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異世界転生~爆破魔法でテロを起こして真実を曝します~  作者: そせいらんぞー


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3/8

3:事情聴取

 無差別爆破事件の調査委員会の立ち上げ。真っ暗な大会議室には警察、公安、魔術省、そして我らが正当性監視機構の職員が入り乱れる。


 魔術によって大会議室の奥の壁に映し出される資料の数々。無差別爆破事件発生の時刻、場所、被害者状況、エトセトラ。


 時刻は午後15時ジャスト、レジデンスフリーパーク、サウスショッピングモール、魔術商店街で複数の人間の皮膚が突然爆発した。


 被害者数は126名。子供、大人、性別など幅広い。全員の共通項が、その日、その場所で配られていた『異世界転生者に頼らずに生きよう』という内容のビラを受け取っていた、もしくはビラが近くにいる時だったこと。


 犯行の意図はビラの内容から異世界転生者や、それを召喚した魔術省への挑戦の可能性が高い。


 犯人は魔術的な思想に偏りがあり、かつ自動もしくは遠隔操作での爆破魔術を行使できるほどの技量がある。捜査中も油断しないよう皆に注意があった。


 わたしもドラント警部の監視の名目で参加することになった。


「強大な魔力を持つ異世界転生者は、犯人に即応するためにも現場に出ている方が都合がいい」という事情だが、おそらく組織間の思惑が入り乱れているのだろう。私は深く追及しないことにした。

 いま追及すべきことがあるとしたら、それは組織のしがらみなどではなく、爆破事件の犯人と事実の究明である。


 それに犯人が目の前に現れてくれるなら願ったりかなったり、私も受けて立つだけだ。こっちの世界に来てから27年、伊達に異世界転生者をやってはいない。そこらの魔術テロリストに殺されるほど間抜けではない。

 

「現状の把握のため被害者から事情を聞けることになりました。被害者が女性ということもあって、貴女に白羽の矢が立ったんですよ。被害者への配慮ってやつです」


 ドラント警部が説明する。事情聴取をするのは本来警察の役目だ。別に事情聴取をするのは嫌ではないが、一応は説明を求める。


「女性警官なんて幾らでもいるでしょう」


「今回の無差別爆破事件、被害者の絶対数も多いんですよ。そう多くない女性警官を全員事情聴取に当てられるわけもない」


 ということらしい。別に文句があるわけでもない。そういう事なら仕事をこなすだけだ。



 病室に辿り着く。警部は外で待っているとのことだった。

 ノックする、どうぞ、という声。 扉を開けるとカーテンが引かれていた。

 カーテンの手前に主婦らしき人物が椅子に腰かけていた。被害者の母親らしい。互いに会釈をする。


「意識はハッキリしているのですが、なにぶん怪我が怪我ですからね。あまり刺激しないようお願いします」

 看護師からも説明があった。時間をかけ過ぎないように配慮するべきだろう。


 カーテンの向こうに私は赴く。


 思わず顔をしかめる。


 何となくの説明は受けていたが、なるほどこれは酷かった。ビニールのようなベッドに、ほぼ全裸の状態で横たわっている一人の女性。その全身は火傷だらけで見るに堪えなかった。

 全身のいたるところが水膨れ、焦げていた。頭髪は全て刈り取られていた。手当のためだろう。


 人間は、こんなにひどい状態になっても生きていられるのか。思わず視線を逸らしたくなるのを必死でこらえる。患者の周囲にはいくつもの治癒術式が展開されている。痛み止めや化膿止めの効能があるようだ。


 火にくべられた人形ならどれだけマシか。もっともグロテスクなのは、その胸が一定の間隔で上下していることだった。呼吸しているのだ。


 目蓋が溶け合わさった右目が、ぎょろりと私を視認する。左眼は完全に焼け爛れ、潰れていた。


「アドマイアさん、聞こえますか?」


「はい……」


 驚いた。その声は掠れた子供の声だった。小柄な女性だと思っていたから虚を突かれた。

 いともたやすく子供の身体を、これほど徹底的に焼き尽くした犯人に対して、私は心の底から恐怖した。


 なんで同じ人間を、それも子供を、こんな風にしてしまえるのか?


 そして、こんなボロボロの少女から情報を聞き出さなければ、捜査の一つも出来ない自分の無力さに苛立ちを覚えた。


「このたびは、さぞ大変な思いをされてお辛いことと思います。貴女を、こんな目に合わせた犯人を必ず捕まえます。辛いこととは思いますがご協力お願いできませんか?」


 心苦しいながらも、私は彼女に問いかける。


「分かりました」


 存外にも、すんなり彼女は事情聴取に付き合ってくれた。時間、場所の再確認。何を見たか。ビラを受け取った時の違和感、なぜ受け取ったのか。


 ビラを受け取った理由は大してなかったらしい。唐突に差し出されたから受け取った、その程度のことだったようだ。そもそも彼女はビラの内容を読んですらいなかった。ビラを受け取ってから友人との約束の時刻を過ぎていることに気づき、急いでいたそうだ。


 彼女への配慮もあり20分ほどで情報を訊き出すと、私は退室することにした。これ以上、苦しんでいる彼女に無理は強いられない。


「今回はご協力、ありがとうございました。捜査に進展がありましたら、また報告に参ります」


 そう言って私が頭を下げた直後、彼女はポツリと呟いた。


「刑事さん……異世界転生者さんなら、私の体も簡単に治してくれるんですか?」


 どきりとした。私は説明する。


「……人によると思います。魔力はともかく技術に関しては、転生後のコチラの世界で、どう磨いているかによって大きく異なりますから」


「異世界転生者さんなら、私と同じ目に遭っても怪我せずに済んだんですかね?」


「もしかしたら、そうだったかもしれません」


「そうですか……分かりました」


 彼女は私が異世界転生者とは知らない。だが「役立たず」と非難された気がした。

 母親が「大丈夫?」とアドマイアさんに声をかけて来た、そろそろタイムリミットということらしい。


「すみません。お時間をおかけしました。アドマイアさんが少しでも早く回復することをお祈りしております」


「アドマイア、こちらの刑事さんならすぐ犯人を見つけてくれるわよ。なんといっても異世界転生者だそうだから」


 どきりとした。そして母親の鋭い視線、まるで私を咎めるように。


「そうなんですか?」


 喜悦の色を帯びた。その視線に希望の色が帯びていく。そのことに私は恐ろしさを抱いた。


「異世界転生者って凄い人なんですよね、会えて良かったです。絶対に犯人を見つけてくださいね」


 顔中火傷だらけの少女が、口を動かすだけでも痛いだろうに満面の笑顔を見せる。

 他者からの期待が、これほど辛いものだと私は知らなかった。

次回の投稿は2026/07/31(金)になります。

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