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3-2-26 女王の正体3

女王としての道を断念し、何度も繰り返した転生によるやり直しの果てに心が荒んでしまったアーゼラは、親しい人すら遠ざけてしまい、自らの進むべき道を見失っていた。


度重なる転生によって得た知識と経験は本来ならば彼女を導くはずのものだったが、いつしかそれらは重たい記憶として積み重なり、彼女の心を静かに蝕んでいたのである。


彼女はその孤独から逃れるため、そして再び新たな目標を見出すために、以前から着手していた「レガシー魔法」の研究に改めて没頭することを決意した。


レガシー魔法とは、かつて存在した強大な魔法技術の遺産とされるものだが、既にその体系は完全に失われており、断片的な記録だけが残された未知の領域だった。


古代文明が残したとされる魔法の痕跡は多くの研究者を魅了してきたが、同時にその全貌はほとんど解明されていない謎でもあった。


そのためアーゼラは、古い文献や断片的な伝承を丹念に調べながら試行錯誤を繰り返し、ほとんど手探りに近い状態で研究を進める日々を送ることになる。


研究は困難を極めた。


膨大な時間と労力を費やしても成果が見えず、長い停滞が続くことも珍しくない。わずかな仮説を立てては失敗し、また最初から理論を組み立て直す作業の繰り返しだった。


転生によるやり直しを何度も経験してきた彼女にとってさえ、レガシー魔法の解明は予想以上に厳しく、苛立ちと焦燥感が徐々に募っていく。


孤独な研究生活が長く続く中で、彼女の心は少しずつ摩耗していった。


そんなある日、ふとした瞬間に、アーゼラは両親のことを思い出した。


アーゼラにとって両親とは、本来「直接の親」というよりも、ただ人生の環境の一部に過ぎない存在のはずだった。

転生を繰り返してきた彼女にとって、家族というものはいつしか曖昧で仮初めの関係になっていたからである。


しかし、彼らと過ごした長い時間や、幼い頃から支えてくれた温かな言葉の数々が、ふいに脳裏をよぎる。


その記憶を辿るうちに、アーゼラは初めて気づいた。

自分の中に、彼らへの情が静かに芽生えていたことに。


怒りに任せて両親の記憶を消してしまった過去の自分を悔い、少しでもかつての関係を取り戻したいという思いが胸に湧き上がる。


そして彼女は、久しぶりに実家を訪ねてみることを決めた。


だが、家の扉を叩いても、記憶を消された両親は彼女に対して冷淡な態度を取った。


彼らにとってアーゼラはただの「見知らぬ人間」であり、かつてそこに存在していたはずの温もりや愛情の痕跡は、どこにも残されていなかった。


二人の冷ややかな視線と言葉を受けながら、アーゼラはその場に立ち尽くす。


そしてようやく理解した。

魔法によって消してしまった記憶は、魔法的なバックアップでも存在しない限り、二度と元には戻らないのだということを。


どれほど転生を繰り返そうとも、彼女が消してしまった両親の記憶が元に戻ることはない。


それは、彼女自身が取り返しのつかない行為をしてしまったという、何より残酷な事実だった。


悔しさと虚しさに苛まれながら、アーゼラはその場を立ち去った。


そして思わず、無限転生の力を再び使おうとする。


何度でもやり直せるのなら、あの瞬間に戻ればいい。

両親の記憶を消してしまう前の時点へと戻れば、すべてはまだ取り返せるはずだった。


そう思い、彼女は転生によるリセットを試みた。


しかしその瞬間、耳の奥に人工的なノイズのような異音が突然響き渡った。


そして、不気味なほど無機質な声が、まるで脳内に直接流し込まれるかのように告げる。


『エラーです。転生先情報のアクセス違反です。デッドロック状態を解除してから再試行して下さい』


アーゼラは何が起きているのか理解できなかった。


これまで何度転生しても、魔法がエラーを吐いたことなど一度もなかったからだ。


眉間にしわを寄せながら、彼女は再び魔力を込めて転生を試みる。

だが、同じ声が繰り返されるだけだった。


『エラーです。デッドロック状態です』


その声は、まるでこの世界の仕組みそのものが拒絶しているようだった。


焦りの混じった苛立ちが、じわじわと胸の奥から湧き上がってくる。


何度も再試行を繰り返すが、結果は変わらない。


ふと、転生先であるはずの両親がアーゼラを覚えていないことが脳裏をよぎる。


その瞬間、彼女は気づいた。

因果の操作そのものが、どこかで歪んでしまっているのだと。


これまでなら一度の転生で、世界の記憶さえ都合よく塗り替えられていた。

だが今は、その結びつきがどこかで絡まり、正常に機能していない。


「……デッドロックって……何だよ!」


ついに怒りが爆発し、アーゼラは叫んだ。


これまでの自信に満ちた態度は崩れ去り、唇を噛みしめながら、視界がぼやけるほどの悔しさに震える。


両親が自分を覚えていない。

そして、かつて絶対だと信じていた力が、今や自分の手からすり抜けている。


この世界で、もう自分は望んだ通りにやり直すことができないのではないか──。


そんな疑念が、胸の奥を強く締め付けた。


それでもアーゼラは諦めなかった。


エラーの原因を突き止めるため、さらに魔力を増幅させ、限界を超えるほどの術式を試みる。


だが、ことごとく失敗するたびに、彼女は少しずつ絶望へと追い詰められていく。


アーゼラは初めて、自分の中に芽生え始めた後悔の念や、両親に対する償いの想いと向き合わなければならないことを痛感した。


無限のやり直しを当たり前のものとしてきた彼女にとって、この「やり直せない」という現実は容赦なく重くのしかかり、心に深い影を落としていったのである。


やり直しが利かない今、アーゼラは新たな道を見つけなければならなかった。


彼女は再びレガシー魔法の研究に立ち戻り、その未知の領域に自らの運命を賭けることを決意する。


もはや失敗を帳消しにすることはできない。


それでも、すべてを失ってしまった両親との絆や、取り返しのつかない過去の過ちに報いるための答えを見つけ出すために──

彼女は再び、一歩ずつ前へ進み始めたのだった。


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