3-3-16 ラストダンジョン2
夜明けと共に動き出した十人の女王候補たちは、アーゼラの居城へと忍び込むため、それぞれのパーティーに分かれ、異なる経路を進んでいた。
だが、その踏み込みは城の内側に至るよりも早く、闇の女王が張り巡らせた罠に触れることとなる。彼女たちはそこで初めて、自らの見立てを上回る難関が待ち受けていることを思い知らされた。
ミーナ、カリナ、レイラの三人は、火竜アルカンティスに騎乗し、空から中庭への侵入を図っていた。
城を取り囲む闇の瘴気は濃く、風に押し流されることもなく滞留し、まるで侵入者を拒む壁のように広がっている。三人はその中を切り裂くように進みながら、鋭い視線で周囲を警戒していた。
だが、降下に移ろうとした瞬間、空が裂けた。
乾いた雷鳴が轟き、次の刹那、蒼白の閃光が視界を貫く。その光の中から現れたのは、雷の魔法生物──ガルダールであった。
「……あれが、ガルダールか」
カリナが低く呟く。驚愕を押し殺した声だったが、その視線は明らかに対象の規格外を測りかねていた。
城壁に迫るほどの巨体、そして青白い稲妻を帯びた眼光が、まっすぐに三人を射抜いている。
「想像以上ね……それに、速い」
レイラの声もまた、わずかに硬い。
ガルダールは羽ばたきというよりも、雷そのもののように空を駆けた。次の瞬間には間合いを詰め、鋭い電撃を放つ。
ミーナは即座に剣を構えたが、空中での挙動は読みづらく、迎撃の機会は限られている。
──編成を誤ったか。
脳裏をよぎったのは一瞬だった。
遠距離を担うヴァイとエヴァを他に回した判断は、地上戦では理に適っている。だが、この空域では決定的な手数の不足として現れていた。
雷撃がアルカンティスの翼を掠め、衝撃が伝わる。体勢が揺らぎ、風圧が一気に乱れる。
「カリナ、前に出て!」
ミーナの声が鋭く飛ぶ。
カリナは即座に鎧を構え、踏みとどまるように重心を落とした。
「任せろ」
その短い応答とともに、彼女は盾となる位置を取る。
雷光を正面から受け止める覚悟を固めた動きだった。
—-
一方、西門から侵入を試みていたフィー、エレイン、ヴァイの三人もまた、足を止めざるを得なかった。
城門前の地面は、もはや地形と呼べる状態ではない。
闇の魔力を帯びた無数のスライムが、隙間なく広がり、進路を完全に覆い尽くしていた。
「……ただのスライムじゃない」
フィーが双剣を構えたまま、低く言う。
「魔力が濃すぎる」
エレインが一歩踏み出すが、足元が粘液に絡め取られ、踏み込みが鈍る。盾を前に出す動作すら、わずかに遅れる。
ヴァイが矢を放つ。
だが命中した箇所は弾けるように分裂し、かえって数を増した。
「効いてない……それどころか、増えてる」
戸惑いが声に滲む。
切れば分かれ、射れば増える。
単純な攻撃では削ることすらできない。
本来であれば、炎か広域魔法で焼き払うべき相手だ。
だが、この編成にはそれがない。
一瞬の停滞。
それは戦場において致命的な隙になりかねない。
「止まらないで!」
エレインが声を張る。
「連携で押し切るしかない。隙間を作って突破するわ」
その言葉に、フィーとヴァイもすぐに応じる。
状況は厳しいが、立ち止まる理由にはならなかった。
—-
同時刻、東門に向かったセレナ、ルナ、エヴァ、シェリーの四人もまた、別種の障害に直面していた。
門前に佇むのは、複数の異形を継ぎ合わせた魔獣──キマイラ。
獅子の胴、山羊の角、そして尾に宿る蛇が、不規則に蠢いている。
セレナは即座に構えを取る。
だが、その圧力は視線を合わせただけで肌を刺すほどに濃かった。
エヴァが鎖を放ち、本体の動きを拘束しようとする。
幾重にも絡みつく鎖は確かに捉えるが、次の瞬間、尾の蛇が鋭く跳ね、軌道を崩してくる。
「速い……!」
エヴァの声に焦りが混じる。
ルナは腕輪に魔力を巡らせ、防御の層を展開する。
セレナも間合いを測るが、踏み込む余地が見いだせない。
──手数が足りない。
斬撃や刺突で瞬時に崩せる編成ではない。
攻めの決定打を欠いたまま、押し返される形になっていた。
シェリーは一歩退き、鏡を胸元に引き寄せた。
未来を掬い上げようとするが、像は濁り、輪郭を結ばない。
彼女は戦う術は持たない。
それでも、ここで目を逸らすことだけは許されない。
胸の奥に浮かぶのは、いつも先を示していた背中だった。あの位置に立つことが、どれほど重いかを知りながら──
「サーラ……私、どうすれば……」
—-
東門、西門、そして空中。
三つの戦場は、それぞれ異なる形で均衡を崩されていた。
分散という選択は、確かに合理的だったはずだ。
だが今、その前提そのものが静かに揺らぎ始めている。
それでも彼女たちは退かない。
それぞれの持ち場で、闇の女王へと至る道をこじ開けようと、なお踏みとどまっていた。
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