第2話
祖導匠は焦っていた。
【日本支部東海班 ID:00294506・B級チームリーダー【金剛力】猪両行 謀反により懸賞金1憶円 危険度B】
(…僕のアカウントにも届くということは、僕自身には懸けられていないだろう。
だから…不可思議だ。猪は本当に謀反を起こそうとしていたのか。別の組織のスパイ…いや、それよりもまず猪の動向を…。
あぁ、駄目だ…。思考がまとまらない。瞑想で集中力を戻そう…。)
匠は、禅を組んで"無"になる。
(…この時間は落ち着く。)
意識して意識を無くす。徐々に意識が失われる中で途切れる瞬間、答えが出た。
一時間後、匠はゆっくり眼を開く。
(…そうだ、明日あの人に直接聞こう。)
ちょうど匠が就寝する時刻23:00だった。
2026/05/11 10:25、昨日来たばかりの東京、日本支部本部に辿り着く。
匠の気持ちは思った以上に落ち着き、支部長からの威圧感への緊張も薄い。
支部員をはじめ、魔術師たちも此方を見ながら耳打ちしているのが分かるが、そこは気にならない。
(…敵意もあるが大丈夫だろう。)
受付の担当をしている支部員に
「日本支部東海班 C級チームメンバー 祖導匠です。IDカードはこちらになります。
アポは取っていないのですが、支部長とお会いできないでしょうか?」匠がカードを見せて確認を取ってもらう。
「申し訳ございませんが、アポを取られていない方は…。」とカードを確認後、返却しながら怪訝な顔で言いかけた瞬間、受付の電話が鳴る。
「少々お待ちください…。」と匠に伝え、若干焦った様相で電話を取る。
「はい、承知しました。お通しさせていただきます。」支部員は匠を見直し、電話を切る。
「支部長がお会いします。11:00に面会しますので、それまで応接室で待機してください。」と支部員から匠に伝えられる。
「…承知しました。失礼します。」一言伝えると匠は応接室に向かう。
別の支部員に連れられ応接室に着く。
「こちらでお待ちください。」
支部員は、少し離れたところでお辞儀をして止まっている。
一瞬思考し瞬時にそれを隠すと、通された部屋に入り、ゆっくり扉が閉じられる。
同10:54頃、応接室のドアがノックされる。
「失礼します。面会の時間になりましたので、支部長室にお連れします。」
先程の連れてきた支部員が開けられたドアの前で待っている。
匠は軽く深呼吸すると立ち上がり支部長室に向かう。
支部長室に向かう途中、エレベーターの中で念話が送られてくる。
(貴方の考えていることは全て見抜いています。S級管理者【神眼師】でございます。これは裏切らないかのテストです。
思考の隠し方も上手いですが、まだまだです。"その通り。"とだけ伝えさせていただきます。)
匠は眼を閉じて軽い瞑想を行う。一息吐き出すと
(ありがとうございます。)とだけ念話で伝える。
エレベーターが最上階で止まる。
支部員は基本的に能力階級EかF(無能力)であることが多い。
ただ管理者は別だ。世界の支部員長は管理者で全てS級だという噂だ。
(強いな…。)そう感じた瞬間に
(では、裏切らないことです。)という念話を支部員長が無理矢理送ってきた。
「失礼します。C級 祖導匠をお連れしました。」
(では、お気をつけて。)匠のことを鼻で笑いそうになった支部員長を蛇九蘭鬼支部長は目を開いて見つめる。
「…大変失礼致しました。」少し怯えた様子で支部員長はヒールをわずかに鳴らして出ていく。
同11:00、「…どうした?」椅子に座りながら、まず蛇九支部長から声を掛けた。
体躯は猪より分厚くが威圧感、重厚感が別格だ。
重低音過ぎるといっても過言ではない声も特徴的だ。
「支部長のご本心を伺いに参りました。」匠ははっきりと声で伝える。
「ほぅ…B級 猪両行についてだな。」一瞬威圧感が薄まったが、蛇九支部長は真剣な表情で向き合ってくる。
「猪は本当に裏切ったのでしょうか?」匠もまた必至だ。
威圧感だけで意識が飛びそうになるのを堪えて発言している。
真剣な表情を解き、少しだけ表情が緩む。
「…正確には裏切っておらん。裏切りの芽を摘んでいるだけだ。」蛇九支部長は淡々と答える。
(その他にもあるがな…)椅子を回し目を細めて、ほんの少しだけ笑った。
「…悩んでいても答えは出ないぞ。」こちらを直接見抜いてほくそ笑んでいる支部員長と何も変わらない。
「…承知致しました。では、猪のことは私が殺しましょう。」真剣な眼差しで答える。
「…そうか。それもまた良しとしよう。…あまり考えすぎるなよ。それで良い。」少しだけ威圧感を高まっているが、匠は何故か安堵した。
「それでは、失礼します。」匠が部屋を出ていくのを見て、蛇九は思った。
(…これで良い。)そして蛇九は椅子の上で笑った。
同14:20、名古屋のマンションに帰宅後、机の上のメモ書きを見て驚く。
【記憶・思考の封印を一部解除、昨日の23:00以降だ。】
(…どういうことだ?だが、緊急だな。
記憶・思考の封印をチェック。
昨日の23:00以降の記憶・思考の封印を一部解除。
チェック、チェック、チェック。
記憶情報の統合。論理思考の統合。
行動、思考、想定の範囲内。
…やはりそうか、支部長は"何か"を隠している。
信用できない…。
行動の論理性を合わせるためにも、猪の拠点に行ってみるか…。
恐らくだが、【神眼師】でも名古屋拠点でなければ見れないだろう。
このメモに気づかなかった時点で。)
同16:21、猪の拠点に向かう際、何人かの魔術師もしくは強力な魔術がかかった人たちとすれ違う。
(…名の通った魔術師でなければ分からないし、僕の眼は念動力系だからな。
少し追ってみるか。)
住宅街から追っていくうちに公園の裏口に辿り着く。
5人ほどの老若男女が同じ入り口から同じ方向に歩いていく。
入り口に引っかかっている40代ぐらいの男性もいる。
(…かなり雑だな…)
よく見ると、男性は意識を失っているのか口から涎が垂れ眼前をまっすぐ見つめている。
「おにぃ、まだ見つからねぇのかよ!」男の怒号が放たれ、匠の耳に入る。
(…あれが本陣か…。
"視野乗っ取り"して様子を見るか。)
眼を閉じ、零体からの情報を共有しようとした時、
「…ん?誰だてめぇ!操られてねぇな。」
金髪のツンツン頭が声を掛けてきた。
匠は瞬時に判断し、
「おたくらも1億目的?俺も。チームはないけど。どんなもんかと思ってさ。」
と答える。
「チッ…。同業かよ。はよ帰れ!俺らのチームが貰…エぇ?」
後ろを向きながら、その金髪男は吐き捨てた…はずだった。
匠の眼は青白く強く光り、金髪男の心臓に後ろからナイフを立てていた。
心臓を抉り、こちら側に血が飛ばないように、念動力全力で口を押さえて血の涙を流している。
「オキテ…ハ…?」
金髪男は絶命した。
【藤田達夫 D級チームメンバー【霊剣】 享年24歳 死因:刺殺】
(…全力は相当、眼が疲弊するな。しんどっ…)
上がった息を整えて、達夫を脚を持って牽きづっていく。
用水路に金髪男を投げつける。
(まだ猪が見つかったという情報がない、急ぐか。)
数分歩いても、全く辿り着く気配がない。
(…この感じ、行きたいのに行けない。これだけの魔術師が探しているのに。
だが殆どC級以下っぽい。最大でB級かな?人払いの結界上級相当か。
…そういうことか!)
同16:42、匠はその場から離脱した。
同時刻、猪は耐えていた。
隠れ拠点の最上級。岐阜の牛小屋に居た。
(匠はどうしてっかなぁ。)
牛小屋の天井を眺めながら、枯草の上で寝転がっていた。
「猪ちゃん、晩御飯だよ。」優しそうなお婆ちゃんの声が聞こえる。
「あー分かっカ。今、行ク。」猪が答える。
そう、猪は耐えていなかった。
(こういうような生活がずっと続くのも良い。)
猪は本当にそう思っていた。
「婆ちゃん、唐揚げ食っていいカ?」
「ええょええょ。」
(匠、俺は生きているゾ☆)
唐揚げを口に放りながら、空を見上げる。
だが、身体には無数の傷跡があり、身体中が包帯で巻かれていた。
同18:24、匠は国際センターで人の流れに沿って歩いていく。
ふっと周りの空間がゆっくりと流れる。
不意に、道路を挟んだ道の三人組と目が交差する。
(…逃げるか…。)
そう思い、自然と何事もないようにまっすぐ歩いていく。
自然にコンビニに入ろうとした時、
肩に手が回る。
「どうして逃げるんだい?」
さっきの三人組だった。
「…誰?お金ならないんだけど。」匠はテキトーに答える。
「そうじゃねぇ、お前、猪の相方d…?」三人組のリーダー格が話し切る前に、腕から抜けようとし振り向いて投げ飛ばした。
一人にヒット。即座に退避を行う。
「チッ…、おい!逃がすな!」リーダー格が怒鳴る。
「痛ぇ…。」当たった男も立ち上がる。
「ちょ、待て!!」反応が遅れたが、一人追いかけていく。
(…死霊の数は契約上18体。ここで魔術師に恨みがある者は…二年前の…あいつか。
これは取っておくか…。いや、メイジも契約上使役解除してしまった。戦力的に今後キツいが能力が分からない。
≪でよ、我が契約者たちよ≫上限三体でマックス三体、"人自体を恨んでいる者"三体!)
走っている匠の周りに光円が三つ浮かび上がる。そして死霊三人が叫ぶ。
死霊が洋式甲冑を纏い剣を携えたアンデッドと化した、三人が零体として光円の中から這い出てくる。
(一人は防御で、残りは三人の内の追ってきている一人をまず狙え。)
同時にその一人も式神を使い、脚を止めにかかる。
無数の紙たちが集まり、脚を狙いに来る。
その式神たちを恨み火で消し去る。
(【式神使い】か相性は良い。)
そう思った矢先、頭上から五本の光矢が降ってくる。
(…できるだけ耐えてくれよ。)
光矢に向かいアンデッドが叫んだ。
恨み火を纏った剣で一本の矢はじき落そうとし、刃が欠ける。
(五本ならイケるか。)
そう思った折、二人のアンデッドが叫んだ。
(【式神使い】やったか。)
【鈴木奏斗 C級チームメンバー【式神使い】 享年23 死因:呪殺】
少し遅れてキャーッという女性の悲鳴が響き渡る。
(二人とも、戻ってこい。)
光矢の二陣目が来る。
同時に、リーダー格の男の叫び声が一本道中に響き渡る。
(この感じ、身体強化系。ビルの中に潜るか。)
死霊のアンデッド化の条件は現状三つ。
①契約書を破棄すること。
②30分のみであること。
③一回召喚したら、消えるまで戻すことができないこと。
(残り20分ちょっとか…。誘き出して戦うか。)
同18:39、リーダー男の叫び声がビル内部に響き渡る。
「弟分殺りやがって、ぶち殺したるわ。」怒りに震えている。
後ろで【光矢】を打ってきていたチームメンバーは怯えている。
人払いの魔具【低級】使用上限は5回。約120万円。
チンッ。エレベーターが1階で自動で開く。
「行くぞ。」(何か嫌な感じがする。)
行ける階数が最上階以外×とテープでなっている。
「舐めやがって!」怒りで周りが見えないリーダー男に光矢メンバー男は「逃げましょう、罠です。絶対。」
「もうどうしようもない!やるぞ!」最上階8階に到着する。
(上がってきたか、残り15分弱。契約書でも確認済。仕掛けも良好。)
最上階は空きのワンフロアになっていた。
「兄貴、すぐに出ちゃ駄目です!」
空いた瞬間、恨み火を纏った矢が数本飛んできた。
身体とナックルで叩き落し、
(この程度か…)とリーダー男は余裕を見せた。
「大丈夫だ、痛みは若干だ、行くぞ!」
光矢メンバーはまだ怯えている。
「どこだ!俺は B級チームリーダー【金剛力】 鷹見昭仁だ。お前などには負けんわ!」
リーダー男が叫び、光矢メンバーの身体がエレベーターの箱から出てくる。
その瞬間、「兄貴ーっ!!」光矢メンバーの身体は影に引きずり込まれ、
数分後、ガチガチっという骨が軋む音と声にならない叫び声がフロアを響き渡らせた。
【佐藤和人 D級チームメンバー【光矢】 享年17歳 死因:呪殺】
鷹見は歯をカタカタと小刻みに震え合わせながら、壁に寄り添って恐怖で頭を抱えて包まっている。
自分たちが殺される、という認識が全くなかったために耐性がない。
死ぬことも厭わない職業だが、狩られる側であるわけがないと思っていた。
影の中から匠の脚先が現れる。
鷹見のメンタルはほぼ無くなっていた。
【金剛力】の能力も解かれ、ただの細身の筋肉質の男と化していた。
「戦闘不能でいいな。」匠は鷹見に話しかけるが返事がない。
急に立ち上がると、這いながら壁伝いに窓を探した。
窓を見つけると、嬉しそうな顔で窓を開けて身を乗り出す。
「ハハハッ」と気が違えたような笑い方でそのまま落ちていった。
ハハハッハハハという笑い声が数秒遠退きつつ消え、ドンッという音と共に
【金剛力】の力が働き、鷹見昭仁は生き残った。全身複雑骨折、生涯病院生活となるのであった。
「…いつも強者とは限らない。そこは弁えて生きたいね。」
パトカーと救急車が大量出動することとなり、
名古屋駅から国際センター駅の間の突然心停止二人(うち一人身体の変形)・近辺でのビルからの自殺未遂、
鶴舞公園では用水路に捨てられていた刺殺体と名古屋が混乱する一日となった。
【2026/5/11 18:45 全員緊急一斉連絡 日本支部東海班 ID:00234567 C級→B級相当【ネクロマンサー】祖導匠
謀反/契約規約違反等により懸賞金10億円 危険度A(※但し、生け捕りのみとする。)】
同時刻、蛇九は支部員長を殴りつけた。
「…こうなったのも、責任はお前にもある。…急げ。」
S級支部員長【神眼師】神藤三鷹は怒りに怒りまくった。
資料を投げ、吠えた。「殺してやるわ 祖導匠!!」
[第2話完]




