3-2-3 和気藹々
氷晶湖探索パーティー
(レイラ、エヴァ、シェリー、ルナ)
魔法の馬車の中でシェリーは窓の外へ流れていく景色を眺めながら、ふっと微笑んだ。
「ねえ、こんなに綺麗な場所なら、探索というよりピクニックでもしたいくらいね。お弁当でも広げて、のんびり湖を眺めたいわ」
「呑気だな。氷晶湖に近づけば、そんな余裕もなくなるわよ」
エヴァが冷ややかに返すが、その口調にはどこか棘がなく、わずかに肩の力が抜けている。
レイラがくすっと笑いながら続けた。
「でも実際、景色がいいのは事実よね。氷晶湖って、夜になると湖面が星空みたいに輝くらしいわ。風が止むと、本当に空が映り込んだみたいになるんだって」
「星空みたい……素敵ね」
シェリーは目を細め、その光景を思い描くように窓の外へ視線を戻した。
その横でルナが腕を組み、わざとらしく肩をすくめる。
「私は寒いのが苦手なんだよ。景色よりも、探索中に凍えないかどうかの方が心配だ。湖畔って想像以上に冷えるんだろ?」
「心配しないで。巨蟹の腕輪があれば、ある程度の寒さは凌げるでしょ? それに防寒具も用意してあるわ」
レイラが安心させるように微笑むと、ルナは渋々といった様子で頷いた。
やがてシェリーが思い出したように口を開く。
「エヴァ、これだけは聞いてみたかったんだけど。天秤の鎖って、相手の本音が分かるんでしょう? じゃあ今、私たちのこと、どう思ってる?」
エヴァは少し眉を寄せ、わざと真面目な顔を作った。
「……全員、お喋りが過ぎる」
一瞬の静寂のあと、四人は同時に吹き出した。
「ほら、やっぱりピクニック気分じゃない」
シェリーの言葉に笑い声がふわりと重なり、澄んだ湖面に小石を放ったときのように、ぱしゃりと軽く弾けた。
細かな波紋が幾重にも広がっていくように、その余韻が馬車の中をやさしく満たしていく。
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焦土の大渓谷探索パーティー
(ミーナ、エレイン、カリナ、ヴァイ)
馬車が規則正しく揺れる中、ミーナは天井に向かって大きく伸びをした。
「あー、退屈だ。誰か面白い話してよ。このままだと眠っちゃいそう」
エレインは呆れたようにミーナを見やる。
「そんなこと急に言われても思いつかないよ。これから渓谷に入るっていうのに、少しは緊張しなさい」
「じゃあ昔の冒険談は?」
ミーナが身を乗り出すと、ヴァイは少しだけ考え込んでから静かに口を開いた。
「森で大型の魔法生物と遭遇したことがある。逃げ場がなくて、仕方なく一人で倒したんだが……そのあと一週間ほど森の中で迷った」
「迷ったのかよ!森の守り手が?」
カリナが思わず声を上げ、次の瞬間には全員が笑い出す。
「その時の話、もっと聞かせてよ」
ミーナが興味津々で迫るが、ヴァイは苦笑いを浮かべる。
「ただの失敗談だ。武勇伝というには格好がつかない」
「十分面白いけど?」
ミーナが肩を揺らしながら言うと、笑い声はさらに広がった。
「それにしても、私たちのパーティーって防御力が売りだよね」
カリナが改めて呟く。「獅子の剣に白羊の盾、金牛の鎧まで揃ってる。並びだけ見れば鉄壁だ」
「確かにね」
エレインが小さく笑う。「このまま敵が全員、怖がって逃げ出してくれたら楽なんだけど」
ミーナは肩をすくめながら笑う。
「もしそうなったら、私たち、ただの頑丈なお喋り集団になっちゃうわね」
次の瞬間、腹の底からの笑い声が馬車いっぱいに響き、揺れる車輪の音すらかき消す勢いで、豪快な空気が一気に広がった。
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天頂の浮遊群峰探索パーティー
(サーラ、セレナ、シオン、フィー)
「ねえ、天頂の浮遊群峰ってどんな場所なんだろう?」
フィーが馬車の床に寝転びながら、天井を見上げて尋ねる。
サーラは膝の上の処女の書をめくりつつ答えた。
「浮遊する岩が幾重にも重なって、空中に道が続いているらしいわ。飛行魔法を使えないと探索は難しいって書いてある。足場も不安定で、常に風が吹き抜けているそうよ」
「となると、私の槍が活躍する場面がありそうですね」
シオンが穏やかに笑う。「風を切る技は得意です。頼りにしていいですよ、姫」
「頼もしいけど、あんまり突っ走らないでよ」
セレナが苦笑しながら釘を刺す。「あなたの勢いで全員が浮遊群峰から落ちたら困るんだから」
「そんなことはしないさ。たぶん」
シオンが肩をすくめ、フィーが「いや、そこ“たぶん”なの?」と笑う。
「でもさ、浮いてる岩の上って風すごそうじゃない?」
フィーが身を起こす。「そういう場所で戦うの、ちょっと怖いかも」
「だからこそ、サーラの風の御守りが重要になるわけよ」
セレナが淡々と答える。「私たちを守るために、準備は万全にしておいてね」
「もちろん。でも私の力を過信しないで。みんなで支え合わなきゃ意味がないんだから」
サーラは穏やかに微笑む。
「協力するのはいいけど、フィーはもう少し落ち着いてくれると助かるな」
シオンが冗談めかして言うと、フィーは頬を膨らませた。
「えー、真面目になったらつまらないじゃん」
重なる笑い声は風に乗る羽のように軽やかで、
弾むように馬車の天井へ跳ね返り、空へ向かってほどけていくようだった。
お喋りが一段落したところで、サーラはエーテルサインを取り出した。
「そろそろポール、例の場所でお願いね。遅れないように頼むわよ」
レイラの冗談めいた声がすぐに返る。
『了解了解。これで設置のプロって名乗ってもいいかもね?雪の中に隠してもバレない自信あるし』
その声にミーナも楽しそうに続ける。
『今度の崖もいい感じよ。完璧に隠してみせるから』
サーラはそのやりとりに思わず微笑む。
「ほんと、頼りになるわ。じゃあお願いね」
短くそう伝え、通話機を静かに閉じた。
穏やかな笑い声の余韻だけが、しばらく馬車の中に残っていた。
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やがてレイラたちの笑い声は自然と落ち着き、馬車の揺れと車輪の軋みだけが静かに響く。
窓の外では、遠くに白い光が淡く瞬きはじめていた。
それが湖面に反射する氷の輝きだと気づいたとき、誰からともなく視線が前方へと向けられる。
氷晶湖は、もうすぐそこまで迫っていた。
穏やかな空気をまとったまま、馬車はゆっくりとその領域へ近づいていく。
まだ風は静かで、空も高い。
だが、澄みきったその青の下で、氷の湖は何も語らず、ただ静かに彼女たちを待っていた。
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