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3-2-21 女王の秘密5

カフェでの出会いから数日後、アリアとアリスティアはアーゼラの過去を辿るために出発した。

まず向かったのは、アーゼラが幼少期を過ごした生家だった。


「私のことはアリスと呼んで」


そう微笑んだアリスティアは、まるで旧友の家を訪ねたかのような気安さで室内を歩き始める。だがその視線は鋭く、家具や壁、窓辺に至るまで隅々に目を配りながら、何か見えない痕跡を探るようにゆっくりと進んでいった。

彼女の探る目は、まるでこの場所に眠る秘密を一つずつ掘り起こそうとしているかのようだった。


「ここで彼女の記憶を呼び覚ましてみるわ」


アリスティアは落ち着いた声でそう言うと、微細な動作で空中に魔法陣を描いた。

それは場所に宿る記憶を幻影として映し出すレガシー魔法だった。


部屋全体が淡い光に包まれ、空気が静かに震える。

やがてその場に、小さなアーゼラと彼女の両親の姿が浮かび上がった。


少女のアーゼラは微笑みながら母の手を握り、父へ向けて無邪気な眼差しを送っている。

温かな家庭の一場面だった。


しかし、アリアはその光景にかすかな違和感を覚えた。

映し出された情景はどこか断片的で、まるで記憶の一部だけを切り取ったかのように感じられる。

それは、アーゼラの幼少期を知る人々が語っていた記憶とも、微妙に噛み合わない気がした。


「微弱とはいえ、ここにはアーゼラ様の記憶が確かに残っています。でも、なぜ彼女の両親についての話が一貫していないのでしょう……?」


アリアが口にすると、アリスティアは鋭い目を細めて小さく頷いた。


「どうやら、人間の記憶に手が加えられているようね。場所に刻まれた記憶は基本的に改ざんできないけれど、人の記憶や記録は別。誰かが意図的に操作した可能性が高いわ」


次に二人が向かったのは、アーゼラが若かりし頃に滞在したとされる離宮だった。

豪華でありながら、どこか人の気配が薄い静けさが漂っている。


その敷地に足を踏み入れると、アリアは無意識に呼吸を整え、何か感じ取れるものはないかと意識を研ぎ澄ませた。


アリスティアは慎重に手を動かし、再び幻影を映し出す魔法を発動する。

淡い光が空間に広がり、アーゼラがここに滞在していた頃の光景が浮かび上がる──はずだった。


しかし、何も映し出されない。


静まり返った空間には、ただ光だけが虚しく漂っていた。

まるでこの場所には、彼女が存在した痕跡そのものが最初からなかったかのようだった。


「本当にここで過ごしていたのでしょうか?」


アリアが疑問を口にすると、アリスティアも冷静な声で答えた。


「彼女がここで過ごしたという話自体が偽りか、あるいは誰かが人々の記憶を操作してしまったのかもしれないわ」


最後に二人が訪れたのは、アーゼラが魔法学校時代を過ごした校舎の広場だった。

広場の中心には巨大な大時計がそびえており、それはアーゼラが修復に関わったと伝えられているものだった。


だが、大時計の前でアリスが幻影魔法を使っても、やはりアーゼラの痕跡は浮かび上がらなかった。


「この時計を修復しようとしたという話も、事実ではない可能性があるわね」


アリスティアが分析するように言った。


しかしその言葉を聞いた瞬間、アリアは小さく眉をひそめた。


「いいえ……それはおかしいです。修復作業の記録は確かに残っていました。途中まで進めていたという報告書も、学校の保管庫で確認しています」


静かな広場に、二人の声だけが落ちる。


「それなのに、ここに彼女の記憶が残っていないなんて……」


アリアはそこで言葉を切り、何かに思い至ったように表情を曇らせた。


「誰かが、彼女の痕跡そのものを覆い隠そうとしている」


やがてそう呟くと、ゆっくりと視線を落とす。


「これまでの記録や証言はすべて……誰かによって改ざんされたものかもしれません」


そして二人は最後に、王宮にある女王の居室へと辿り着いた。

ここは、アーゼラが女王として多くの時間を過ごし、数々の重要な決断を下してきた場所である。


アリアは緊張しながら呟く。


「ここには、きっと彼女の記憶が強く残っているはずです」


アリスティアは静かに頷き、慣れた手つきで幻影魔法を発動させた。


彼女の手のひらから淡い光が広がり、室内の空気がわずかに震える。

やがてそこに、若き日のアーゼラの姿が浮かび上がった。


幻影の中で、アーゼラは机に向かい書類に目を通している。

時折ふと手を止め、窓の外を静かに見つめるその横顔には、王宮の責務に向き合う者の覚悟と、どこか拭いきれない哀愁が同時に滲んでいた。


その静かな佇まいに、アリアは思わず心を打たれる。


「彼女はここで、常に何かを抱えていたのだと思います……」


小さく呟くと、アリスティアが頷いた。


「見て。彼女の手元にあるのは……黒い手帳じゃない?」


幻影のアーゼラが持つ手帳は、アリアが持っているものと同じように見えた。

彼女はその手帳に何かを書き込み、時折思索に沈むようにペンを止めている。


「この手帳には、きっと彼女の秘密が隠されているんですね」


アリアが呟くと、アリスティアは視線を鋭くしながら答えた。


「ええ。ここに残っている彼女の姿は真実そのもの。でも、それ以外の記憶の断片が削ぎ落とされていたのも確かね」


その言葉を聞き、アリアはゆっくりと息を吐いた。

胸の奥で、これまで曖昧だった疑念が一つの形を取り始めている。


そして彼女は意を決し、口を開いた。


「……実は、アーゼラ様の急逝は、単なる事故ではなかった可能性があるんです」


その言葉を聞いたアリスは、穏やかに微笑みながらアリアへ視線を向けた。


「やっと真実に辿り着く道筋が見えてきたわね。もう少しよ」


アリアは深く頷き、アーゼラの残した真実に向き合う決意を新たにした。

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