3-1-6 世界征服宣言
こうして、最強にして最悪の女王は生まれた。
それから幾千年──
神々の時代が終わり、幾つもの王朝、幾世代もの命が入れ替わったのち。
物語の舞台は、再びサーラたちの時代へと戻る。
闇の女王アーゼラの復活は、北のグリムロス帝国が仕掛けた禁忌の飛翔兵器がきっかけだった。
それは本来、使うことすら忌避される、大地を汚染し尽くすための兵器だった。
彼らは王国の聖地にそれを撃ち込み、圧倒的な威力を見せつけることで、王国を屈服させようと目論んだのだ。
それは示威ではなく、宣告に近い。
王国の女王候補であるサーラたちは、全力で阻止を試みた。
だが──
帝国魔法最高顧問、冷徹な策士ロキスヴェインの知略の前に敗北する。
サーラたちの必死の迎撃も虚しく、フレヤレイドは聖地に着弾した。
帝国の目論見が成功したかに見えた、まさにその直後。
放たれた膨大な魔力が、眠りの底にあったアーゼラを揺り動かす。
汚染魔法によって本来の魔法均衡が崩れた瞬間、彼女を封じていた古代の結界は軋み、砕けた。
そして、闇の女王は再び顕現する。
ミーナは上空を飛ぶ火竜アルカンティスの背で、その一部始終を見ていた。
さらには、奇跡とも悪夢ともつかない光景を目にすることになる。
「まさか……何が起きてるの?」
彼女の眼下で、汚れきっていた聖地が一瞬にして本来の姿を取り戻していく。
腐敗した土壌から新緑が芽吹き、淀んだ川は透き通る清流へと変わる。
ひび割れていた大地は潤いを帯び、濁っていた空気は澄みわたり、光を反射した。
フレヤレイドの恐るべき汚染魔法。
だが、それもアーゼラの力の前では無力だった。
「嘘……本当に現実なの?」
死の土地と化したはずの場所が、まるで最初から穢れなどなかったかのように再生していく。
風はやわらかく、命の気配が満ちていく。
ミーナはそれを、肌で、呼吸で、全身で感じ取った。
だがその再生は、あまりにも早く、あまりにも完全すぎた。
「悪い夢……いや、良い夢?」
アルカンティスの首筋に手を伸ばす。
だが、拭えない。
これは祝福ではない──
何か恐ろしいものが目を覚ましたのだという確信が、静かに広がっていく。
そのとき、不意に声が響いた。
音ではない。空気を震わせてもいない。
直接、脳裏へ。
『我が名はアーゼラ。闇の女王である』
その声には怒りも高揚もなかった。
ただ、悠久の時を越えた者だけが持つ、摩耗した静けさがあった。
『私の王国を、地の果てまで広げる』
彼女の言葉は、一瞬の遅れもなく、あらゆる場所へ届いた。
距離も時間も意味を持たない。
遠く離れた村でも、眠っていた者が同時に目を覚ました。
宣言は命令のように、ただ事実として、人々の心に刻まれる。
『まずは、野蛮な魔法で汚染をもたらした、北の国を滅ぼす』
その瞬間、帝国全土に凍りついたような沈黙が落ちた。逃れられぬ裁きが、すでに始まっていると悟ったからだ。
『そして──この世に蔓延る魔法使いを根絶する。』
ミーナの心臓が跳ね上がる。
一瞬だけ、救われたのだと思ってしまった。
冷たい汗が背を伝う。
「……やっぱり、悪夢だったみたい」
アルカンティスに合図を送り、彼女は空を翻した。
サーラたちに伝えなければならない。
今すぐにでも。
最悪の女王が、再びこの時代に降り立ったのだから。
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