかげか、俺には当たらなかった。当たったところで、豆たぬきの攻撃なんかたかが知れてる。
残った四匹も同じような感じで倒した。
地面には薬草と小銭が落ちていた。ゲームどおりなら、薬草はダンジョン内では使えるが、外には持ち出せない。拾った装備品なども持ち出せない。お金と一部のもの以外は外に持ち出せないはずだ。
「お見事でした」
じいが少々戸惑ったような表情で言った。たぶん、俺の弓矢が当たったからだろう。
「まだ一階だからな」
じいが困惑しているには理由がある。俺は弓矢の鍛錬を普段から行っているが、あまりかんばしくはない。なんせ、弓矢なんて前世では全くやったことはないし、今世でも苦手なようだ。やはり、武力11が悪影響を及ぼしているのだろう。硬い弓は引けないし、引けても、あまり的に当たらない。弓兵の適正がDなので、多少の補正は働いているだろうが、まぁ、だめだ。ましてや、動いている的なんて、全く当たる気がしない。
それがだ、なぜこうも簡単に、俺の弓矢が魔物に当たるのかというと、ダンジョン内では、RPG制が採用されているからだ。
職業によって、値の上下はあるが、統率は体力、武力は攻撃力、知力は法術、魅力は状態異常耐性と状態異常成功率、統率と武力を足して半分にした値が命中率、法術や戦術などで使用する精神力は知力の1.5倍の値で計算されている。回避率に関しては、職業補正と装備依存なのでステータスは関係ない。現状だと、着物とわらじを装備しているので、三人とも7%の回避率になっているはずだ。
つまり、俺の命中率は統率27プラス武力11を足して半分にした値、19になるわけだが、そこに武士の職業補正、命中率プラス5が足され、24になる。これはもちろん命中率として低い値になるわけだが、幻門戦記のダンジョンにおける命中計算は、攻撃する側の命中率と攻撃される側の回避率を比較して、回避率のほうが上回っていた場合にのみ攻撃が回避される可能性が出る仕組みになっている。
例えば、攻撃する側の命中率が100で、攻撃を受ける側の回避率が同じく100の場合、同じ値であるため、攻撃が回避されることはない。
攻撃する側の命中率が50で、攻撃を受ける側の回避率が100であった場合どうなるのかというと、回避率のほうが、命中率より50%上回っているため、攻撃を受ける側は50%の確率で攻撃を回避することができる。
ダンジョンの最下層あたりになると、回避率が異常に高い敵がばんばん現れ、命中補正が効く特技でもなければ、こちらの攻撃が当たらなくなり、イライラが募ってくることになる。
ちなみに、地下一階の魔物の回避率は0%だ。よって、命中率24の俺でも、地下一階の魔物にたいして余裕で攻撃を当てることができる。おそらく、十階あたりまでは、殆どの敵の回避率は24以下だろう。
ようは、俺の実力ではなく、システム的に当たるのである。
佐門も少し戸惑ったような表情をしている。
おそらく、武術がからきしだめだという話を聞いているのだろう。悪い気はしない。
「さぁ、いこう」
俺達は落ちている小銭と薬草を拾い革袋に入れ、先に進んだ。
切りの良いところまで、ということで、五階まで進んで、五階にある帰還陣で地上に戻ってきた。道中、これといって、危機的な状況にはならず、順調に進み、五階にいる中ボスの鬼だるまを倒し、戻ってきた。
拾った装備品や薬草類は消えていたが、お金と五階の中ボスを倒した報酬である能力アップの巻物だけは、手元に残った。これは、使用することによって任意のステータスを一つ、1だけ、上げることができる巻物だ。ただ、じいは昔ダンジョンに潜ったことがあるらしく、五階クリアの報酬である巻物はもらえないようだ。そうでなければ、なんどもダンジョンをクリアして、ステータスを上げ放題になってしまうからだろう。俺と佐門、二人だけが巻物を手に入れた。
「お疲れ様です。いかがでしたか」
地上にいた喜助が尻についた土汚れを払いながら言った。
「五階まで行ってきたよ」
「そりゃあ、ご苦労さまで、ご無事で何よりです」
体には傷一つない。ダンジョンから外に出ると、入る前と同じ状態に戻る。
ふと気になって、ダンジョンの入口に手をかざすと、透明な膜のようなものがあり入ることができなかった。
「一度入ると、一ヶ月ぐらい再び入ることができなくなるのです」
じいがいった。
「俺達三人だけか」
「ええ、入ったものだけです。他の、たとえば喜助は入ることができますが、我々三人は、しばらく無理なのです」
ゲーム上では、ダンジョンに入り外に出ると、一ヶ月時間がすぎている設定になっている。ただ、この世界で、ダンジョンに入って、一日過ごして出てきたら一ヶ月たっていたとなると、いろいろな矛盾が生じることになる。それを防ぐために、一度入れば、一ヶ月入れないという仕様になったのだろう。
「佐門、今日は助かったよ。また機会があったら、ダンジョンに誘ってもいいか」
「ええ、構いませんよ」
佐門は答えた。
ダンジョンを通じて、佐門と仲良く慣れたのかと聞かれれば、あまりと言わざるを得ない。ダンジョン内でも色々話しかけてみたが、これといって弾む会話はなかった。やはり魅力22では、色々難しいのだ。
俺は手元の能力値アップの巻物を見つめた。任意のステータスを1上げることができる巻物だ。一番高い知力を上げるつもりだが、魅力という選択肢も考えてしまう。22が23になったところで、なにか変わるというものでもないだろうが、とくに何もしていないのに、あまり好かれないという現状に、少々寂しいものを感じてしまう。
ダンジョンで手に入れたカネを三人で山分けして、馬に乗って帰路についた。




