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3-2-22 女王の秘密6

アリアは王宮の重々しい静けさに包まれながら、これまで厳重に口止めされていた秘密をアリスティアに打ち明けた。

その場の空気さえ張り詰めたものに変わったように感じられる。


表情を引き締め、内に秘めていた葛藤をにじませながら、彼女はゆっくりと語り始めた。


「アーゼラ女王は……レガシー魔法のモダン化を計画していたんです。古代の技術を現代に応用するための研究を進めていて、いよいよ最終段階に入っていました。けれど、魔法陣を完成させたそのとき、謎の邪魔が入ったようだったんです……」


アリアは言葉を慎重に選びながら、記憶を辿るように続ける。

その顔はわずかに青ざめ、当時の光景を思い起こすにつれて声もかすかに緊張を帯びていった。


「誰かが魔法陣に干渉したのか、突然、無数の手のようなものが現れて……アーゼラ様は、まるで魔法陣に引きずり込まれるようにして……」


そこまで言って、アリアは言葉を詰まらせた。

その異様な光景を思い出すだけで、胸の奥が冷たくなる。


アリスティアは真剣な表情でその話を聞き入っていたが、やがて眉間にわずかな皺を寄せて腕を組み、静かに思案に耽った。

沈黙が流れる。


王宮の広い部屋に、二人の呼吸だけが微かに響いていた。

アリアはその様子を見守りながら、胸の鼓動が次第に早まっていくのを抑えきれなかった。


しばらくして、アリスティアがゆっくりと口を開いた。


「禁忌魔法という言葉を、聞いたことはあるかしら?」


「禁忌魔法……?」


アリアは驚きと戸惑いが入り混じった表情で聞き返す。


「ええ。レガシー魔法の中でも特に強大で、恐ろしい影響を及ぼすものがそう呼ばれているの。主に因果律を操る魔法よ。言い換えれば、この世の運命そのものに干渉できる力」


アリスティアは慎重に言葉を選びながら、ゆっくりと説明を続けた。


「例えば、死者を蘇らせる魔法。時間を逆行させる魔法。そして、異なる空間を自在に行き来する魔法。そういった、人間の理から逸脱した力のすべてが、禁忌魔法に含まれているわ」


その説明を聞きながら、アリアは思わず息を呑んだ。

そして次に続く言葉を、固唾をのんで待っていた。


アリスティアはアリアの表情を一度だけ見つめ、やがて声の調子をさらに落として続けた。


「そして……その中には、ある人間が『生まれてこなかった』ことにできる魔法もあるの」


「生まれてこなかった……?」


アリアは思わず呟いた。

その言葉の意味するところは、あまりにも重く、そしてどこか底知れぬ不気味さを孕んでいる。


人の存在そのものを消し去る。

過去から、記憶から、歴史から――まるで最初から存在しなかったかのように。


それは想像を超えた禁忌の力だった。


アリスティアは小さく頷きながら説明を続ける。


「禁忌魔法の多くは、神話の時代に神々が使っていたと伝えられているものよ。普通の人間には到底扱えない代物。その力は時代と共に忘れ去られ、今ではほとんど伝承の中でしか語られていない」


彼女はそこで一度言葉を切り、静かに息を吐いた。


「でも、もしアーゼラがそれに触れていたとしたら……」


アリアは言葉を失った。

胸の奥で、これまで断片だった疑念がゆっくりと一つに繋がり始めている。


その横で、アリスティアはふと目を伏せ、視線を手元へと落とした。

そして次の瞬間、アリアが持ってきた黒い手帳を静かに受け取ると、慎重な手つきでそれを開いた。


すると、手帳のページがふいに動き始めた。


まるで見えない風にあおられたかのように、ページが一枚、また一枚とゆっくりめくられていく。

しかしその動きは無秩序ではなく、どこか意味のある順番で導かれているようにも見えた。


アリアは息を詰め、その様子を凝視していた。


ページは静かに進み、やがてある箇所でぴたりと止まる。

まるで、この瞬間を待っていたかのように。


アリスティアの表情が次第に緊張を帯びていく。

その瞳の奥には、これまで見せたことのないわずかな恐怖が宿っていた。


彼女は小さく息を吐き、その感情を押し殺すようにして、静かに口を開く。


「もしこの手帳が、真実に辿り着いた者への答えを持ち合わせているのなら……」


一拍の沈黙。


「暗号解除のキーワードは──『無限転生』だわ」


その言葉が発せられた瞬間、黒い手帳はまばゆい光を放ち始めた。


ページの上に刻まれていた無数の文字が淡く浮かび上がり、まるで眠りから覚めたかのようにゆっくりと動き出す。


細かな符号や記号の一つ一つが光の粒となってページから離れ、空中へと静かに舞い上がった。

それらは互いに引き寄せられるように絡み合い、円を描きながら複雑な魔法陣を形作っていく。


古い暗号の断片が、魔法の紋様へと変わりながら再配置されていく。

数式のように並んでいた文字列は、やがて星座のような軌跡を描き、幾重もの輪を重ねた光の構造へと組み替えられていった。


突然の輝きに、アリアとアリスティアは思わず目を細める。

しかし二人とも視線を逸らすことはなかった。


光の中で、最後の文字が静かに回転しながら中央へと落ちていく。

それが魔法陣の中心に触れた瞬間、空中に描かれていた光の構造が一つに収束し、手帳のページへと吸い込まれるように戻っていった。


静寂が訪れる。


そして次の瞬間、ページの奥から淡い光が静かに滲み出し始めた。

まるで、手帳そのものが長い沈黙を終えて息を吹き返したかのように。


「……暗号が……解かれた?」


アリアが息を呑む。


ページの上に広がった光は、ゆっくりと溢れ出すようにして室内へと広がっていく。

その淡い輝きの中に、やがてぼんやりとした風景が浮かび上がる。


それはきっと──

アーゼラが遺した真実へと至る、最後の扉だった。


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