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3-3-7 狂信者たちの行進

暗く冷えた帝国城の通路を、ナディアが足早に歩いていた。

その顔には確固たる使命感と、燃えるような意志が宿っている。


彼女の瞳は真っ直ぐに前を見据え、揺るぎない信念に突き動かされているのが明らかだった。

まるで、目に見えない何かに導かれるかのように、その歩みには一切の迷いがない。


彼女の後ろには、同じように鋭い視線と使命感に満ちた表情の帝国兵たちが次々と集まり、静かな行進のように彼女に続いていく。

重い軍靴の音だけが、冷たい石造りの廊下に規則正しく響いていた。


彼らの表情には冷たさや虚ろさはない。

むしろ、そこにあるのは熱狂的な忠誠と覚悟だった。


自らの命を賭してでも、今この場で果たさねばならない大義がある。

そう信じて疑わない者の目は、どこか凶暴な輝きを宿している。


全員が無言だった。

だが、歩調は寸分の狂いもなく揃っており、言葉など必要ないかのような異様な一体感が彼らを包んでいた。


その姿は、まるで一つの意思に導かれた狂信的な集団のようにも見えた。


やがてナディアたちが大広間に踏み込んだ瞬間、

目の前には総司令ヴォルフガング・アイゼンバルトが待ち構えていた。


帝国軍の猛将として知られる男である。

常に冷静沈着で、数々の戦場を乗り越えてきた歴戦の将だった。


その彼が、目の前に現れたナディアの様子にわずかに眉をひそめる。

いつも任務を淡々と遂行する彼女とは、どこか決定的に違って見えたからだ。


鋭い目が、彼女を射抜くように見据える。


「ナディア、お前……正気でこんなことをしているのか?」


信じられないものを見るように問いかける。

しかしナディアの瞳に宿っているのは、確固たる意志と使命感だけだった。


そこには迷いも、恐れもない。

まるで自身の信じるべき大義を全身で背負っているかのように、彼女は凛とした態度で答える。


「総司令。戦争は終わらせなければなりません。

これは帝国のため、そして国民のために必要なことです」


その言葉に、ヴォルフガングは困惑した。


目の前にいるのは、確かにかつて共に戦ってきたナディアだ。

だが、その口から出てくる言葉は、彼の知っている彼女のものではなかった。


ヴォルフガングは、ナディアの後ろに控える兵士たちへと視線を移す。


全員がナディアと同じように、使命感に満ちた狂信的な表情を浮かべている。

その瞳は異様なほど強い光を帯びており、まるで一つの意思に支配されているかのようだった。


その光景に寒気を覚えながらも、彼はなお訴えかける。


「ナディア、クーデターでもするつもりか!

目を覚ませ!」


しかし、ナディアは微動だにしなかった。


その表情はむしろ落ち着き払っており、

冷静に、だが確固たる意志を持って言い放つ。


「総司令。これが私の意志です。

帝国の未来のために、私にはやるべきことがあるのです」


その言葉を聞いたヴォルフガングは、思わず唇を噛みしめた。


彼女の目に見えるのは、確かに狂信的な輝きだった。

だが、それが本当に彼女自身の意志なのか。

それとも、誰かに植え付けられたものなのか。


もはや彼には判断がつかなかった。


その時、背後から静かな声が響いた。


「総司令。彼女はもう戻らない」


帝国の賢者ロキスヴェインだった。

彼は静かにナディアを観察しながら、感情の読めない声で言う。


ヴォルフガングは振り返り、ロキスヴェインを睨む。


「どういうことだ?」


ロキスヴェインは一歩だけ前に出た。


「闇の女王による精神支配だ。

彼女の意志は、すでにアーゼラの強い魔力によって狂信的な忠誠へと書き換えられている」


淡々とした口調だった。


彼はすでに答えに辿り着いていた。

だが、それはあまりにも遅すぎた。


「彼女が信じている使命が本物に見えたとしても、その源は彼女自身のものではない」


ヴォルフガングはその言葉を聞き、胸の奥に重い澱が沈むのを感じた。


絶望と、どうすることもできない無力感が、静かに心の底へ広がっていく。


しかしその時、ルキウス帝が静かに手を挙げた。


兵士たちの動きが一瞬で止まる。


威圧するような仕草ではない。

それでも、その威厳ある所作ひとつで場の空気が完全に支配された。


広間が、一瞬にして静寂に包まれる。


「もう良い、ヴォルフガング。

無駄な説得はやめよ」


ルキウス帝のその言葉に、ヴォルフガングはゆっくりと目を伏せた。


目の前に立っているのは、かつて共に戦い、

今もなお信頼している部下──ナディアである。


その彼女が、こうして目の前で狂信者となっている。


その事実が胸を締めつけた。


だが、それでも。

皇帝の命に背くことはできなかった。


ヴォルフガングはゆっくりと剣を抜いた。

金属音が静かな広間に乾いた余韻を残す。


それは敵へ向けたものではない。

自らの部下へと向けられた、あまりにも重い刃だった。


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