3-2-25 女王の正体2
アーゼラが学年トップとして魔法学校を卒業した後も、彼女の探求心が衰えることはなかった。
結果に満足することなく、今度は学問の枠を越え、さらに高度な分野へと踏み出そうと決意を固める。
これまで幾度も人生をやり直してきた彼女にとって、未知の課題に挑むことこそが何よりの喜びだった。
そのため彼女は、自らが持つ「無限にやり直せる力」を存分に活用し、王国歴2000年問題という難題にも果敢に取り組んだ。
多くの学者たちが頭を抱え、長年解決の糸口すら見つけられずにいたその問題を、アーゼラは特異な知識と鋭い論理的思考によって解析していく。
複雑に絡み合っていた理論の矛盾を一つ一つ丁寧に解きほぐし、わずかな期間のうちに見事な解決へと導いたのである。
その報せは瞬く間に学術界を駆け巡り、若き天才の名は一躍人々の知るところとなった。
さらに彼女は、エーテル通信と呼ばれる新たな通信手段を発明する。
魔力を媒介として遠距離でも情報を伝達できるその技術は、王国の社会構造そのものを変える可能性を秘めていた。
やがて、アーゼラはその才能と業績を高く評価され、王族や有力貴族たちから次期女王として推薦されるに至った。
それは王国でも前例のないほど異例の抜擢だった。
その知らせを受けたアーゼラの胸に、静かな高揚が広がっていく。自分の能力がついに王国の最高位にまで認められたことに深い満足を覚えた。これまで積み重ねてきた努力と成果が、ようやく報われた瞬間だった。
人々から賞賛され、尊敬の眼差しを向けられるたび、アーゼラの自信はますます揺るぎないものとなっていった。
やがて彼女自身も、自らの能力に対して絶対的な信頼を抱くようになっていく。
だが、王国の女王としての責務が始まると、彼女はすぐに一つの現実に直面することになった。
国家運営とは、単なる知識や理論の積み重ねだけで解決できるものではない。
そこには複雑に絡み合う人間関係、利害、伝統、そして政治の駆け引きが存在していた。
どれほど正しい理論を提示しても、それだけでは物事は動かない。
むしろ理屈の正しさが、時として人々の反発を招くことさえあった。
多くの官僚や政治家たちは彼女の若さを不安視し、反対勢力は彼女の政策や意図をことごとく封じ込めようと画策した。
議会では議論が空転し、理想として描いていた改革は次々と停滞していく。
彼女を尊敬する眼差しはいつの間にか消え、代わりに向けられるのは疑いと批判ばかりだった。
アーゼラは次第に、女王という地位に対して抱いていた期待が、少しずつ色褪せていくのを感じ始めた。
「こんなはずじゃなかった……」
誰にも聞こえないほど小さな声で、彼女はそう呟いた。
彼女は次第に失望に打ちひしがれ、女王としての職務に喜びや充実感を見出せなくなっていく。
自分が目指していた理想とはかけ離れた現実に苛立ちを覚え、何かを成し遂げたという達成感も次第に薄れていった。
けれども、彼女には一つの逃げ道があった。
「無限に転生できる」という能力である。
今度もまたやり直せばいい。
そうすれば、きっと違う結果が待っているはずだ。
そう自分を鼓舞しながら、アーゼラはついに女王の座を放棄し、再び人生を最初からやり直す決断を下した。
ところが、これまで何度もやり直してきた彼女にとって、再び最初から人生を繰り返すという行為は、以前ほど魅力的なものではなくなっていた。
一度はこの世界で頂点を極めたからこそ、同じ過程をなぞることがどこか単調に感じられ、新たな挑戦にも以前のような胸の高鳴りを覚えなくなっていたのである。
これまでのやり直しで得た膨大な知識と経験は、今や彼女にとって重い荷物のように積み重なり、かつてのような純粋な好奇心や新鮮な意欲を少しずつ奪っていった。
王国歴2000年問題やエーテル通信の研究に再び取り組む日々も、もはや刺激を感じることはなかった。
むしろ既に答えを知っている課題をなぞるだけの作業のように思え、彼女は次第にそれらの研究を中途半端に放り出してしまうようになる。
何もかもがむなしく感じられる中で、アーゼラの心には苛立ちと焦燥だけが静かに積み重なっていった。
そんなある日、家で苛立ちを抱えたまま時間を過ごしていたアーゼラのもとへ、何も知らない両親が近づいてきた。
彼女の最近の怠惰な生活態度を心配していた両親は、優しい口調でそっと注意を促そうとする。
「最近、ずっと家にいるでしょう。少しは外に出ないと、体を壊すわよ」
けれどその言葉は、今の彼女にはまるで自分の努力を否定する小言のようにしか聞こえなかった。
自分がどれほどの成果を積み上げ、どれほどの時間を費やしてきたのか。
それを何一つ知らないまま、ただ諭すように語りかけてくる両親の言葉に、アーゼラの心の中で何かが音を立てて崩れた。
「もういい加減にして!」
彼女は怒りに任せ、無意識のうちに魔法の力を行使してしまった。
次の瞬間、家の中は静まり返っていた。
気がついた時には、両親の記憶から自分の存在が完全に消えていたのである。
ただぼんやりと立ち尽くすアーゼラ。
両親の目には、彼女はまるで見知らぬ人間のように映っていた。
戸惑いと恐れを浮かべながら、二人はゆっくりと彼女から距離を取っていく。
アーゼラはその時、初めて理解した。
自分がどれほど恐ろしい力を、無意識のうちに振るってしまったのかということを。
そして、その力がもたらす重さに、初めて心が押しつぶされるような恐怖を覚えたのだった。
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