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3-2-27 つながる物語

アーゼラは、再び転生を目指すためにレガシー魔法を徹底的に研究し続けていた。

失われた魔法体系を一つずつ解析し、断片的な理論を繋ぎ合わせながら、自らの手でそれらを再構築していく。そして彼女は、古代の魔法を現代の理論体系へと落とし込む形で独自のモダン化を進めていた。


彼女の仮説は明確だった。

もし転生直後の時点にまで因果を遡り、両親の記憶を改変して自分の存在を自然な形で捏造することができれば、歪んでしまった転生のループは再び正常に作動するはず──というものである。


それは常識外れの理論であり、本来ならば国家規模の研究機関でも扱うことができないほど危険な実験だった。


当然ながら、その実現には膨大な資金と、最高水準の魔法知識を持つ研究者たちの協力が必要となる。だがアーゼラにとって、その程度の条件は問題ではなかった。


彼女はすでに、その地位を一度は手に入れていたからである。


手帳や記録、さらには周囲の人々の記憶に至るまでを静かに書き換え、気付かれぬうちに王国の歴史そのものを修正することで、彼女は再び女王として即位していたのだった。


「準備は整ったわね?」


アーゼラは実験の最終確認を終え、王宮の一角を改造して作られた巨大な魔法陣の前に立った。

床一面に刻まれた幾重もの魔法式は複雑に絡み合い、まるで都市の地図のような幾何学模様を描いている。


周囲には、彼女自身が選び抜いた信頼できる魔法研究員たちが待機していた。

彼らは緊張した面持ちで装置の調整を続け、万が一に備えて魔力の流れを慎重に監視している。


王宮の地下空間には、静かな張り詰めた空気が満ちていた。


しかしアーゼラ自身は、その緊張の中心に立ちながらも、内心ではほとんど勝利を確信していた。


術式はすでに数百回の小規模検証を終えている。魔力の流れ、因果の接続、転生点の固定。

すべての計算は誤差の範囲に収まり、理論上の失敗確率はほぼゼロだった。


そして、これまで何度も世界の因果を越えてきた彼女にとって、この程度の問題は乗り越えられないものではないと信じていたのである。


「女王様、魔法エネルギーの充填が完了しました」


研究員の一人が声を上げる。


「ありがとう。では……始めましょう」


その言葉と同時に、魔法陣がゆっくりと淡い光を放ち始めた。

床に刻まれた魔法式の一つ一つが順番に輝き、やがてそれらは連鎖するように光を繋いでいく。


光は次第に強さを増し、空間そのものが震えるように脈動を始めた。


アーゼラは目を細め、意識を集中させる。

体内の魔力を静かに解放し、巨大な魔法陣の中枢へと流し込んでいく。


やがて光は限界まで強まり、彼女の身体がゆっくりと地面から浮かび上がった。


そしてその瞬間、アーゼラは確信する。

ついに再び転生し、自分の望む通りの人生をやり直す時が訪れたのだと。


──そのはずだった。


魔法陣の外縁に刻まれた術式の一つが、ほんの一瞬だけ不規則な輝きを見せた。


それは計測水晶の数値にも現れないほど、微細な揺らぎだった。


研究員の一人が小さく呟く。


「……理論通りだ」


その時点では、誰一人として異常を疑ってはいなかった。


突如として、魔法陣の中央に不自然な揺らぎが走った。


「……何かがおかしい……」


アーゼラが低く呟いた瞬間、周囲の研究員たちが慌てて制御術式を展開する。

だが、何もかもが遅かった。


魔法陣の中心がゆっくりと黒く歪み始める。

まるで空間そのものが裂けたかのように、そこに暗い穴が生まれていった。


その奥から、異様な力が溢れ出す。


それは吸い込むような力だった。

アーゼラの身体を、容赦なく中心へと引きずり込もうとしていたのである。


彼女は咄嗟に魔力を解放し、必死に抵抗した。

しかし、その力は彼女の魔法すら無効化するほど強大で、抗いがたいものだった。


「誰か……妨害している……?どうして……!」


「女王様、危険です!離れてください!」


研究員たちの叫び声が響く。

しかしアーゼラの身体は、すでに異常な引力に捕らえられていた。


視界が歪む。

空間がねじれ、世界の輪郭が崩れていく。


次の瞬間、彼女の目の前に広がったのは、見たことのない暗い空間だった。


周囲の声は急速に遠ざかり、やがて完全な静寂へと沈んでいく。


アーゼラは、しばらく何が起きたのか理解できなかった。

無限に広がる虚無の中で、まるで何かに閉じ込められたかのように身動きが取れない。


「嘘でしょ……?これが私の結末だなんて、認めない!」


再び転生し、自分の望んだ形で人生をやり直すはずだった。

それなのに、目の前に広がるのは終わりの見えない暗闇だけだった。


胸の奥に、言い知れぬ不安と恐怖が静かに広がっていく。


それでもアーゼラは諦めなかった。


彼女はゆっくりと目を閉じ、自分の知識と魔力を総動員して、この異空間から脱出する方法を必死に模索し始める。


「必ず戻ってやる……」


低く呟いた声は、虚無の中に吸い込まれていった。


「誰かが私を邪魔したなら……そいつを必ず引きずり出してやる……!」


この異空間の中で、どれほどの時間が経ったのか、アーゼラには分からなかった。


だが、彼女の中にある強烈な意志と執念だけは消えることがなかった。

それは、果てしない虚無の中でただ一つ灯り続ける微かな光のように、静かに輝き続けていたのである。


そして、幸か不幸か。


アーゼラは、結局のところ転生そのものには成功することになる。


そして、その先で彼女がどのような存在へ変わるのか──


顛末についてはすでに語られている。

ゆえに、ここではあえて詳しく触れないことにしよう。


物語は再び、サーラたちのいる時代へ戻る。

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