3-3-15 ラストダンジョン1
夜が明けた後、王都の異変に気づいた十人の女王候補たちは、事態の深刻さを改めて受け止めていた。
人の気配を失った街路、音の抜け落ちた空気、そしてその中心に据えられたように沈黙する王宮――すべてが、これから向かう先の性質を雄弁に示している。
彼女たちは言葉少なに視線を交わし、それぞれが覚悟を固めていく。
やがてミーナが低く口を開いた。
「罠があるのは確実だわ」
その一言で場の認識が揃う。視線が自然と彼女に集まった。
「どんな罠かは読めないけど、少なくとも正面から全員で踏み込めばまとめて潰される。そうなれば終わりよ。
……だから、分かれて入る。互いに負担を分散させるしかない」
その判断に、誰も異を唱えなかった。
無謀ではなく、現状で取り得る最も現実的な布陣──そう理解できるだけの根拠があった。
「細かいことはいい」
カリナが肩を鳴らし、短く言い放つ。
「来るなら来い。叩き潰すだけだ」
「焦らないで」
レイラが静かに応じる。
「無駄に受ける必要はないわ」
短いやり取りの中で、方針は揺るがぬものとして固まっていく。
まず、ミーナ、カリナ、レイラの三人は上空からの侵入を担うことになった。
火竜アルカンティスの機動力を活かし、高空から王宮中庭へ一気に降下、敵の視線と圧力を引き受ける役割である。
「アルカンティス、派手に頼むわよ」
ミーナの呼びかけに応じ、火竜は低く喉を鳴らして応じた。
深紅の鱗が朝の光を受けて鋭く輝き、その巨躯がゆっくりと翼を広げる。
カリナはその背で《金牛の鎧》を確かめ、短く言い切る。
「中庭は私が受ける。前衛は任せろ」
無駄のない言葉だったが、その分だけ確かな重みがあった。
レイラも《宝瓶の壺》を抱え直し、静かに応じる。
「空からの制圧は引き受けるわ。隙は作らせない」
三者の役割は明確に分かれ、同時に一つの動きとして収束している。
準備を終えた彼女たちはアルカンティスに乗り込み、風を切って上空へと舞い上がった。
一方で、フィー、エレイン、ヴァイの三人は西門からの侵入を選ぶ。
王宮外縁の中でも防備が薄く、地形的にも遮蔽物が多い経路である。
フィーは《双児の双剣》の刃を確かめ、軽く息を吐いた。
「……素早く移動するよ。長居はしない」
その声音は低く、だが迷いがない。
彼女を先頭に、エレインが一歩遅れて続く。
《白羊の盾》を構えた彼女は周囲を見渡しながら、静かに告げる。
「反応は薄い……けれど、見えていないだけの可能性が高い。油断はしないで」
その慎重さは、単なる警戒ではなく“見えないものを前提に組み立てる”思考の現れだった。
後方に位置取ったヴァイは《天蠍の弓》を握り、気配を研ぎ澄ませる。
「風の流れが淀んでいる……ここも、完全な死角ではない」
森の守り手として培った感覚が、目に見えぬ異常を捉えていた。
三人は言葉を最小限に抑えたまま、静かに門へと近づいていく。
さらに、セレナ、ルナ、エヴァ、そしてシェリーの四人は東門からの侵入を選択した。
老朽化した構造を持つこの門は、一見して隙が多いが、その分だけ不測の事態への対処がしやすい。
セレナは拳を軽く握り、《磨羯の籠手》に力を溜める。
「ここなら流れを見て動ける。無理はしないで合わせるわよ」
状況に応じて戦線を調整する意図が、その言葉に滲む。
ルナは《巨蟹の腕輪》に魔力を通し、短く応じた。
「崩れたら支える。前だけ見ておけ」
簡潔だが、役割は明確だった。
エヴァも《天秤の鎖》を指先で確かめながら頷く。
「動きを止める。無理に踏み込まないで、隙を待って」
彼女の言葉には、戦闘だけでなく“流れを読む”意識があった。
最後に、シェリーが《双魚の鏡》に視線を落とす。
結界の影響で未来は濁っている。それでも、完全に閉ざされているわけではない。
わずかに揺らぐ像の中から、進むべき方向を拾い上げるように目を細めた。
「……細いけど、道はあるわ。見失わないように行きましょう」
その言葉に、三人が静かに頷く。
こうして三つの隊は、それぞれ異なる経路と役割を携え、同時に王宮へと侵入を開始した。
それが、確かに選び得た最善の布陣であると信じたまま。
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