3-1-17 三隊編成
静かな会議室に、十二人の女王候補たちが集まっていた。
円卓には大きな地図が広げられ、伝承において水竜・天竜・地竜が現れるとされる地域が、色分けされた印とともに示されている。
パーティー編成を任されたサーラは、わずかに緊張した面持ちで立ち上がり、自然と集まった全員の視線を一身に受け止めた。
「これから、伝説の竜を探すために三つのパーティーに分かれて行動するわ。
水竜、地竜、天竜を同時に探索する」
静かで、よく通る声だった。迷いはない。
作戦を提示する者の声音だ。
その瞬間、なぜかミーナの表情がわずかに曇った。
腕を組み、地図へと向けられた視線が鋭くなる。
「三つに分かれる、ですって?」
「ええ。各属性ごとに独立行動を取る。時間差で回るより効率がいい」
「異議あり」
場の空気が張りつめる。
ミーナは一歩前に出て、真正面からサーラを見る。
「どうして分けるの?相手は竜よ。話が通じなければ、その場で牙を剥くかもしれない。最初から万全の布陣で臨むべきじゃないの?」
声は荒れていない。だが、そこには戦場を知る者の重みがあった。幾度も実戦を潜り抜け、崩れる瞬間を見てきた者の言葉だ。
感情で反発しているわけではない。
彼女は常に最悪を想定し、その上で動く。
その視点を軽く扱えば、計画は破綻する。
サーラは、正面から受け止めた。
「確かに、説得が失敗すれば戦闘になる。
戦力を集中させれば一戦ごとの突破力は上がるわ。それは否定しない」
まずは認める。
「でも知っての通り、帝国と闇の女王の戦争は、予想を上回る勢いよ。出現地点を順に回れば、その間に戦線が拡大する可能性が高い」
地図の上に指を滑らせる。
「分散すれば一隊あたりの戦力は落ちる。それが最大のデメリット」
あえて先に言う。
「けれど同時進行なら、終結は早い。長期戦を避けられる。消耗も最小限に抑えられる」
ミーナの視線は揺れない。
「崩れた場合は?」
短い問いだが、軽くはない。
「各パーティーは独立戦闘可能な編成にする。最低限、単独で持ちこたえられる戦力を確保するわ。さらに救援導線も事前に決めておく」
即答だった。
理屈は整っている。
想定も甘くはない。
それでもミーナはすぐには頷かない。
その沈黙は、挑発ではなく確認だ。
机上の理論か、それとも覚悟を伴う設計か。
サーラは視線を逸らさなかった。
彼女に理解されない作戦は、成功とは言えない。
「……あなたが心配する点は、すべて想定に入れているわ」
静かな声で告げる。
虚勢ではない。逃げでもない。
ミーナはしばらく地図を見つめ、やがて小さく息を吐いた。
「……分かった」
完全な賛同ではない。だが、否定もしない。
「続けて」
張り詰めていた空気が、わずかに緩む。
議論は終わったのではない。
信頼の線が、一本引かれたのだ。
悟られぬように小さく息を吐き、サーラはそっと肩の力を抜いた。
「竜の性質に合わせて、それぞれ最も適したメンバーを選んだつもりよ。順番に説明するわね」
そう言うと、彼女は魔法の光で地図を三分割し、淡い輝きでそれぞれの探索地を示した。
最初に指し示したのは、青く縁取られた水域だった。
「まずは水竜探索のパーティー。リーダーはレイラに任せるわ」
レイラは無表情のまま静かに頷く。
「《宝瓶の壺》で水を操れば、船の移動も制御できる。足場の確保も問題ないわ」
その言葉に安心したように、数人が小さく息をついた。
サーラは続ける。
「同行するのは、エヴァ、シェリー、そしてルナよ」
「私が縛っておけば、竜でも簡単には逃げられないわ」
エヴァは《天秤の鎖》を軽く揺らし、硬質な音を響かせた。
「《双魚の鏡》がどこまで通じるか、正直まだ未知数だけど」
シェリーは柔らかな笑みを浮かべながらも、瞳には確かな決意が宿っている。
「水場なら任せてくれ。《巨蟹の腕輪》があれば、竜のブレスもある程度は防げるはずだ」
ルナの声は低く、落ち着いていた。
「水竜の探索は、この布陣でお願いするわ」
サーラは小さく頷き、次の区域へと視線を移す。
今度は、緑色に塗られた広大な大地だった。
「次は地竜探索のパーティー。ここはミーナにリーダーを任せる」
名を呼ばれたミーナは、《獅子の剣》を軽く構えて笑みを浮かべる。
「派手にやるのが私のやり方よ。地竜だって例外じゃない。任せて」
「同行するのは、エレイン、カリナ、そしてヴァイ」
「地竜が相手なら、《金牛の鎧》が役に立つはずよ。最前衛は引き受けるわ」
カリナは胸元の装甲を軽く叩き、確かな自信を見せた。
エレインは《白羊の盾》を静かに撫でながら、淡々と言う。
「やるからには、隙なく進める。それだけね」
「遠距離支援は任せて。地の果てだろうと、私の弓が届かない場所はないから」
ヴァイは《天蠍の弓》を軽く持ち上げ、その弦を確かめる。
「ミーナのチームなら、地竜もきっと仲間にできる」
サーラは穏やかにそう締めくくった。
最後に、地図の中央上空を示す金色の領域へと手をかざす。
「天竜探索のパーティーは、私がリーダーを務めるわ。同行するのは、セレナ、シオン、そしてフィー」
セレナは静かに頷く。
「風を司る竜なら、私の魔法が適しているはず」
《磨羯の籠手》が淡い光を帯び、静かな魔力が満ちる。
シオンは《人馬の槍》を肩に担ぎ、にやりと笑った。
「相手が天竜であろうと、姫の護衛はこの槍にお任せを」
フィーも軽やかに続ける。
「《双児の双剣》がうずうずしてるよ。どうせなら思いきりやろう」
サーラはわずかに微笑んだ。
「私も風のお守りを持っているし、天竜とは相性がいい。この編成なら、必ず見つけ出せる」
そして、全員の顔を順に見渡す。
「竜探しは、決して平穏じゃない。危険もある。でも、私たちが力を合わせれば、必ず乗り越えられるって信じてる」
室内に静かな緊張が満ちる。
その言葉を、誰もが胸の奥に刻んでいた。
こうして、伝説の竜を求める壮大な旅が、静かに幕を開けた。
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