第四話、民の心と治安はカネで買える
俺は領地にきていた。
幻門戦記の武将プレイを城主の子で始めると、領地を一つ与えられた状態で始まる。なぜ、元服したての少年に狭いとはいえ領地を与えられているのかわからないが、これは、そういう仕様であると考えるしかない。
一応、じいに聞いてみると。
「ご嫡男の太一郎様が、武芸ばかりで、領地経営にちっとも興味を持たないので、丸文様には、早くから領地経営に興味を持ってもらおうと、伊平様は考えたのでございます」
じい、こと、新田惣右衛門は答えた。
新田惣右衛門は五十代の白髪、背の高いガッシリとした体格をしている。五十代といったが、いかんせん、この時代の、いや、この世界の人間の年齢は、見た目では、よくわからなかった。ゲームだと、武将のグラフィックは、一部の武将を除いて、年齢にかかわらず固定だった。十五歳の武将が、四十代の髭面の顔で出てきたりするのだろうか。
新田惣右衛門は、俺の記憶にない武将なのでステータスはわからないが、何かと博識で、武術に関しても、俺よりだいぶ強かった。チュートリアル的な存在なのかもしれない。
屋敷のある三笠から東に外れた、桐生に、俺は惣右衛門と下男の喜助を共にやってきた。桐生と呼ばれる土地が俺の領地である。
人はまばらで、建物も少なかった。道も悪く、所々にへこみがあり、道の端には、人の頭ぐらいの石ころがごろごろ転がっていた。寂れている。
「どこへいかれますか」
じい、こと、新田惣右衛門が聞いてきた。
「まずは寺だ」
「寺ですか」
「ああ、北の方に古い寺がある。そこにいこう」
領地が描かれた簡単な地図を見ながら言った。東西に長細いひし形の土地だ。細い川が土地の真ん中を走っていて、あまりいい地形だとは言えない。
寺へ向け歩いた。三十分も歩けばつく距離である。屋敷を出るとき、馬で行きますかと、宗右衛門に言われたが、歩いて領地を見てみたいと断った。実際のところ馬に乗るのが怖かったからだ。馬に乗った記憶もあれば、馬に乗れるという自信も一応ある。ただ、本庄丸文の記憶として馬に乗った記憶はあるが、俺自身は、馬に乗ったことはないのだ。
少し盛り上がった丘の雑木林の間に寺はあった。
入口の門は壊れているのか、外に開いたまま動きそうになかった。塀にはところどころ焦げたような跡があった。基覚寺という小さな寺だ。
この世界の宗教は、仏教なのだが、詳しいことはわからない。ゲーム内の説明では、大陸から渡ってきた宗教と書かれていた。宗派の違いというのもないようで、ゲーム内では仏教という宗教しか存在しない。現状、キリスト教もイスラム教もない。そういう仕様なのだろう。
ごめん、とひと声かけ、中にはいると老僧がほうきで境内を掃いていた。
「おや? これは」
と、目があった老僧は首を傾げた。
どういう目的で、どういう身分のものが寺に来たのかわからなかったのだろう。
「私は、本庄家次男、本庄丸文です」
と頭を下げた。
「これはこれは、基覚寺の住職、瑛緑でございます。本庄家の御子息様がこのような古寺、どのようなご用事でしょうか」
頭を下げ、丁寧な物言いだが、瑛緑は胡散臭気な顔で俺の方を見ていた。
「領地を預かることになったので、まずは、お寺に、ご挨拶に伺いました」
「わざわざこのような古寺に、庭先では失礼ですな、本堂の方に、なかは、まぁ、外と変わらず荒れていますが」
住職の瑛緑に案内されるまま、本堂に入った。
本堂は板張りの屋根で、人が二十人も座れば満杯になる広さであった。床はところどころきしんでいたが、掃除は行き届いているように見えた。天井にシミが有り、いくつかの壺や桶が端に置かれている。雨漏りがあるのだろうと考えられた。
「このあたりの様子はどうでしょうか」
瑛緑と向かい合って薄い座布団の上であぐらをかいた。惣右衛門も横であぐらをかいている。喜助は少し下がった後ろで座っていた。
「寂れてますな。治安自体もあまりよろしくありますぬ。物取りや妖魔の類も出ております」
と、悲しそうに目を伏せた。年は、たぶん六十を過ぎたあたりだと思う。
「やはりそうですか。それも、御仏の威光が付近に行き渡らないことが原因ではないでしょうか」
ゲーム序盤は、いつかの施設は半壊状態になっている。寺が半壊状態だと、月々で民忠が上がらなくなり、妖怪が出やすくなる。それをまず直さないと、民忠や治安の類は回復しない。この世界は、和風ファンタジーシミュレーションゲームなので、妖怪が出るのだ。
「かも、しれませんな」
申し訳なさそうな声を出しながらも、小僧生意気言いやがってという様子で瑛緑は頬を引きつらせた。
「いや、ご住職を責めているのではありません。それも私の至らぬことが原因です。喜助、持ってきなさい」
後ろ控える喜助に合図を送った。喜助は風呂敷包みをこちらに持ってきた。
「こちらをお収めください」
紙で包まれた小判の束を瑛緑の前に出した。
「おお、こんなに」
瑛緑は驚いたような顔をした。
「寺の修繕費に当ててください」
「本当によろしいので」
「もちろんでございます」
瑛緑は警戒した様子を見せながらも、小判を懐に収めた。
その後、西にある番所の方にも行き、同じようにカネを与えた。番所を立て直すと、月々治安が上昇する。これで、領内の民忠と治安は、月々上昇するはずだ。
「しかし、よろしかったのでしょうか。あのような大判振る舞い。悪いことではないとはいえ、いや、むしろいいことだと思われますが、後々困りませんか」
じいこと、新田惣右衛門は心配そうに声をかけてきた。持ってきたカネは、ほとんど使い果たしている。
「なに、問題ない。カネならすぐに取り返せる」
「どのようになさるつもりで」
「悪所を作ればいい」
「悪所ですか」
惣右衛門は眉をひそめ
「ああ、賭場と飲み屋、売春宿をつくる」
主要な道から外れ、水源のないような、あまり使い道のない土地に作る予定であった。複数建てたいところだが、ゲームでは一つの領地で一箇所しか作れない仕様であった。たぶん、この世界でもそうであろう。
「しかし、民の評判が悪くなりますぞ」
悪所を作ると、民忠と治安が下がる。しかし、どの商業施設よりもカネは入るのだ。
序盤においては、民忠と治安、それに対してカネ、どちらが大事かというと、カネである。
民忠は70、治安は80をきらなければ、暴動が時々起こるぐらいで、まぁ大丈夫だ。70や80を下回ると、住民が減り、暴動が続発して領地の収入がなくなる。現状募兵をする予定はないので、多少民忠と治安がさがったところで、さほど問題はない。
「だから、寺と番所を再建するよう命じた。これで民の評判と治安が上がるだろ」
寺と番所を再建して、民忠と治安を回復させ、悪所を作ってカネを手に入れる。幻門戦記の序盤のテクニックだ。
「なるほど」
惣右衛門は下顎のヒゲをしごきながら、評価に困ったような顔をした。
「民の心も治安も、カネで買える。そして、カネは悪所が生み出してくれる」
寄進を繰り返していくと、施設レベルが上がる。そうなるともっと、民忠と治安の維持は容易くなる。でもまぁ、マックスまで上げる必要性はないだろう。そのころには、普通の市場でカネを稼げばいい。
「なんか悪どいっすね」
下男の喜助がボソリと呟いた。




