3-3-17 ラストダンジョン3
10人の女王候補たちは、闇の女王の居城へと至る道中、それぞれに用意された障害へと足を踏み入れていた。だが、現れた敵の強さと数は想定を上回り、いずれのパーティーも進行を阻まれ、足止めを余儀なくされている。
それでも彼女たちは、ここで無理に突破を試みれば全滅しかねないことを理解していた。短く視線を交わし、それぞれが状況を飲み込むと、連携の再構築へと意識を切り替えていく。
空中を進むミーナ、カリナ、レイラのパーティーでは、雷の魔法生物ガルダールとの戦闘がなおも続いていた。稲妻のような機動に翻弄され、接近戦を得意とするミーナでさえ、間合いに入る機会を掴めずにいる。
雷光が横薙ぎに走り、アルカンティスが大きく身を翻した。
「速すぎる……っ!」
レイラが思わず声を上げる。回避はできているが、主導権は完全に握られていた。
カリナが歯を食いしばる。「追いつけない……このままじゃ、削られるだけだ」
その言葉に、ミーナはわずかに目を細めた。
「……ええ。雷の精度も上がってる。長くは持たない」
短く断じたその声に、二人の表情が引き締まる。
「でも、変よね」レイラが続けた。「私たち、こんな相手に対抗できないほど弱かった?」
その一言に、ミーナははっきりと頷いた。
「足りないのよ。距離を取る手段も、動きを止める手も。……本来なら、全部揃ってるはずのものが」
カリナがはっとしたように顔を上げる。「弓か……鎖か」
「そう」ミーナは即座に応じる。「私たちのデバイスは、単体で完結するものじゃない。補い合って初めて意味を持つ」
一瞬の沈黙の後、彼女は決断した。
「カリナ、レイラ──私が引きつける。一人でならアルカンティスも避けきれる。あなたたちは離脱して、ヴァイかエヴァを連れてきて」
「……任せた!」カリナが即答する。
「必ず戻るから!」レイラも続いた。
ミーナは頷き、アルカンティスへ指示を飛ばす。火竜は低く唸り、ガルダールの正面へと躍り出た。
一方、西門ではフィー、エレイン、ヴァイのパーティーが、膨大な数のスライムに包囲されていた。
刃を振るうたびに数が増え、矢を射るたびに形が崩れては増殖する。
「最悪ね……切るほど増えるってどういう理屈よ」
フィーが苛立ちを滲ませる。
ヴァイも矢を番えたまま動けずにいた。「効いてない……どころか、増殖速度が上がってる……」
足元がぬかるみ、体勢が崩れかける。
エレインが盾で押し返しながら叫ぶ。「このままじゃ……押し潰されるわ!」
その言葉に、三人の間に一瞬だけ静寂が落ちた。
「……無理に押す相手じゃないわね、これ」
フィーが低く言う。
ヴァイが小さく頷く。「炎か、水……性質ごと変えないと止まらない」
エレインは息を吐き、静かに言った。
「足りてないのよ、私たち」
その言葉に、フィーが目を細める。「ああ……噛み合ってない」
「本来、そういう前提のデバイスだったはずよね」エレインは盾を握り直す。「それぞれの弱点を、他で埋めるための」
短く視線を交わし、すぐに決断が下る。
「フィー、ヴァイ──私が押し開く。その間に抜けて、仲間を呼んできて」
「任せる!」フィーが即座に応じる。
「絶対に戻る!」ヴァイも続いた。
エレインは盾に魔力を集中させ、波のような衝撃でスライムを押し返した。
東門では、セレナ、ルナ、エヴァ、シェリーのパーティーがキマイラと対峙していた。
エヴァの鎖が絡みつくたび、尾の蛇がそれを弾き返す。
「くっ……完全には止められない……!」
エヴァが歯を食いしばる。
セレナも前に出ようとしては押し返される。「決め手が……ない!」
ルナが防御を維持しながら叫ぶ。「このままじゃ持久戦になる!」
その言葉に、セレナは一瞬だけ思考を巡らせ、そして吐き出した。
「違う……あいつは学習してる。このままだと、崩される」
短い一言だったが、全員がその意味を理解する。
「抑えと防御だけじゃ足りない」エヴァは続ける。「仕留める手がない」
セレナが舌打ちした。「……攻め手が欠けてる」
ルナも頷く。「役割が偏ってる」
エヴァは即座に判断を下した。
「セレナ、ルナ──離れて。ミーナかフィーを連れてきて。この蛇、切り落とせる手がいる」
「……一人で持たせる気?」セレナが問う。
「やるしかないでしょ」
即答だった。
一瞬だけ視線が交わる。
「行くわよ!」セレナが振り返る。
ルナも頷き、二人は同時に駆け出した。
その横で、シェリーは鏡を握りしめたまま、動けずにいた。
(……見えない)
予知は断片すら掴めない。霧のように揺らぎ、形を結ばない。
(どうすれば……)
言葉にできないまま、わずかに遅れる。
その様子に気づいたルナが振り返る。
「シェリー、早く!」
はっとして顔を上げる。
「……うん!」
わずかに遅れて、彼女も駆け出した。
エヴァはその背を確認すると、再びキマイラへと向き直る。
「さて……どこまで持つか」
鎖を引き絞り、踏みとどまる。
三つの戦場で、戦いはなおも均衡を欠いたまま続いていた。
ばらばらのままでは勝てない──その事実だけを共有しながら、彼女たちは動く。
再び揃うために。
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