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異世界転生~爆破魔法でテロを起こして真実を曝します~  作者: そせいらんぞー


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6/8

6:動機

「僕にあたりを付けたのは、異世界転生者のリストから?」


「はい。魔術省に勤めている異世界転生者は最も多く、94人いました」


「まさか総当たりってわけでもないんだろう?」


「もちろん。様々な魔術分野や魔術戦闘に関わっている職員がいる中で、異世界転生魔術に関わっているのは研究課の職員ひとりだけでしたから」


 魔術の分野は多岐に渡る。生活インフラ、工業、畜産業。その中で異世界転生そのものについて関わっている人間は、魔術省の中では、そう多くない。魔術に関する知識と魔術省内の組織図、そして存命の異世界転生者213人のリストがあれば推理は容易だった。


「あなたが犯人、ということでいいんですね?」


「ああ、そうだ」


 犯人を見つけたら、その顔面を引っ叩きたくなるかと思っていた。だが今は違う。アルフィルクの疲れ切った顔が、どうしてそうなっているのか私には想像がついている。


「爆破魔術の構文の一部は、異世界転生魔術の構文を利用したものだ。無差別爆破の際はビラの座標の周囲に人間がいれば非殺傷の爆破魔術を起動する。これが異世界転生魔術の場合、精神圏の人間を指定して殺傷しているわけだ」


 精神圏。魂の座とでもいうべき世界だ。物理的世界と対を為す場所。その魂に干渉しているというわけか。


「この大魔術の術式は、既に亡くなっている最初期の異世界転生者が書いたようだ。研究課は、それをそのまま利用し続けていたに過ぎない」


「なぜ異世界の人間を殺さなくちゃいけなかったんですか?」


「異世界転生は必ずしも成功するわけではない。だが、この世界を発展させるには多くの異世界転生者が必要だ。だから試行回数を稼ぐしかなかった」


「なぜ死んだ瞬間の魂を指定しないんですか?」


「精神圏には人間の魂だけがあるわけじゃない、そこから湧いては消える無数の魂の中から、人間の魂だけを観測して座標設定するのは困難を極める。だから人間の魂を見つけたら、すぐ殺してしまった方が早い、おそらくそういう意図だろう。そうして殺した人間の魂を、この世界に異世界転生させるという手筈だ。この魔術式を記述した転生者は悪魔だよ」


 悪魔という言葉を絞り出す時、この男は初めて怒りのような色を滲ませた。無差別爆破事件の犯人でありながら、どこか正義感めいたその態度に、私は苛立ちを覚えた。

 

「その事実を暴露するために、この無差別爆破事件を起こしたと?」


「そうだ。僕がこの事実を知ったのは、魔術省の研究課に配属されて、異世界転生魔術の再現性効率化業務を任されてからだった。構文についてそれとなく研究課の他の人たちに訊いてみたが、誰も把握していなかった」


 異常な事実でありながら、アルフィルクは淡々と語っている。だが言葉の端々に暗い感情が帯びているのを私は聞き取っていた。


「面倒ごとは異世界転生者に押し付けるのがこの世界だ。無力な人々は力がある人間に問題を丸投げするんだよ。最初に魔術式を異世界転生者が書いてから、誰も引き継いでいなかったんだ。この世界は無自覚に、他の世界の人々を殺し続けていたんだよ。その事実が僕には許せなかった」


 無自覚に異世界転生者による恩恵だけを享受する人々。その為に殺されていく、幾つもの魂たち。


 他の世界の人々を殺しておきながら、その自覚を持たぬ世界。その事実を自分しか知らない。本来なら知っているべき魔術省の人々すら知らない。利益を欲しながら、それを得るための構造の理解を拒む怠惰な社会。


 その事実を理解した時、この男は、この世界そのものを憎んだのだろう。その憎しみが、怒りが、この男を爆破事件に突き動かした。


「私がこの構文を公表し、内部告発したところで大したことにはならないのは、目に見えていたからね。もしくは魔術省によって揉み消される。キミは知らないかもしれないが魔術省の情報課は薄暗いこともしているし、裏で殺し屋を雇ったり、暗殺部隊を抱えたりしているという話も聞いたことがある。ただ公表しようとしただけでは私が殺されて終わりだ。それでは事実を世間に知らせることは出来ない」


 魔術省を批判する声明を出し、ビラを配るだけではダメだった。だからこの男は事件を起こした。


 だが私は怒りを覚えた。


「関係ない人間まで大勢巻き込む必要はありませんでした。貴方のやったことは悪行そのものです」


「関係ない人間、ね。異世界転生者に文明を発展させられ、幾度も魔族から救われておきながら、民衆はこの件とは無関係とでも言いたいのかい? 魔術省に異世界転生者を召喚するよう求めたのは議員たちで、その議員を選んだのは民衆だ。この世界の問題をこの世界だけで片付けられないからと、余所の世界の人間を勝手に殺して転生させておきながら、それは自分勝手じゃないかい?」


「確かに異世界の人間を殺して無理矢理に転生させていたとしたら、それは大問題です。でも、だからといって事実を知らない民衆を傷つけていい理由にはなりません」


「彼らが傷つかなければ、誰もこの話題を取沙汰しないだろう。そうなれば異世界転生の為に他の世界の人間が殺され続けるんだ。僕はその方がおかしいと思うね。この世界で便利に使われるために、他の世界の人間が殺される必要は無い」


 自分たちが不当に殺されたのかもしれない。そこに怒りを抱く気持ちは分かる。私だってそうだ。前の世界の生活だって順風満帆とまではいかなくても、それなりに充実していた。


 その生活を奪われたことに対して怒りが無いわけではない。だが、だからといって誰かを傷つけなければ気が済まないというこの男と私は違う。私は不当な暴力など振るわない。


「民衆はいつだって人柱の神様を求めるんだよ、ステラ・インヘリット。異世界転生者として力を尽くすよう懇願されたことが、キミは一度も無かったか?」


 アルフィルクの言葉が、油断していた私の心に突き刺さる。


「刑事さん……異世界転生者さんなら、私の体も簡単に治してくれるんですか?」


「異世界転生者って凄い人なんですよね、会えて良かったです。絶対に犯人を見つけてくださいね」


 被害者の少女・アドマイアの言葉が思い出される。

 あの娘だって、あの短い時間に二度も異世界転生者に救いを求めた。


「流石は異世界転生者だな」


 警部の言葉が思い出される。魔力量もスキルも違う我々は果たすべき役割も異なっている。


「異世界転生者に救われておきながら、異世界転生者を生み出す魔術とは関係がないという。自分の人生の都合が悪くなれば異世界転生者を求めておきながら、その裏に潜む真実を突き付けられたら知らなかったと首を振る。あまりにも都合が良すぎるだろう。3000万の世界から、5兆以上の命を奪っておきながら」


「なんて……?」


 あまりに大きな数字すぎて、それが何を指しているのか私の脳は理解が遅れた。


「3000万の異世界を対象に試行された合計回数、5兆8700億。異世界転生召喚魔術が失敗した回数だ。失敗とは異世界で殺されたうえに転生も出来なかった数だよ。この世界に異世界転生できた213人ぶんの成功を産むためだけにね。それに比べれば1つの世界で100人ちょっとの人間が傷害を負うことなど比べるに足らんと思わないかね?」


 あまりの数の多さに、私は言葉を失った。6兆人弱。この世界人口の700倍以上の人間を、この世界は殺していた。わずか213の成功を手に入れるために。


「でも、だからって、それを決めるのは貴方じゃないでしょう?」


「口先だけの言葉だな、羽ほどの重みもないのは自覚があるだろう?」


 そうだった。この男の語る数字が本当なのか、私には確かめようがない。だが、この男は事実しか語っていないと私の本能は告げていた。この男には嘘をつく理由がない。


 あまりにも理不尽な理由で、無残にも大量殺戮された人々。その事実を世間に知らしめるために、この男は無差別爆破事件を起こした。


 結局のところ人は数字で比べてしまうのだ。100人ばかりが火傷を負うのと、6兆人が殺されるのと。どちらの方が理不尽なのかは比べるまでもないことだ。


「無力感から犠牲を求める……たしかに民衆は間違っているかもしれない、でもそれは貴方も一緒でしょう? 誰かが傷つく方法以外で、この事実を知らしめることができなかった貴方も」


「そこを否定するつもりはない。だが役割は果たさなければいけない」


「ビラに直接内容を書いて暴露するだけでよかった筈よ。あなたが殺されたとしても、ビラの内容に興味を持たない人ばかりでもなかった筈」


「誰も相手にしないさ。退屈な標語と退屈な啓蒙。誰も難しい話には興味を持たない。面倒ごとは魔術省や異世界転生者に任せて、深く物を考えないのが今の魔術社会だ。爆破事件というセンセーショナルな事件が無ければ物語は始まらない。民衆は興味をそそられないんだ。自らが体験した物語の結末を知る過程で、初めて、そのビラに書かれた内容に興味を持つんだ。『どうして犯人はこんなことをしたんだ』とね」


 アルフィルクは滔々と語る。己の心の中の全てを。


「この世界に来る前、職場の先輩が言っていたんだ。『人は文字を読まない』とね。説明書や業務マニュアルなんて退屈なものは誰も読まない。強い刺激、激しく感情を揺さぶられる映像、心の踊る音楽。そういうものにしか興味がないんだ。キミだった今回の爆破事件が無ければ、私が何を話したところで右から左だったと思うよ。証拠の無い空想の産物だとね」


 そんなことはない、そう言うのは簡単だ。だが出来なかった。町中で配られるビラ、行方不明になった人々の顔写真、駅前で募金を呼び掛ける人々。屠殺場で悲痛な声を上げながら無残に殺されていく牛や豚。動画の合間に流れる環境保護のコマーシャル。前の世界で経験した様々な記憶が蘇る。


 ふと意識を傾ければ、私も誰かの主張を聞き入れられた筈だ。だが街中で、そういうものは大抵は存在しないものかのように無視されている。打って変わって突然に街中で披露される芸術はどうだろうか? 超絶技巧のピアノ奏者や、才能のあるバンドマン、即席で絵画を描くパフォーマー、大きな音を出したり、美しい絵画を描いたり、そういう娯楽を提供してくれる人には人が寄ってくる。


 誰も彼も、興味を持つのは面白いことばかり。退屈なものに時間を割いていられるほど暇じゃない、そんな暇をしていられない暇人が世界を作っているのだ。


「異世界転生者は異世界の人を大虐殺して作っている、そんなことを言っても、それを説明するのは魔術省の仕事だし、捜査するのは警察や正当性監視機構の仕事だ。彼らは彼らで説明義務を果たすのは面倒くさいし、手を出したらマズそうな話題を積極的に捜査なんかしたくない。どこまでいっても皆が興味を持たない、その前に僕は証拠の隠滅のために魔術省に殺される。だが興味を持たせる方法が一つだけあった、それが爆破事件なんだ」


 押しつけがましい義務感から、センセーショナルな興味に意識を転換させる、それが、このおぞましい事件の真相だ。


「誰も彼もが意識を割かれる、興味を持たされる。平和な世界における暴力行為は、それだけの力を持っているんだ。『こんな悲惨な事件は二度と起こしてはならない』『法治国家では暴力は許されない』『犯人はなぜこんなことを』『事件の事実を究明する義務がある』とね。口先では暴力は許されないと言っているが、それによって議論は巻き起こる。テロという行為は議論の火種になるんだよ。法治国家において特定の主張をしたいなら、暴力行為は主張を議論の俎上に載せる格好の手段になる。この世界でも前の世界でも過激な活動をする人間が多いのは、そのためだ」


 暴力による物語。爆破テロ、保護団体の座り込み、捕鯨船への妨害行為。暴力は議論を誘発する。退屈な法治国家で消費されるイベントの一つとして。


 だがその消費される過程で事実が解明されるなら、それはテロリスト側の勝ちである。


 アルフィルク・ヴェンジェンスは自らを差し出す代わりに、異世界転生できなかった5兆以上の人々のために勝利を手に入れようとした。異世界転生できた213人の中で、唯一事実を知り、義務を果たせる人間として。


「でもあなたが爆破事件を起こしたせいで、あなたの意見が正しいとは言われなくなる」


「そうかな?『爆破事件を起こした奴が全部悪い、だから魔術省が6兆人ほど殺したことは問題じゃない』なんていう人ばかりだと思うかい? そこまで僕は、この世界の人々に対して悲観してはいないよ」


 つまりこの男がしたことは、本質的には爆破事件ではなく自爆テロなのだ。自分の命と引き換えに魔術省の不正を明るみに出すという、正当な手段を無視して結果だけを追い求めた成れの果て。


「魔術省が証拠を隠滅する可能性は考えなかったんですか?」


「証拠の術式は私もコピーして資料の中に隠してある。警察や正当性監視機構は優秀だから見つけてくれるだろう。もしそれすら隠滅されて魔術省が別の魔術式を提出しても、再現が出来ないことは正当性監視機構が証明してくれる。異世界転生者がいるんだ、どうにかしてくれると考えた。事態が大きくなりさえすれば、誰も無視できなくなるからね。世間は事件の重要性を、流れる血の量で決めるんだ」


「あなたもそうやって、私たちに責任を丸投げするのね」


「ああ、僕に出来たのはここまでだ。この話を聞いてもキミは僕の話を無視するかい?」


 逡巡して、私は視線を落とす。


「私の負けね、たしかに、この話を聞いて無視することなんてできない」


 この男の話が事実なら、それは魔術省の大スキャンダルだ。不正行為は正当性監視機構の人間の一人として許してはいけない。


 私は顔を上げる。目の前の男を睨みつける。同じ人間として、同じ異世界転生者として、彼を許してはいけないから。


「でも、あなたにも責任は取ってもらう。あなたを逮捕します、アルフィルク・ヴェンジェンス。どう言葉で取り繕っても、どれだけ正しい主張をしても、やはり貴方が人々に振るった暴力は許されない」


「十分だ」


 この男は……私は苛立ちを覚えた。自分の主張さえ果たされれば、自分の身がどうなろうと、どうでもいいのだ。まるで他人事だ。魔術省が人々の命を奪ったことに怒りを覚えていながらも、自分が100人以上の人々を魔術で甚振ったことについては一切頓着していない。


 やはり、この男は無責任だ。正しく罰されなくてはいけない。

次回の投稿は2026/08/07(金)になります。

連続2話投稿で完結します。

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